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ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~  作者: 青空顎門
第2章 人間⇔少女化魔物

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132 お手上げ

「けど、人間が少女化魔物(ロリータ)になるなんて……」

「信じられない気持ちは分からないでもないけどね。実は過去に事例もある話なんだ」

「え? そう、なんですか?」


 それは初耳だったので驚く。

 まさか前例があるとは。


「前提として、少女化魔物というものが本来、思念の蓄積によって人間に次ぐレベルの観測者に至った存在だということは当然知っているよね?」

「はい。勿論です」


 念のため、という感じのアコさんの確認に頷きながら答える。

 それはこの世界の常識だ。

 この「人間に次ぐ観測者」というところが少々面倒なところであり、彼女達を下に見る人間至上主義者のような存在が生まれる原因の一つでもある。


「勿論、観測者としての格と、実際に少女化魔物が初期状態で持っている知性、知識の程度はまた別の話だけれど……」


 その上で。

 アコさんが補足したように、時折魔物に毛が生えた程度の知能しかない少女化魔物が現れることも一層、人間至上主義者達が頑なになることに拍車をかけている。

 もっとも、そんな少女化魔物でもちゃんと教育すれば然程時間もかからず人間並みになるし、不老であるが故に最終的には人間より先の領域に達する可能性もある訳だが。

 盲目になった彼らは、その事実からは目を逸らすのみだ。


「まあ、これは余談だね」


 脇道に逸れた俺の思考も含めるようにタイミングよく告げた彼女は、ここからが重要と強調するように少し溜めてから再び口を開く。


「少女化魔物は魔物が変化して生まれるのが基本。でも、時によっては動物から変化したり、何もないところから生まれたりすることもある。まあ、厳密には、いずれの場合もプロセス的には魔物化という工程が間に入っているんだけどね」


 恐らく、思念の蓄積が余りに急激だと一足飛びに最後の段階に至り、直接的に少女化魔物が発生しているように見えてしまうのだろう。


「そのプロセスは、人間に発生してもおかしくはない。思念が蓄積しさえすれば」

「それは、そうなのかもしれませんが……」


 大まかには理解できなくもない理屈ではある。

 だが、どうにも違和感が拭えない。モヤモヤする。


「まあ、釈然としないのは分かるよ」


 その辺の微妙な気持ちを俺の表情から読んだのか、苦笑しながら言うアコさん。


「人間の方が上位の観測者なのに、下位の観測者である少女化魔物になるのは道理に合わないと思っても不思議じゃないからね。あくまでも例外だと思っていいよ。便宜上は同じく少女化魔物と呼んでいたけど、似て非なるものだし」


 彼女は、俺もハッキリと言葉にできなかった違和感の正体を即座に言い当てた。

 それはこの世界の常識に基づいた考え方ではある。

 とは言え、少女化魔物であるアコさんを前に「はい」と何も考えずに頷くのは、増長した人間の考えのようで躊躇われるが……。

 恐らく、長く生きた中で過去にも似たような話をしたことがあるのだろう。

 彼女はそのまま、特に気にした様子もなく続ける。俺も話に集中しよう。


「実際、そういう共通認識が確立しているから、大多数の観測者の思念(・・・・・・・・・・)()蓄積してという形では(・・・・・・・・・・)、この現象は起きない。念のため、人間が少女化魔物のようなものになる可能性があることは秘匿され、共通認識に至らないようにしているしね」


