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ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~  作者: 青空顎門
第2章 人間⇔少女化魔物

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AR11 死にたくない

「人間原理。宇宙は観測者を求め、故に観測者が生まれ得る法則を作る。この世界はその度合いが強く、人間の意識、思念が世界に影響を与えることがままある。そして、その影響を受ける世界というものの中には……当然ながら人間も含まれている訳だ」


***


 痛い。苦しい。気持ちが悪い。

 それらの感覚が熱さを伴って全身を駆け巡っている。

 少しずつ体力が奪われていく。

 命の限界が徐々に徐々に近づいてきていることが分かる。

 気を失うことができれば楽だろう。

 けれども、まだ苦痛は決して激しくなく、耐えられずに意識を手放すレベルではない。

 さりとて、無視できるような弱さでもないが。


 真綿で首を絞めるようにジワリジワリと。

 命という大きな塊を、端の方からヤスリで削り取られていくように。

 行きつく先が死である事実から目を背けることのできない確かさだけはあった。


 どうしてこんなことになってしまったのだろう。

 現実逃避気味に思い返そうとする。

 父と母の店の手伝いでお使いを頼まれ、近道を行くために裏道に入ったところまでは覚えている。そこから先の記憶がない。

 気づいた時には椅子のようなものに座らされ、目を塞がれ、口は何かを噛まされて言葉を発することもできず、更には腕も足も何かで固定されて動けなくなっていた。

 目が覚めてすぐの時は後頭部に鈍い痛みを感じていたから、もしかすると背後から殴られて気絶していたのかもしれない。

 そんなことを考えていると――。


「ぐうう、ううううううううっ!!」


 すぐ近くから、一際大きな獣の如き唸り声が上がった。


「ひっ」

「う、うう……」「ああ、あ……」


 更には女性の小さく鋭い悲鳴。

 そうした変化がなくとも、周囲からは常に複数の呻き声が聞こえてきている。

 意識を取り戻した時に男の声で説明があった通り、こうして連れてこられて拘束されているのは私だけではないらしい。

 その彼曰く――。


「皆様にはとある実験にお付き合い頂きたい。これから貴方がたには少女化魔物(ロリータ)複合発露(エクスコンプレックス)による毒を受けて貰う。遅効性で、徐々に肉体を蝕んでいき、最終的には手足の先から崩れ落ちて死に至る猛毒だ」


 とのことだった。

 この苦痛はその毒によるものなのだろう。

 では、何故そんな真似をしているのか。

 実験とは言っていたが、その目的は何なのか。

 それもまた彼は朗々と口にしていた。


「この場に解毒薬はない。しかし……毒を治癒できると心の底から信じ切ることができれば、それは現実となるはず」


 私には、意味が分からなかった。


「人間原理。この世界は人間という観測者を優遇してくれているのだから。貴方がたの中から力を持つ新人類が生まれることを期待している」


 だが、その言葉を理解できていようとできていまいと時は進む。

 毒は巡る。

 命は削られる。

 少しずつ。しかし、ハッキリと。

 痛みも苦しみも気持ち悪さも大きくなっていく。

 まるでタイムリミットが近づいていることを知らせるように。


「うううう、ぐう、ぐうううううううっ! ……うっ、う、あ、あ」


 と、一人唸り続けていた男性の声が唐突に止まる。

 残ったのは、酷く弱々しい呻き声のみ。

 突然の変化を前に、苦痛に苛まれて思考が正常ではない状態ながらも疑問を抱く。


「毒が脳に達して壊れたか。これは駄目だな。後は死に至るのを待つのみだ」


 男の詰まらなそうな声。憤る余裕は、私にはない。


「ふう、う、ううううう、うううううっ!!」


 彼の言葉を耳にし、やや遠くにいる女性が発狂したように騒ぎ出す。

 恐怖が臨界を超えてしまったのだろう。

 けれど多分、それは死を早める行為だ。

 もがけばもがく程、毒の巡りは早くなる。

 …………なんて冷静でい続けられる訳がない。

 私だって、より現実的に死が近づくのを感じ、怖くて怖くてたまらなくなっている。

 我知らず、涙が溢れ出す。顔はもうグチャグチャだ。

 けれども何とか喚かないように、暴れないように必死に我慢する。でも――。


「毒の巡りを遅くしようとしても無駄だ。そんなことをしても死は避けられない。助かりたければ、望め。一点の曇りなく、毒よ消えろと願え」


 その男は私の頑張りを否定する。

 そんなことは分かっている。

 無駄な努力だって。

 そんなことは分かってる!


「う、う……」


 心は乱れに乱れ、思わず呻いてしまう。

 気持ちが悪い。

 臓器という臓器がヘドロみたいにぐちゃぐちゃになっている気がする。

 体の中の全部を吐き出してしまいたい。

 苦しい。

 何とか息を整えようとするが、まともな空気がむしろ肺に切り裂かれたような痛みを生む。呼吸が乱れて咳き込む。喉がずたずたになる。

 ただただ痛い。

 いくつもの種類の痛みが代わる代わる襲いかかり、慣れることもできない。

 更には、新たな痛みが四肢の先端に集中し――。


「ひ、ひい」


 喉が情けない音を出す。

 今、小指の先が崩れ落ちた。

 混沌とした感覚の中、それだけはハッキリと分かった。


「あ、あ、ああ」


 もう限界だった。

 ほんの一欠片だけ残っていた冷静さは、いとも容易く恐怖に踏み潰される。

 思考が一色に染まる。

 死にたくない。

 死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない!

 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!! 死にたくない!!!


「あああああああああああああああっ!!」


 体が勝手に、思考とは完全に独立してしまったかの如く絶叫する。

 次の瞬間、突然浮遊感のようなものが生じた。

 同時に、毒が生み出していた痛みも苦しみも気持ち悪さも。全てが唐突に消え去る。

 けれども、自分の体が自分のものだと感じられなってしまった。

 全身が異物と化してしまったかのようだ。

 しかし、そうした感覚も何もかも、全てが急激に遠退いてく。


「ううう、あああああああっ!!!」


 それが死の予兆のように感じられ、私はその運命を一際強く拒絶した。

 嫌だ。

 嫌だ嫌だ! 私は死にたくなんてない!

 そんな心の悪足掻きも空しく、意識が希薄になっていく。

 やがて――。


「おおお、おおおおお……」


 自分の喉から発せられた、まるで亡者のような声が耳に届いたのを最後に。

 私は意識を、自分自身というものを完全に手放してしまった。


***


「ある者は応報を望んだ。ある者は世界を憎んだ。彼女は、死にたくないと願った。純粋過ぎる想い。この世界において、それは時に呪いにもなり得る。けれど、彼女にとって幸いだったのは、その目の前に救世の役目を負った存在が現れてくれたことだった」

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