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ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~  作者: 青空顎門
第2章 人間⇔少女化魔物

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137 〈千年五色錯誤〉

「ぐ、う……」


 矢尻が左手を貫いた瞬間、耐えるように呻き始めるルシネさん。

 だが、痛みに関しては、彼女自身が使用した祈念魔法によって遮断されているはず。

 これは、狂化隷属の矢によって強制的に暴走させられた影響によるものだろう。


「大丈夫ですか?」

「あ、ああ。大丈夫、だ。この感覚には覚えがある」


 俺の問いに少し苦しげな表情を浮かべつつも、しっかりと頷いて応じるルシネさん。

 アコさんは、暴走に慣れていないとまともに行動できないと言っていたが……。

 少なくともライムさんと真性少女契約(ロリータコントラクト)した少女化魔物(ロリータ)として、あの事件の中で長らく暴走状態を保ち続けていた彼女であれば、問題なく制御できているようだ。

 一先ず安心した。


「手順を確認しておこうか」


 そんな俺とは対照的に、アコさんは特に心配した様子もなく口を開く。

 経験則から異常は生じないと確信していたのだろう。


「まずイサクが封印の注連縄を解き、それによって再び暴走(パラ)複合発露(エクスコンプレックス)が発動した状態となった相手を抑え込む。その隙にルシネが(アーク)暴走(パラ)複合発露(エクスコンプレックス)で精神に干渉する」

