99回目 彼らの事情
ダンジョンの存続を誰よりも望んでる少数派。
その筆頭は冒険者であろう。
彼等の収入源はモンスターの核であり、それを売りさばく事で報酬を得ている。
ダンジョンはその供給源であり、彼等の生活はダンジョンによって成り立っている。
その為、ダンジョン破壊には意外と消極的な態度をとる。
ダンジョンが人類の脅威なのは分かっている。
しかし、自分達の生活を考えると、どうしても及び腰になるのだ。
冒険者の周囲で商売してる者達も同様だ。
冒険者を相手にした宿屋。
冒険者を相手にした食堂。
冒険者を相手にした道具屋。
冒険者を相手にした治療院。
冒険者を相手にした鍛冶屋。
冒険者を相手にした娯楽産業。
様々な業者が冒険者の、ダンジョンの周囲にいる。
それらがダンジョンの消滅とともに失業者になる。
「また新しいダンジョンに行けばいい」
そう言うことも出来る。
だが、移動するだけでも困難だ。
鍛冶屋や宿屋など設備が必要な者達は、簡単に移動することも出来ない。
技術はもっていけても、商売道具がなければどうにもならないものもある。
なので、ダンジョンの破壊は、ありがた迷惑なものでもあった。
せめて移動するための猶予期間があれば、というところ。
事前にダンジョン攻略・破壊のための行動があると分かれば、多少は対応も出来る。
そういう通告も無く攻略されるのは勘弁してもらいたい。
それが冒険者とその周辺業者の本音である。
モンスターの核を求める者達も同じである。
これはより多岐にわたる。
なにせ、魔術装置や魔術器具が関わってくるのだ。
これらを動かす為にはモンスターの核が必要になる。
こうした魔術装置は様々なものがある。
現代日本でいうところの、電灯や温水器、ポンプなどの動力源など。
とにかく様々な所で用いられている。
モンスターの核が無くなると、これらが全て稼働停止する。
それはそれで困るのだ。
もちろん、魔術装置などは高価なものだ。
生活に密着してるというほど普及はしてない。
しかし、これらを用いてる者達は確かに存在する。
そのほとんどが一定以上の富裕層である。
そうした者達も、ダンジョン破壊には色々と思うところがあった。
彼らもダンジョンが脅威なのは理解してる。
だが、モンスターの核の安定供給も望んでいる。
その為、ダンジョンの消滅を素直に喜ぶ事も出来ないでいる。
こういった事情があるため、一部の者達はダンジョンの破壊に消極的だった。
それを非難するのは容易い。
しかし、生活に直結する問題なのだ。
褒められたものでなくても、一方的にそれを悪と断定するわけにもいかない。
そもそも、モンスターの核が人類の文明を支えてしまってるのだ。
この構造をどうにかしない限り、ダンジョンやモンスターを求める者達は発生する。
危険ではあってもそれがなければ成り立たない分野があるのだから。
それを分かっていてトモルは、ダンジョンを破壊する事にした。
そうすれば、否応なしに冒険者は流出していくしかない。
冒険者に関わる業者も。
ここではない別の場所に移動するしかなくなる。
ならば、その時に自分の実家を示せばいい。
あるいは、学校の近くのダンジョンを。
そうすれば、人が流れていく。
行く先は実家でも、学校近くのダンジョンでもいい。
どっちに流れてもトモルに損はない。
実家ならば、辺境開拓に弾みがつく。
学校近くのダンジョンなら、そこにいる手下に合流させる事も出来る。
勢力拡大の可能性が高まる。
もちろん、思った通りにいくとは思わない。
それでもトモルは、そうなる可能性に賭けていた。
誤字脱字の報告、まだまだもらっている。
これを書き込んでる時点までに来た分については修正済み。
書き終わってから読み返せば少しは減るんだろうけど。




