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ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~  作者: 青空顎門
第2章 人間⇔少女化魔物

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109 難しく考えずに

「あ、え……」


 今日のところは帰って欲しいという願いを俺があっさりと拒絶したことが想定外だったのか、ルトアさんは完全に言葉を失ってしまったようだった。

 戸惑っているのが目に見えて分かる。

 彼女は気まずそうに視線を左右に揺らし、しかし、一応は仕事中であるために補導員事務局から逃げ出したりすることもできずにいた。


「ルトアさんは余計なことを考え過ぎです。いや、勿論、俺の話の切り出し方がまず過ぎたのは間違いないですけど」


 ライムさんの事件を経て危機感が募り、性急に話を進めようとしてしまった。

 もっとよく物事を観察すべきだった。


 戦闘系の複合発露であろうサンダーバードの少女化魔物(ロリータ)たるルトアさん。

 そんな彼女が、自身の複合発露(エクスコンプレックス)を十分に発揮する機会のない受付になっている。

 その時点で、何かあると考えなければならなかったのだろう。

 受付兼警備員と自称していたとは言え、少女契約(ロリータコントラクト)すら結んでいない彼女では第六位階にはどう逆立ちしても対処できない訳で……警備員など有名無実もいいところだ。

 当然ながら、ホウゲツ学園には別に専門の警備員もいる訳だしな。


 しかし……。

 村を離れ、新生活を始めて補導員という職に就き、レギオの騒動、ライムさんの事件と続いた中で、それ以外に洞察力を割けなかったなどと言い訳はしたくない。

 人外ロリコンとして、人外ロリの手前。


「何一つ気づけなかったこと。そこだけは謝らせて下さい」


 とは言え、俺が救世の転生者であることを彼女が察した時点で、遅かれ早かれ似たような拗れ方をしていたのは確実だっただろう。

 そして、遅れれば遅れる程に泥沼化していた可能性もある。

 いずれにせよ、こうした問題は早期解決が一番。

 少女の姿をした存在が苦悩を抱くのを前にして、山も谷も溜めも無用の長物だ。

 救世の転生者たる者、使命を果たすことができれば後々伝記の一つや二つ作られるかもしれないが、その時一番地味なエピソードになるぐらいでいいのだ。

 実際に問題に直面した当事者同士からすれば。


 だから頭を下げた格好から直り、彼女を真っ直ぐに見据えて口を開く。


「ですが、少女化魔物はもっと自分の気持ちに正直にならないといけません。悶々と一人考え込んでいても解決しないどころか不健全になるだけです」


 いつかの母さんが、アロン兄さんの件で精神的に衰弱して命を落としかけたように。

 少女化魔物の体調は、その精神状態と深い関わりがあるのだから。


「勿論、欲に塗れて悪事をなせってことではないですけど……まあ、そうなった場合でも社会が過ちを正してくれるでしょうし、色々とオープンにしていれば致命的なことをする前に近しい人がとめてもくれるでしょう」


