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ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~  作者: 青空顎門
第2章 人間⇔少女化魔物

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121 帰国

 その後、ポーランスの入国管理局で依頼の完了報告と出国手続きを終えた俺達は、発着場から(アーク)複合発露(エクスコンプレックス)裂雲雷鳥(イヴェイドソア)不羈(サンダーボルト)〉を発動させてホウゲツへの帰路についた。

 ちなみに依頼の完了報告は、サウセンドを発つ前にアグリカさんからサインを貰った依頼書を提出することで済ませている。

 その際に貰った確認書類を、ホウゲツ学園の補導員事務局に戻ってからルトアさんかルーフさんに渡せば、一先ず俺の仕事は事務処理も含めて完了だ。


「……折角ランブリクまで来たんだから、あっちの国境まで行ってみたかったけど」


 人気のない海原の上空。

 進路を真っ直ぐ学園都市トコハへと向けながら、少し後ろを振り返って呟く。


 アクエリアル帝国やフレギウス王国との国境。

 そこには、両国からの干渉を防ぐためにショウジ・ヨスキによって設置されたと言う第六位階相当の超巨大祈望之器(ディザイアード)があるらしい。

 その名も万里の長城。

 転生者である俺には聞き覚えのある名前だが、勿論、元の世界のそれとは全く異なるものだ。そもそも位置も形状も違う。

 イメージ先行で名づけられたのだろう。


「確か光の壁みたいになってるんだよな? 万里の長城」

「はい。一万キロ弱にわたって作られた城壁が成層圏まで届く光の壁を生み出し、外敵の侵入を防いでいます。その光には精神干渉の効果もあり、侵略の意思も奪うとか」


 俺の問いに応え、影の中からイリュファが補足を入れる。

 恐らく、ショウジ・ヨスキがそういうものとして人々が共通認識を持つように仕向けたのだろう。祈念魔法を世界に定着させたように。

 結果、第六位階の力を持つ程の祈望之器となった訳だ。


「ちょっと見てみたかったな」

「今回はあくまで仕事での短期間の入国ですので」

「分かってる。勝手に行ったら国際問題だもんな」


 祈望之器万里の長城の近辺は、許可のない立ち入りを禁止されているとのことだ。

 光の壁に直接触れれば、第六位階上位の身体強化でも発動していない限りは即死するそうだから、さもありなんと言うべきだろう。

 しかし、英雄ショウジ・ヨスキの謎の依怙贔屓の証だけに興味深い。

 もし今後ランブリクに長期滞在するような仕事があったら、見学できるようにトリリス様に頼んでみるのもいいかもしれない。


 そんなことを、何の気なしに高度を微妙に変えて飛行しながら考えていると……。


「それより、あのロジュエって子、大丈夫なのかしら」

「私も気になりますです。ホウゲツだと補導前の罪は問われないはずですが、です」

「あの子達って普通に生活してたもんね」


 フェリトとリクルが心配そうに言い出し、サユキもまた軽い口調ながら追従する。

 当然ながら、ホウゲツとランブリクは別の国である以上、法律もまた異なる。

 さすがに他国の法律までは詳しくないが、少なくとも少女祭祀国家と呼ばれる程に少女化魔物(ロリータ)を優遇しているホウゲツより厳しいのは確かだ。

 それでも、裏で売買まで行われているフレギウス王国や、皇帝の下で等しくとは言え道具の如く扱われているアクエリアル帝国よりマシではあるだろうが……。

 根本的な原因が別にあるとは言え、あれだけの影響を及ぼしたにもかかわらず、何のお咎めもなしとはできないのは間違いない。


「あの子の暴走(パラ)複合発露(エクスコンプレックス)の射程が十キロ。宝石化してた領域が大体半径三十キロ。暴走した地点が果樹園から割と近い位置」


 影の中にいるので見えないが、指折り数えている姿が思い浮かぶような間の取り方で今回の状況を一つ一つ振り返るイリュファ。


「ってことは、あの子、暴走してからもアグリカを探し回ってたってことでしょ?」

「あ! そうなりますです!」

「フェリトちゃん、頭いいね! 気づかなかった!」

「……サユキは余り興味がなくて考えてないだけでしょ」


 心の底から感心するように言うリクルとは対照的に、単に相槌だけ打つような感じのサユキに、フェリトが呆れたような声を出す。

 それから彼女は「まあ、いいわ」と呟き、気を取り直して言葉を続けた。


「それだけ強い繋がりが断ち切られそうになった訳だから、私としては暴走してしまうのも理解できる。何とか情状を酌量した結果になって欲しいものだわ」

「…………だな。その辺、どうなんだ? イリュファ」

「そうですね。本来別々に暮らし、ポーランス以外では互いに干渉しないはずの人間と少女化魔物。その決まりを破ってまで実行された犯罪の結果ですし、十分斟酌されるでしょう。人間側の領域に被害が出ていない上に、死傷者も本人以外ゼロですからね」

「具体的には?」

「軽犯罪レベルの刑罰……精々、数日の拘留か罰金ぐらいのものでしょう」


 割とランブリクにも詳しげなイリュファの予測に、フェリトがホッと息を吐く。

 確かに死傷者ゼロというのは大きいと思う。

 射出された巨大宝石を全て叩き壊しておいてよかった。

 あれが像になっていた少女化魔物にでも当たっていたら、それこそ目も当てられないような事態になっていただろうし。


「……少々下賤なことを言えば、宝石の生成は金になりますからね。ストレム自治区としても、ランブリク共和国全体としても無駄にはしたくないでしょうし。いずれにしても重罰を科せられることはないはずです」


