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ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~  作者: 青空顎門
第2章 人間⇔少女化魔物

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128 特別収容施設ハスノハ

「ふう」


 大小七つの氷塊の傍で小さく息を吐く。

 既にサユキは影の中に引っ込み、今は傍に人の姿はない。

 父さんと母さんは少し離れた場所で、シニッドさん達と共に他の斡旋所から依頼を受けて包囲に参加していた補導員達と事後処理について話をしている。

 俺も一応プロの補導員なので本来なら参加すべきだろうが、両親から凍結の状態を監視していて欲しいと言われて二人に任せる形になっていた。

 まあ、形としては俺達は同じ補導員事務局から依頼を受けたようなものだから、特に問題はないだろう。


「ふわ……あ……あぁ」


 しかし、海外出張を含め、本当に慌ただしい一日だった。

 それでも感覚的に体はまだまだ大丈夫だろうと思っていたのだが……やはりと言うべきか、疲労は確実に蓄積していたらしい。

 少し気を抜くと、つい欠伸をしてしまった。


「っと」


 緊張感に欠ける行動を無意識にしてしまった自分に気づき、慌てて姿勢を正す。

 一応、氷塊に異変があればすぐに察知できるが、ちょっと体裁が悪い。


「大丈夫か? イサク」


 と、傍に戻ってきた母さんが、心配そうに顔を覗き込みながら問いかけてきた。

 どうやら欠伸をバッチリと見られてしまっていたらしい。

 恥ずかしい限りだ。


「大丈夫、大丈夫。それより、話し合いは終わったの?」

「うむ。恙なくな」

「結構早かったね」

「……まあ、既定路線の確認だけじゃからな」


 とは言え、各々別の斡旋所から依頼を受けている以上は、分かり切ったことであっても合意形成は必要だろう。

 後々妙なトラブルに巻き込まれないためにも。


「この子達は収容施設に入れるんだよね?」

「そうだ。学園都市トコハにある特別収容施設ハスノハにな」


 俺の確認に対し、同じく戻ってきた父さんが肯定と共に補足を入れる。

 収容施設は、おおよそ少女化魔物(ロリータ)用の刑務所と言い換えてもいい。

 基本的には、罪を犯した少女化魔物が刑に服するための施設だ。

 勿論、ホウゲツ各地に存在するが……第六位階の複合発露(エクスコンプレックス)を持つ少女化魔物を収容する場合は、当然ながら特別な設備を有する施設でなければならない。