「言葉にすると単純明快ですね」


 既にこの場に特別収容施設の職員達はいない。特別収容棟の方に避難している。

 祈望之器(ディザイアード)封印の注連縄の影響下から脱すれば、たちまち対象は第六位階の身体強化を発動させて暴れ回ろうとすることだろう。

 そうなると、いくら武闘派の少女化魔物と言えど安全は保証できない。

 作戦の内容的にも、この三人、いや、俺とルシネさんだけでこと足りる話だ。

 成功率を高めるには、職員達はいない方がいい。

 アコさんは、さすがに施設長としての責任感があるからか、この場に残って見届けるつもりのようだが……。


 五百年もの月日。救世という使命に己を捧げた者達の一人だ。

 こんなところで軽率な真似になるようなことをするはずがない。

 万が一のことがあっても、彼女は問題ないと考えていい。


「イサク。私が頼んでおいて何だが、やれるか?」


 そうこう考えていると、ルシネさんが念入りに確認するように尋ねてくる。

 彼女は俺が実際に戦っているところを目にしたことがなく、実力の程が分からないのだから、心配になるのは無理もないことだ。

 こればかりは、言葉を重ねるだけでは本当の意味で信を得ることはできないだろう。


 ……とは言え、この程度の問題で一々悪戦苦闘していたら先が思いやられる。


「数秒、相手の動きを止めればいいんですよね? 任せて下さい。これでも救世の転生者ですから」


 だから俺は、自信を示すように胸を張って答えた。

 一体ずつなら十二分に余裕を持ってやれるはずだ。

 勿論、直接的な戦闘能力に乏しいだろう二人の安全にも可能な限り配慮した上で。


「じゃあ、始めます」


 そうして俺は、特別措置室中央に置かれた檻に近づきながら告げた。

 それに応じて……。


「ガアアアアアアアァッ!!」


 この状態の行動としては当たり前過ぎて俺達からはスルーされていたものの、この広間、特別措置室に連れてこられて以来ずっと上げ続けていた唸り声。

 それが一層激しくなる。

 更には、俺が封印の注連縄の前に立つと、ワームの上位少女化魔物(エイペクスロリータ)たる彼女は鉄格子を掴んで力任せに破壊しようとするように激しく揺らし始めた。

 理性を失った表情と相まって恐ろしい姿だが……。

 どこか助けを求めているように見えなくもない。


「……もう少しだけ、我慢して下さい」


 そんな相手にそう静かに乞いつつ、今も彼女の力を封じている注連縄に手をかける。

 それから俺は、結びを解く前に(アーク)複合発露(エクスコンプレックス)万有(アブソリュート)凍結(コンジール)封緘(サスペンド)〉を発動させた。

 勿論、まだ封印の注連縄の効果は健在。

 内部に干渉することはできない。

 故に、内ではなく外。俺自身と檻とを包み込むようにドーム状の氷を生成した。

 封印の注連縄を解除した瞬間、巨大なワームと化して暴れ出すであろう相手がアコさんとルシネさんを傷つけたりしないように時間を稼ぐために。


「ルシネさん! 準備を!」


 そしてドーム状の氷の中から呼びかけ、ほぼ同時に封印の注連縄を解く。

 瞬間、ワームの上位少女化魔物たる彼女の体は急激に肥大化していき、金属製の檻を埋め尽くしたかと思うと容易く破壊してしまう。


「っと」


 当然、そのまま続けて、氷に覆われたこの空間もまた巨大化するその肉体によって隙間なく満たされることは容易に想像できる。

 第六位階の身体強化が施された肉塊に押し潰されてしまったら一溜まりもない。

 弾き飛ばされた鉄格子を避け、即座に氷の壁に小さな通り道を作って脱出する。

 直後、ドームの中はワームの体でギチギチになり、氷が軋みを上げ始めた。

 やはり、俺単独だと上位少女化魔物の暴走・複合発露を完全に無力化することはできないようだ。以前試みて失敗したように、凍結で封じ込めることも不可能。

 やがて氷に小さな亀裂が入り、それが徐々に大きくなっていく。


「だ、大丈夫か?」


 その様を目の当たりにして、ルシネさんは心配そうに問うてきた。


「大丈夫です。動きを止めるだけなら、いくらでもやりようはありますから」


 それこそ数秒、数十秒と言わず、何時間、何日でも。

 たとえ七人全員を相手取ろうとも、身動きできなくするだけなら容易い。

 ただ、ウラバでそんなことをしても何の解決にならなかっただけのことだ。

 この対処だけのために、曲がりなりにも救世の転生者である俺が拘束され続けては本末転倒にも程がある。


「ルシネさんが力を行使できる十分な猶予を作ります。この人を救って上げて下さい」


 堂々と告げたルシネさんへの言葉が合図となったかのように、氷のドームが粉々に砕け散って巨大な芋虫の如き存在が姿を現す。


「グルアアアアアアアッ!!」


 かと思えば、その巨躯をそのままこちらに叩きつけんと大きく体全体を振り上げ――。


「そうはさせない」


 上半身を振り下ろそうとするより早く、俺は太く巨大な氷の柱を無数に作り出した。

 相手に絡みつかせるように組み木の如く配置し……。

 精神干渉は基本的に互いの互いによる認識が必要であり、遮蔽物があると効果を発揮しないため、頭部だけは露出させた状態で雁字搦めにする。


「凄い……」


 それを見て、ルシネさんが感嘆の声を出す。

 さながら氷の拘束具だ。

 しかし、当然ながら相手もそれを甘んじて受け入れたままでいる訳がない。


「ガアアアッ!!」


 彼女は力任せに束縛から逃れようと、その体躯を暴れさせる。

 強度としては上位少女化魔物による暴走・複合発露がやや上回っている。

 そのため、接触している氷の柱が一本ずつ砕かれていくが……。


「残念」


 砕かれた傍から新たな氷の柱を生み出し、再度動きを封じ込める。

 完全に凍結して活動を停止させる訳でもなければ、最低数十秒は耐えることのできる氷を無限に再生成して配置していけばいいだけのことだ。


「ルシネさん!」

「任せろ」


 氷の牢獄から何とか脱出しようと試みる胴体を押さえつけ、露出した頭部は空間の同じ座標に固定するように保つ中、その前にルシネさんが進み出る。

 悪魔(シャックス)の少女化魔物たる彼女は、即座にコオノトリと人間の中間のような姿へと変じ、自身の(アーク)暴走(パラ)複合発露(エクスコンプレックス)千年(ラスティング)五色(オーバーライト)錯誤(パーセプト)〉を発動させた。

 そして。

 ルシネさんの自己申告通り、数秒後。


「グルアアアア、アア……ア……ァ」


 暴走するままに叫び続けていた声が弱まり、それと共に肥大化した体が萎んでいく。

 合わせて氷の柱の形状を変化させ、拘束を維持したまま小さくしていくと……。


「成功、したみたいですね」


 最後には、檻に入っていた時と同じ濃い茶髪の少女が氷を背に横になっていた。

 どうやら精神干渉を受けた反動で意識を失ったようだ。

 安堵し、ホッと一つ息を――。


「よし。じゃあ、次だ」


 吐く前にアコさんがそう言うと、奥の部屋から再び職員達がやってきてワームの上位少女化魔物を連れていき、また別の被害者を運んできた。


「狂化隷属の矢を使用している時間は短い方がいいからね」


 それは確かに。

 まずは一人どうにかなったからと言って、そこで呑気に気を緩めていられない。

 アコさんの言うようにルシネさんの負担が大きいし、それに加えて今正に苦痛の中にある者達を早く救ってやらなければならないのだから。

 そして全く同じように。

 身体強化状態では人間よりも大きな体となるトロールの上位少女化魔物三人とウロボロスの上位少女化魔物一人を鎮静化していく。

 残るは――。


「さて、後はサラマンダーとグールの少女化魔物だね」


 この二人に関しては確か人間大の大きさだったはず。

 基本的には同じ方針でいいはずだが、的が小さい分だけ面倒があるかもしれない。

 ルシネさんと彼らの間に遮蔽物があってはならない以上は。

 サイズ差が不測の事態を生まないか慎重に吟味する必要がある。


「この調子で最後まで頼むよ、イサク」

「はい」


 だから俺は起こり得る状況を脳裏に思い浮かべながらアコさんの言葉に頷き、まず先に運ばれてきたグールの上位少女化魔物の前に立ったのだった。

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