 確かに、ロジュエさんのあれは有用な複合発露(エクスコンプレックス)だったからな。

 正直、俺も欲しいぐらいだ。

 それだけに今度は国が主導で無体な扱いをする懸念があるにはあるが……。

 またぞろ暴走されても困るし、程々の待遇になると見るのが妥当だろう。

 ……まあ、実際にどうなったかは、いずれトリリス様に教えて貰うとしよう。


「何にせよ、あの二人には穏やかに暮らして欲しいものね」


 そんなフェリトの願いが全員の結論であることを示すように、一旦会話が途切れる。

 静けさの中、真・複合発露〈裂雲雷鳥・不羈〉発動に付随して背中に生成された翼がバチバチと放電する音に耳を傾けつつフライトに専念していると、陸地が見えてきた。

 祈念魔法で調整しているので体感温度や湿度に変化はない。

 が、何となくランブリクとは空気感が違う気がする。

 数時間振りでしかないのに、ホッとしてしまっている自分がいる。

 やはり故郷というものは特別だ。


 そのままホウゲツの空を更に北上し、ポーランス出発から数十分。

 見学のためにガルファンド島(石の島)を経由した行きと比べると大分早く行程を消化でき、やがて学園都市トコハのホウゲツ学園が視界に映る。そして――。


「到着、っと」


 俺は付近に歩行者がいないことを確認しながら、補導員事務局の前に着地した。

 そのまま事務局の中に入り、早速受付に向かう。


「……あれ、イサク君? え、もう帰ってきたんですか!?」


 いつもの調子でそっと姿を現した俺に、大袈裟に驚くルトアさん。

 見たところ受付には彼女一人だけ。

 ルーフさんは午前中のみで帰ったのだろう。


「え、えっと、何か不具合でも? もしかして怪我とか!?」


 ルトアさん的に俺がこの時間に帰ってくるのは予想外だったらしく、どうやら予期せぬ出来事に遭遇して依頼に失敗してしまったと勘違いしたようだ。

 心配したように、おろおろしながら駆け寄ってくる。


「いえ、大丈夫です。依頼も完了しましたよ」

「ええっ!? 本当ですか!?」


 そんなルトアさんに入国管理局で受け取った確認書類を手渡すと、彼女は隅々にまで目を通して「た、確かに」と呆然としたように呟いた。


「そんな驚くことですか?」

「驚きますよ!! いくら救……ゴホンゴホン、だからって、場所は海外のランブリク共和国で難易度EX級ですよ!? 半日で終わる距離でも仕事内容でもないです!!」

「いや、まあ、補導に関しては、その、お膳立てが整ってたので」


 グイグイ来るルトアさんに、ちょっと気まずさを感じて目を逸らしながら返す。

 この依頼。

 元々の依頼主であるアグリカさんの存在が、そのまま切り札だった訳で……。

 最後の最後で彼女に頑張って貰ったことを考えると、自分の成果とは少し言い辛い。


「だとしても、距離が――」

「ランブリクぐらいならルトアさんも複合発露で一っ飛びじゃないですか」

「え? ……そうなんですか?」

