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ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~  作者: 青空顎門
第1章 少女が統べる国と嘱託補導員

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101 面会と証

「ええと、初めまして――」


 元の世界のいわゆる面会室とほとんど変わりない雰囲気の部屋の中。

 空間を分断するように設置された横長の机とその上の空間を塞ぐ透明の仕切り板を挟んで向かい側に、あの屋敷で見た男性が座っている。

 アロン兄さんの幼馴染、同郷のライムさんで間違いない。


「――ではないはずですよね?」


 その彼に俺はそう問い気味の挨拶を口にしつつ、机の手前に置かれた椅子に座った。

 警察官の立ち会いはない。

 彼が既に犯行を認め、自ら進んで全容を自白していること。

 その複合発露(エクスコンプレックス)への対策も済んでいること。

 加えて、俺がトリリス様に頼み込んだこともあり、許可が出たとのことだ。


 ヨスキ村の人間であり、アロン兄さんがガラテアに連れ去られた事実を伝えてくれたライムさん。その彼が何故こんな真似をしたのか。

 その動機だけでなく、色々と本音を聞いておきたい。腹を割って話をしたい。

 そうする許しもトリリス様を通じてヒメ様に貰っている。


 ……とは言え、彼はあくまでも犯罪者。

 さすがに完全に無防備になる訳にもいかない。

 何の対策もせずに、こうも簡単に許可が出るはずもない。

 面会室の中は一見、俺とライムさんのみ。

 だが、影の中にはイリュファ達がいるし、何より千里眼系の複合発露を持つトリリス様達の仲間の少女化魔物(ロリータ)が監視してくれている。

 当然、ライムさんには伝えられてはいない。

 もっとも、彼とて目に見えぬ監視の一つや二つは想定しているかもしれないが。


「ええと、名乗る必要は?」

「いや、ないよ。イサク・ファイム・ヨスキ君」


 そして俺の問いかけに力なく、疲れ果てたように笑うライムさん。

 その表情には諦観の色が浮かんでいる。

 全てを自白したことと言い、完全に観念しているようではあるが……。

 どうも罪を償おうとしている人間の顔とは違う気がする。


「……ライムさん、何故こんなことを?」

「それを答えるのは二度手間になるな。記憶を元に戻そう」

「ええと、それ、大丈夫なんですか?」

「何、原状回復については複合発露の使用を許されているからね」


 と、ライムさんは俺の問いに淡々と答え、合図をするようにパチンと指を鳴らした。

 別に複合発露の発動にそうした動作は必要ないが、俺が分かり易いよう配慮してくれたのだろう。そんな風に考えていると――。


「う……くっ」


 急に頭の中の記憶が組み替えられ、あの屋敷で本当に起きたことを思い出す。

 認識操作の複合発露〈千年(ラスティング)五色(オーバーライト)錯誤(パーセプト)〉。そして(アーク)暴走(パラ)複合発露(エクスコンプレックス)

 彼の力によって俺だけでなく、第六位階の複合発露を持つシニッドさん達までもが世界を誤認させられ、いいようにあしらわれて屋敷から出されてしまった事実。

 その全てが脳裏に甦る。


 ……こうして記憶を取り戻すと、よくあの段階から逆転できたものだと思う。

 同時に、認識書き換えという能力の恐ろしさもまた改めて実感する。

 もし悪辣な手段を取られていたら確実に負けていたに違いない。

 俺の対抗策がうまく機能したのも、彼が本質的には善人だったからだろう。

 犯罪者とは言え、この事件の動機も義憤に近いものだった訳だしな。


「思い出したか?」

「はい。全てはガラテアに対抗するため。それは理解しました。……ですが、この方法でガラテアを倒すことが本当にできるんですか?」

「いや、無理だな」


 あっさりと切って捨てたライムさんに俺は思わず驚き、目を見開いた。

 そのために起こした事件ではなかったのか、と。


「俺達がどれだけ戦力を得たところでガラテアは倒せない。あれは、強さとかそういう次元にない。俺達だけでは奴に勝つことは決してできない」


 淡々と理由を述べるライムさん。

 その発言の真偽はともかくとして、彼自身の考えがどうにも分からない。


「……だったら、貴方は何のために――」

「耐えるためだ」

「耐える、ため?」

「そうだ。百年。次代の救世の転生者が誕生する時まで」


 ライムさんの言葉にハッとする。

 もし救世の転生者が失敗……死んでしまったら、どうなるのか。

 当事者であるだけに、これまで考えたことがなかった。

 いや、考えることを避けていた。


 …………恐らく。その時点で新たな転生者が生まれると考えるべきだろう。

 人間の認識が世界に影響を及ぼして作られた救済のシステムに基づいて。

 だが、例えば「命を落とした訳ではないが、救世の転生者としての行動を何も起こせない」というような事態が生じてしまった場合はどうなる?