 当然、ルトアさんにその辺りの心配はしていない。

 もしもの時があったとしても、必ず俺がとめる。


「でも……でも、私の力は弱くて、イサク様には相応しくないです」


 ようやく口を開いた彼女は、改めて自分の主張を繰り返す。

 しかし、そこからして勘違いしていると言わざるを得ない。


「何故、力が強くないと相応しくないんですか?」

「救世の転生者にはガラテアを討ち果たす使命があります。その時、私みたいな臆病者がいたら、足手纏いになるだけです」

「ルトアさん。別に少女契約をしたからと言って、必ず一緒に戦わなきゃいけない訳でもないでしょう?」

「…………え?」


 全く想定外の言葉を聞いたとでも言うように、驚きの表情を見せるルトアさん。

 だが、そんな決まりはどこにもない。どこにもないのだ。

 それどころか、そもそも、戦う力を持つ少女化魔物だけと契約しなければならない義務が救世の転生者にある訳ですらない。

 全て。単純に、その方が効率的と言うだけの話に過ぎない。


 だから、戦闘系の複合発露を持つからと言っても無理に肩を並べる必要はない。

 むしろ少女化魔物が命を落とせば少女征服者(ロリコン)は複合発露を失うのだから、安全なところで隠れていて欲しいぐらいだ。

 戦いで傷つくのは、可能ならば俺一人だけの方がいい。


「で、ですけど、イサク様が契約してる子達は一緒に……」


 対して、反証を示すようにルトアさんは俺の影へと視線を向ける。


「……まあ、彼女達は色々と事情が違いますから」


 一人ずつ指折り数えながら軽く説明する。

 イリュファは最初から救世の転生者をサポートするために覚悟完了しているし、リクルもイリュファに教育されたせいで似たような感じになっている。

 フェリトは彼女の姉を救うという約束の上に成り立った仲間関係だし、サユキに関してはもう色々と言うに及ばずな依存と執心具合。

 引き合いに出すには、ちょっと不適当過ぎる。


 それに、今となってはテアという特大の爆弾になり得る存在がいるからな。

 この子を常に傍に置き、万一の時に守るために彼女達は影の中にいるようなものだ。


「でも……」

「この前。一緒に食事に行った時。俺はルトアさんといて楽しかったです。仕事の一環ではありましたけど、デートみたいで」

「そ、それは、えっと、私もです。……二人きりなら尚よかったですけど」


 俺の言葉に戸惑い、若干顔を赤くしながら最後にポツリとつけ加えるルトアさん。

 臆病者だと自称しているが、彼女は割と余計な一言も多い。

 この場は影の中の皆も空気を読んで口を挟んでこないが……不用意な発言のせいで怒られて、怯えに怯える姿を割と頻繁に目にした気がする。

 そんな彼女を思い出し、俺は思わず軽く苦笑しながら再び口を開いた。


「俺は確かに救世の転生者ですが、その前に一人の人間、ただのイサク・ファイム・ヨスキです。使命の重さに気分が滅入る時だってあります」

「イサク……様」

「そうした場合には時として、戦いから離れたところにいる存在こそが誰よりもその気持ちを和らげてくれることでしょう」


 勿論、隣で戦う者の共感こそが必要な時もあるだろうが、それは場合によりけりだ。

 どちらが価値があるというものではない。


「共に戦うことだけが、救世の手助けになる訳じゃありません。戦いに臆病なルトアさんだからこそできることは間違いなくあります」


 臆病だからそうするしかない、ではなく。

 俺はそんなルトアさんに自信を持って、自分らしくあって欲しい。

 何故なら――。


「率直に言いましょう。俺が使命に囚われて普通の感覚を失わないように、日常の中で助けて欲しいんです。他ならぬルトアさんに。だから、むしろルトアさんには戦いの場には立って欲しくない。本来なら、そう押しつけるのは身勝手な話ですけど」


 こればかりは、むしろイリュファ達には不可能なことだから。


「イサク君……」


 無意識にという感じに、ルトアさんが自然な口調でそう俺を呼ぶ。

 あるいは、仕事中にイサク様と言い続けていたのは、公私のケジメである以上に最低限の線引きをしなければならないと自分に言い聞かせていたからなのかもしれない。

 己の性格、能力に対する引け目から。


「……まあ、そういう訳なので、別に少女契約を結ぶ必然性は実はないんですけど」


 そうして最後にちょっと冗談っぽく言うと、ルトアさんは微かな笑みを零した。

 それから彼女は小さく息を吐き、少しの間、己の内に問いかけるように目を閉じる。

 時折、何やら葛藤するように眉を動かし、やがて静かに目を開けて顔を上げた。


「イサク君は酷いです。強引です。そこまで言ってくれる人を拒絶したりしたら、今後どんな顔をして会えばいいんですか。そんな未来を想像したら、怖くて堪らないです」


 ルトアさんは不満げな口調で、しかし、迂遠ながらも暗に自分が出した答えを告げる。

 少しだけ困りながらも、どこか喜びも滲む表情と共に。


「イサク君さえよければ少女契約を結んで下さい。一つの証として。本当に臆病なままの私で、イサク君の助けになると思ってくれるのなら。お願いします」


 そして、ちょっとだけ恥ずかしそうに頬を赤くしながら頭を下げるルトアさん。

 それで彼女の中にあるわだかまりが小さくなってくれるのなら、否やなどない。

 勿論、俺としても彼女と少女契約を結ぶことができるのは喜ばしいことだ。


「分かりました」


 そんな気持ちを微笑みで表しながら言う。

 すると、ルトアさんはようやく曇りのない笑顔を見せてくれた。

 話が変に拗れてから時間としては短いはずだが、何だか久し振りに感じる。


「では……」


 そんな眩しい彼女の表情を目に焼きつけながらコホンと軽く咳払いをし、それから少女契約を結ぶための文言を口にしようとすると――。


「あ、そうです!」


 大分普段の調子に戻ったルトアさんはそう言い、何か思いついたように手を叩いた。


「どうせなら、真性少女契約を結んで下さい!」

「え……ええっ? いきなりですか!?」

「少女化魔物は自分の気持ちに正直になるべきと言ったのはイサク君です!」


 胸を張って得意顔で言うルトアさん。

 それは確かに言ったけれども。


「……いいんですか? 真性少女契約ですよ?」

「もう。言ったじゃないですか。受付になってからずっとずっと憧れ続け、待ち続けてきたって。その間に勝手に思い描いた理想が現実の足元にも及ばなかったから、こんな風に根っこが捻くれちゃったんだって。それぐらい私はイサク君が好きなんです!」


 吹っ切れたように、どストレートに告げてくるルトアさん。

 余りの率直さに、今度はこっちの顔が熱くなる。


「臆病な自分を肯定してくれた最高の相手を逃したら、独りのまま精神衰弱で死ぬか、事故で死ぬか、誰かに殺されるか、いずれにしても怖過ぎる未来しかないですし!」


 真性少女契約を結べば、契約相手の少女征服者の死と共に本来不老である少女化魔物もまた死んでしまう訳だが……そういう考え方もあるようだ。

 恐怖の形は十人十色。

 戦いを恐れ、孤独もまた恐れる。それがルトアさんなのだろう。


「分かりました。では……」


 そう納得し、再び咳払いをしてから。

 今度こそ、少女契約ではなく真性少女契約の文言を口にする。


「ここに我、イサク・ファイム・ヨスキと少女化魔物たるルトアとの真なる契約を執り行う。ルトア。汝は我と共に歩み、死の果てでさえも同じ世界を観続けると誓うか」

「誓います!!」


 それに対し、ルトアさんは明るい声と共に即答する。


「ふえ? あ、あわわ」


 繋がりが生まれ、認識が開かれたことによって少し慌てる彼女の姿が何とも面白い。

 思わず笑ってしまった俺を、唇を尖らせて睨む顔もまた。

 やがて、どちらからともなく笑い合い――。


「イサク君! またデートしましょうね!!」

「はい。喜んで」


 いつにも増して快活で輝くような笑顔を前にそんな約束を交わし、ルトアさんとの関係が歪んで壊れたりしなかった安堵と共に俺は補導員事務局を後にした。

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