「そうなんです。ルトアさんの複合発露は物凄く便利なんですから」


 俺の言葉にポカンとしたように尋ねてくるルトアさんに、ハッキリ頷いて答える。

 とことん自分の複合発露の性能を把握していないらしい。

 逃げのための複合発露と決めつけて、ろくに使ってこなかったのだろう。

 あるいは、真性少女契約(ロリータコントラクト)を結んだことで速度周りが強化されでもしたのか。


「ともかく、今回の依頼が早く片づいたのはそういう好条件が色々重なった結果です」

「な、成程。と、とりあえず、私なんかの力でもイサク君の役に立てたのなら嬉しいです! えっと、それじゃあ、手続きを行いますね!!」

「ええ。お願いします」

「はい!!」


 複合発露を褒められて大分戸惑った様子を見せたルトアさんは確認書類を手に、若干誤魔化すように快活な返事をしながら受付の奥に向かった。

 顔は赤く、内心の羞恥心が見て取れる。

 複合発露のあり方には時として己のコンプレックス、根幹に近い部分が滲み出る。

 それだけに、確たる証拠と共にそこを褒められることに彼女は免疫がないのだろう。

 嬉しさ半分、信じられない気持半分というところか。


「手続き完了しました! イサク君、お疲れ様でした!」


 そんな風に思っていると、今度は誤魔化しではない普段通りの眩しい笑顔と元気な口調と共にルトアさんが戻ってくる。一先ず気持ちを入れ替えてきたようだ。

 正直、もう少し慣らしていった方がいいと思うが……。


「ありがとうございます」


 今ここで更につつくと逆効果になるだろうから、この場は礼を言っておくに留める。

 何にせよ、これで今日の仕事は終わりだ。


 それにしても割と慌ただしい一日だったな。

 朝から久し振りに両親に――。


「あ、そうだ。父さん達が受けた緊急依頼ってどうなってます?」

「ジャスター様達ですか? ええと、今のところ特に連絡はありませんけど……」

「……そうですか」


 ウラバで暴れているという複数の少女化魔物。

 元の世界で言う大分県の辺りとは言えホウゲツ国内の話だし、父さん達のことだから俺よりも早く依頼を終えて帰ってきている気がしたが、そんなことはなかったようだ。


「遠方の緊急依頼としては普通ですよ?」


 暗に今日の俺が異常だったと言うルトアさん。

 まあ、実際そうなんだろう。

 村にいた頃は父さんが何日も家を空けるなんてザラだったしな。


 ただ、石化した十数名の人間が発見された近くでの出来事だけに、妙に気になる。

 EX級補導員二人にS級補導員一人、それとそのパートナー達が出張っている訳だから心配のし過ぎだとは思うが……。

 何はともあれ、情報がなければ動きようもないし、勝手な行動をして父さん達の邪魔をする訳にもいかない。

 だから俺は、ルトアさんに何か連絡があったらすぐに教えて欲しい旨を伝え、今日のところは補導員事務局を後にしたのだった。

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