 それが学園都市トコハにあるホウゲツ最大の収容施設、特別収容施設ハスノハだ。


 ……もっとも、少女祭祀国家ホウゲツでは補導前の罪は余程のことがない限りは免ぜられるため、今回は罰則としての収監、収容ではない。

 暴走したままの少女化魔物の鎮静化のために、その設備を利用するだけだ。


「さて、後は妾達がこの者達を搬送するから、イサクはもう帰って休むといい」

「え、でも……」

「ランブリクまで行って疲れてるだろう。顔に出てるぞ」


 父さんの言葉に、思わず頬の辺りを確かめるように触る。

 ちょっと眠気があるのは置いておくとして、そこまで疲れているつもりはないが、やはり親には子供の微細な変化が分かるものらしい。

 もしかすると、氷漬けとなった少女化魔物達を監視していて欲しいと言ったのも、体裁を保ちながら俺を休ませるためだったのかもしれない。

 とは言え――。


「俺だって補導員だし、この子達をこんな状態にした責任もある。一緒に行くよ」


 既に二十分以上経過しているから大丈夫だとは思うが、万が一ということもある。

 収容を見届けるまでが仕事だ。

 ここで帰っては信用問題になりかねない。

 ……特別収容施設も一度は見ておきたいし。


「しかしじゃな。さすがに今日ばかりは働き過ぎじゃろう」

「お前ら。気持ちは分からないでもないが、さすがに過保護が過ぎるぞ」

「イサクは一人前の補導員です。そして補導員として」「一度自分の意思で引き受けた仕事は最後までやり遂げる義務があります」


 子煩悩な親として尚も俺を心配する母さんに対し、いつの間にか近くにいたシニッドさんとウルさん、ルーさんが補導員としての立場から呆れたように告げる。

 第二次性徴前の外見がネックになることが度々あるだけに、ちゃんと一人前の補導員として扱ってくれるのは嬉しいものだ。実力を認めてくれている感があって。

 これが前世の記憶を持たない子供なら、過剰に心配する両親を鬱陶しく思ってシニッドさんに変に懐いてしまうかもしれない。

 とは言え、俺も思春期の年齢は二度目。

 たとえ今回はこちらの意見が多数だったとしても、当然ながら両親への感謝の気持ちを忘れるつもりはない。それもまた愛情の証なのだから。


「ふん。お前達とて子供を持てば、妾と同じにようになるじゃろうよ」


 母さんは不機嫌そうに鼻を鳴らしてからシニッドさん達に捨て台詞を言い、それから俺を振り返って一拍置いてから口を開いた。


「……まあ、仕方あるまい。じゃが、終わったらすぐに帰って休むのじゃぞ」

「うん。分かってる。心配してくれてありがとう、母さん」


 俺の素直な返答に母さんは少し驚いてから仄かに寂しげな微笑を浮かべ、しかし、すぐに気を取り直すようにニュートラルな表情に戻しながら今度は父さんに顔を向ける。


「さて、そうと決まれば早々に済ませてしまおうぞ。妾もいい加減疲れた」


 交替でとは言え、半日もの間、相手を殺さないように細心の注意を払いながら戦い続けていたのだ。疲労を感じているのは間違いないだろう。

 ただ、ちょっと疲れたとアピールするジェスチャーがわざとらしい。

 それを殊更口にしたのは、俺に対する配慮のような気もする。

 無粋にも程があるので指摘するような真似はしないが。


「ああ、そうだな」


 苦笑気味に応じる様子を見る限り、父さんもその辺り察しているようだ。

 さすがは夫婦というところだろう。

 その父さんは表情を仕事中のものに戻すと、俺に体全体を向ける。


「イサク、この子達は俺の影に入れていくから、お前は俺の後をついてきなさい」

「え? ……あ、うん。そうする」


 一瞬、俺も一緒に父さんの影に入った方がいいのではないかと思ったが、そうすると色々と面倒なことになりかねないので即座に考えを改めて指示を受け入れる。

 影の中では、更にまた影の中には入れない。

 サユキ達全員、俺の影から出てこざるを得なくなる。

 世界最悪の人形化魔物(ピグマリオン)ガラテアの体であるテアも含めて。

 さすがに彼女の存在は如何に父さん、母さん相手でも明かすことはできない。


「影に一緒に入った状態で凍結が破れたら、サユキ達に危険が及ぶかもしれないからな」


 もっとも、父さんはそこを心配して指示を出したようだったが。

 実際、第六位階の身体強化と生身で対峙するのは、彼女達には厳しい。

 どちらにせよ、俺達は父さんの影の中に入るべきではない。


「父さん達は大丈夫?」

「母さんもいるし、シニッド達やガイオ達にも見張って貰うから大丈夫だ」

「分かった」


 EX級補導員とS級補導員がそれだけいるなら何も心配いらないだろう。

 いざとなれば空中で影から放り出して貰って、俺がまた一人一人凍結すればいい。

 彼女達に飛行能力はない以上、他の補導員の協力がなくとも可能なはずだ。


「よし。準備できたな」


 そして七つの氷塊を父さんの影に入れ、母さん達も後に続いたのを見届けてから。

 (アーク)複合発露(エクスコンプレックス)火炎(レッド)巨竜(ギガ)転身(ドラゴナイズ)〉を父さんが使用したのに合わせ、俺もまた〈裂雲雷鳥(イヴェイドソア)不羈(サンダーボルト)〉を発動させる。


「じゃあ、行くぞ。イサク」

「うん」


 父さんの合図で空へと浮かび上がり、そのまま学園都市トコハへと翔ける。

 いくら〈裂雲雷鳥・不羈〉でも最高速度は父さんの〈擬光転移(デミライトナイズ)〉に敵うはずがないが、長距離移動となると大差ないようだった。

 己が身を光と化し、恐るべき速度で移動するその複合発露。

 光に匹敵する速度であるだけに、調整を誤れば空の彼方へと飛んでいってしまう。

 結局、移動手段として使うには小刻みに発動して進んでいくしかないのだ。


「……全く、お前ら反則もいいところだな」

「本当にな」


 ウラバを出発して数分後。

 何ごともなく学園都市トコハ上空に至り、速度を大幅に緩めたところで、シニッドさんがどこか呆れたように言う。ガイオさんの同意も耳に届く。

 彼らもその身体強化系の真・複合発露を使用すれば並の移動手段を遥かに超える速度を出せるが、さすがに俺や父さん程のスピードにはならない。

 速ければ速い程、移動時間を短縮できる上に行動範囲も広くなる訳だから、羨ましく思うのも無理もない。

 移動のための移動時間程、無駄なものはないのだから。


「さて、こっちだ」


 とにもかくにも、こうして目的地の近くに到着し、俺達は父さんの先導で高い塀に覆われた施設の重々しげな門の前に降り立った。

 建物に遊びはなく無機的で、正に刑務所という感じの様相。少し緊張してしまう。

 そして父さんが守衛のところに行き、しばらくすると……。


「おっと、施設長直々のお出迎えか」


 五名の少女が奥から歩いてきて、影から出たシニッドさんがポツリと呟く。

 その近づいてくる彼女達。見たところ全員少女化魔物だ。

 皆一様に大正時代の頃の警察のような詰襟の制服を着ているが、先頭の子はその上から色鮮やかな羽織を羽織っている。

 施設長というのは彼女のことだろう。

 体は小柄だが、紫色の瞳を持つ目は鋭く、厳しそうな印象を受ける。

 同じく紫色の髪は基本的に肩までかかる程度の長さだが、揉み上げだけが腰の辺りまで伸びているのが目につく。

 いずれにしても、刑務所のような立ち位置の施設の長。

 厳格な人物だろうと背筋を伸ばすが――。


「やあやあ、お待ちしていたよ」


 にこやかに挨拶され、少し拍子抜けする。


「おっと、そちらの子達は初めましてだね。私はアコ。アコ・ロリータ。この特別収容施設ハスノハの施設長だ。以後お見知りおきを」


 そのアコさんは俺とガイオさん達に対して軽く頭を下げて言ってから、特に俺に対して意味ありげな目配せをしてきた。

 一瞬緩んだ気持ちが一気に引き締まる。

 ……この人、俺が救世の転生者だと知っているな。

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