 もし俺がアロン兄さんと同じような状況に陥ってしまったら。

 分からない。世界が現救世の転生者を死に体と判断し、次の転生者を生み出すのか。

 あるいは、救世の転生者はまだ生存しているからと放置されてしまうのか。


「次代、か」


 万が一の時の備え。

 当然、数百年のノウハウを持つトリリス様やヒメ様には考えがあるのだろうが……あるいは、それはライムさんがやろうとしていたことと同じなのかもしれない。


「だが、それも潰えた」


 そう俺が考え込んでいると、ライムさんは首を横に振りながら嘆息するように呟いた。


「一縷の望みに賭け、取調官に全てを話して協力を要請したが……」

「そ、そんな無茶苦茶な真似をしたんですか!?」


 取り調べを受ける立場でありながら。型破りにも程がある。


「当然だろう。世界の危機だぞ?」


 そんな俺の反応に、逆に理解できないという感じに眉をひそめるライムさん。

 だが、またもや彼は諦観の滲んだ溜息をつく。


「なのに、取りつく島もない。ルシネやパレットとは引き離されたまま。狂化隷属の矢も破壊された。原状回復以外に力を使用したら、複合発露を封印するとも脅された」

「封印……」


 彼に限らず、強力な複合発露を有する犯罪者を安全に留置、拘置する方法。

 トリリス様達に聞いたところ、やはり専用の祈望之器(ディザイアード)があるらしい。

 刑罰の一つとして複合発露を抑え込む方法は、しっかりと確立されている訳だ。

 特定の国であれば、あるいは少女化魔物を殺して契約を強制的に破棄させるという方法を取る可能性もあるが、仮にもこのホウゲツは少女祭祀国家とまで称される国。

 さすがに、そんな真似はしない。


 余談だが、その祈望之器は注連縄のような形をしているらしい。

 それによって区切られた空間の中にいる存在は身体能力が弱体化し、複合発露を使うこともできず、また少女契約が一時的に無効になるとのことだ。

 不審な素振りを見せれば、ここにいる彼も契約無効によって力を封じられる訳だ。


「ガラテアに対抗する手段は今やそれしかないはずだ。なのに何故、誰も理解しない」


 苛立ちと絶望の入り混じった声で、苦しげに自問するように俯き呟くライムさん。

 憐憫を誘う姿だが、彼は根本的な部分で思い違いをしてしまっている。

 それでは国家機関が賛同してくれるはずもない。

 ヒメ様を始めとしたこの国の中枢は、真実を全て知っているのだから。

 そして、彼が己の過ちを認めるには、その真実が必要だ。


「何故か。簡単な答えです。ライムさん」


 俺がそう告げると、彼は顔を上げて訝しむような視線を向けてくる。


「貴方が大きな勘違いをしているからです。兄さんは、救世の転生者じゃありません」


 そもそも救世の転生者は敵の手に落ちてなどいない。

 ここにいるのだから。


「前提が間違っているんです。だから、誰もライムさんの言葉に聞く耳を持たない」

「馬鹿な。何を言っている。あのアロンが、救世の転生者でないはずがない」


 優秀なヨスキ村の人間。その自負があった彼に叶わないと言わしめた兄さん。

 確かに救世の転生者と誤認されても不思議ではない。しかし――。


「兄さんは、救世の転生者ではありません」


 改めて、確かな事実だと言い聞かせるようにハッキリと繰り返す。


「しょ、証拠はあるのか!?」

「あります」


 明らかな動揺を声色に滲ませて問うてくるライムさんに対し、簡潔に答える。


「これが、証拠です」


 続けて、俺は影の中から刀を取り出すと、それを彼の目前に掲げた。

 短くない沈黙。どうやら目に映るものが何なのか、認識が追いついていないようだ。

 しかし、やがて彼はその目を緩々と見開いていく。


「まさか……まさかこれは、印刀、ホウゲツ? い、いや、そんなはずは……偽物――」


 理解して尚、ライムさんは眼前の光景を信じられずにいるようだった。

 そんな彼を前に、俺は黙って(アーク)複合発露(エクスコンプレックス)万有(アブソリュート)凍結(コンジール)封緘(サスペンド)〉を用いて人間大の氷を作り出し、それを印刀ホウゲツにて一刀両断した。

 第六位階の複合発露を容易く切断する武器。

 少なくとも第六位階の祈望之器でなければあり得ない。


「国宝印刀ホウゲツの偽物を持ち歩くなんて重罪も重罪ですよ」


 それから、その芸術品の如き美しい刀身を見せつけてから納刀する。

 ここまでして偽物とは言えまい。

 それがたとえ、今の今まで自身が信じてきた事実を根底から覆すものだったとしても。

 だから、彼は唇をわなわなと震わせながらも口を開く。


「なら、お前が……お前こそが――」

「そうです。俺が今代の、救世の転生者です」


 そして俺は呆然とする彼に頷き、そう静かに告げたのだった。

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