 であれば、今まで耳にしたことがなかったのも頷ける。

 現実にそうした相手と対峙することがない限り、救世の救世者が必ずしも知っておかなければならない情報ではないと判断されたのだろうが……。

 今はそんなことはどうでもいい。


「だから、人間至上主義者達はあんな真似をした訳ですか」


 アコさんの複合発露(エクスコンプレックス)命歌残響(アカシックレコード)〉の力で追体験した光景を思い浮かべ、嫌悪で眉をひそめながら言う。


「そう。人間を変化させるには、そうなるはずがないという共通認識を遥かに凌駕する思念の蓄積を個人レベルでなす必要になる。その答えが感情の過剰な爆発さ」


 本来、少女化魔物が生まれるのに、仮に一万人が一ずつ思念を蓄積する必要があるとする。しかし、共通認識によって人間には万人から思念が集まってくることはない。

 ならば、一人が自分自身に対して一万の思念を積み上げることができれば、似たような現象を起こすことができるかもしれない。

 人間原理に基づく摂理がこの世界の根底に存在するという事実を念頭に置けば、そうした推測を持つ者が現れても不思議じゃない。


「だからって、あんな……」


 非道な真似が許されるはずがない。

 思いつくことと実行に移すことは全く別次元の話だ。

 挙句、手に負えなくなって、己の所業を隠蔽するために石化した。

 それが事件のあらましだったのだろうが、余りに身勝手過ぎる。


「まあ、一口に感情の爆発と言っても、存在に変化を生むレベルとなると生半可なものじゃない。それこそ拷問染みた手法でもなければ、不可能に近いだろうからね。」

「……それは、精神干渉系の祈念魔法や複合発露とかじゃ駄目だったんでしょうか。例えば、一定の感情だけを昂らせるとか」


 勿論、それはそれで外道もいいところだ。

 しかし、苦痛がない分まだマシな気がするのだが。


「あのね、イサク。そんな細かな精神干渉を祈念魔法で行うのは、並の人間にはできないよ? ヨスキ村を基準で考え過ぎちゃ駄目だよ」


 どうやら、またやってしまったらしい。

 過大評価も過小評価も判断を誤る要因だ。気をつけなければ。

 皆が皆、ヨスキ村の人間のように祈念魔法全般に優れている訳ではないのだから。


「それに、精神干渉系の複合発露だって希少だし。結局あのやり方が手っ取り早かったんじゃないかな」


 確かに。それなりにこの世界を生きて、精神干渉系の複合発露を持つ少女化魔物に出会ったのは一回のみ。そうそう都合よく確保できないだろう。

 そう考えると、人間至上主義者達が取れる選択肢は少ないか。


「何より、今回はどうやら特定の複合発露を欲してたようだからね」

「毒の治癒、ですか」

「あるいは、状態異常全般を治癒できる複合発露が欲しかったのかもしれない。複合発露による毒は解毒薬もないし、理屈で分解できるものじゃないから」

「組織の中に、何かしらの状態異常に苦しむ人間がいたとか?」

「分からない。私達の印象は最悪だけど、あの組織は一応人間のためという大義名分を掲げているからね。彼らなりに聖女不在の現状を憂いていたのかもしれない」


 聖女。第六位階の治癒能力を持つ者。

 確かに人為的に生み出せるのであれば、その利益は計り知れない。

 多少の犠牲はやむを得ないと考えてしまう者が出てきてもおかしくはない。


「まあ、結果はこのあり様だった訳だけど」


 毒へとカウンターとして彼らが望んだのは身体強化。毒の効かない体。

 苦痛のさ中にあっては、さもありなんというところか。

 もし俺が似た境遇に陥ってしまったとしたら、同じように身体強化を得て、自分をそんな目に遭わせた存在をぶちのめしたいと思うはずだし。


「過度に感情を爆発させたら、そのまま暴走状態に移行することは想像に容易いだろうに馬鹿な奴らだよ。何にせよ――」

「それが同じ複合発露を持つ暴走少女化魔物が七人も同じ場所で発生した理由……」


 アコさんの言葉を引き継ぐように言うと、彼女は深く頷いて肯定した。


「そして、救世の転生者であるイサクが単独で第六位階の凍結を使用しても、一時的にしか動きを止められなかった理由でもある」

「どういうことですか?」

「さっき言ったろう? この子達は少女化魔物に似て非なる存在だって。観測者として上位であるはずの人間が変化したイレギュラーなんだからね」


 未だ檻の中で暴れ続ける被害者達へと視線を向けながら、アコさんは続ける。


「だから、少女化魔物に似た存在でありながら上位の観測者のままなんだ。私達の間では上位少女化魔物(エイペクスロリータ)なんて呼んでるけど」

「上位少女化魔物……」

「うん。そんな上位に位置する観測者が暴走状態にある訳だからね。その複合発露が常識外の強さを持っていても不思議じゃない」


 成程。

 そういうことなら凍結に手間取ったのも理解できる話だ。

 この人達が置かれた状況もおおよそ分かった。

 後は暴走を鎮静化する方法だが……。


「アコさん。暴走の原因からすると、この人達を救うのは困難なのでは?」


 基本的に、暴走の鎮静化は原因を解消してやるのが理想的なやり方だ。

 今回のケースだと犯人を処罰するのが最善だが……生半可な形では彼らは納得できないだろうし、そもそも元凶が石化している状況では不可能な話だ。

 残るは強引な手法。力の差を見せつけて心を折るぐらいのものだが、毒という苦痛の果ての暴走である以上、逆効果になるのは目に見えている。

 頑なに抵抗を続け、死に至るだろう。

 正直言って、このままでは暴走を鎮められる気がしない。


「そうなんだよね」

「そうなんだよねって……」

「最初に言ったじゃないか。面倒なことになっているって。正直、お手上げだ」


 実際に両手を軽く上げながら、アコさんは深く嘆息して目を閉じる。

 俺より遥かに長くこの世界を生きていた彼女でさえ術がないと言うのなら、こうやって独居房の中に閉じ込めておくしかないのか。

 救世の転生者などと言いながら、何もできないのか。

 互いの間に降りた沈黙の中、そんな風に無力感を抱いていると――。


「正攻法ではね」


 アコさんは、どこか不本意そうにそうつけ加えた。

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