53回目 ダンジョン前の町でもお掃除が必要だった
学校から出たトモルは、最寄りのダンジョンへと向かっていく。
自分に強化魔術を用いて身体能力を上げ、ダンジョンへと走っていく。
近いと言っても何十キロと離れてるのだが、一時間もかけずに到着する。
魔術による能力強化は、それだけの力を提供する。
もちろん、トモルの能力がもともと高いのも影響してる。
魔術の効果がそれだけ高くなり、元の能力の高さを更に引き出してるからだ。
そうしてダンジョン前の町に到着する。
冒険者が集まって出来上がったその町に入り、ダンジョンへと向かう。
その前に、幾らか準備をしていく。
フード付きマントと仮面を装着。
ぱっと見で誰だか分からないようにする。
ダンジョンに入る時には基本的にこれを身につけていた。
正体が露見しないためにだ。
見つかるとどんな騒ぎや問題になるか分からない。
だから、出来るだけ正体を隠すようにはしていた。
さすがに身長を誤魔化す事は出来ないが、顔などはしっかり隠しておく。
もちろん、これは奇抜な格好ではある。
どうしても目立ってしまう。
こればかりはどうしようもないので、仕方ないと諦めた。
それに、格好を問題視するような者もこの町にはほとんどいない。
良くも悪くも冒険者は派手好きだ。
全員がそうではないが、奇抜な格好をしてる者も多い。
仮面をしてフードをかぶってる程度では、そう怪しまれる事は無い。
もっと派手な連中だっているのだから。
所属してる集団を示すため、自分達の腕を誇示するために。
あるいは単に好きなのだ────派手な格好が、奇抜な格好が、普通と違う格好が。
理由はそれぞれだが、一般的とは言い難い装いをする者達は多い。
トモルのように正体が分からないようにしてる者達だっている。
なので、一々気にするような者はいない。
更に見た目で正体を分からなくする者達は、どこかからの逃亡者である可能性だってある。
犯罪者だったり、濡れ衣を着せられた者。
所属していた組織などを裏切った者、裏切られた者。
そういった者達が流れ流れてダンジョンにやってくる事もある。
それらに関わったら余計な面倒に巻き込まれる可能性がある。
だからあえて接点を持とうという者はいない。
何より、自分達が生き残る事に必死な者が多い。
他人の格好に気を取れる暇があるなら、ダンジョンのモンスターの倒し方を考える。
利益も義理も義務も無いのに、わざわざ他人に絡む暇人はそうはいない。
そんな事をするより、次に備えて休んでいた方がマシだ。
あるいは訓練をするか作戦を練るか。
情報を集めて効率の良い狩りに臨むか。
仕事の為にやる事はそれなりにある。
何の意味もない正体詮索に時間を費やすのバカのやる事であった。
そして、悲しいかなバカというのは、それなりに存在しているものである。
トモルに限った事ではないが、やらなくてもよい事をしでかす奴はいる。
そういった連中がトモルに接近し、無駄に絡んだ事もあった。
仕方なくトモルは、そういう連中にはそれなりの報復をしていった。
ただ、表だって見える所では控えたが。
人のいるところで報復をしたら、より能力の高い者がしゃしゃり出てくる可能性がある。
腕を誇示するために、自分の方が強いと示すために。
あるいは訳の分からない正義感を理由にしていさめようとする者も。
そういった事を避けるために、トモルは報復をダンジョンの中で行なっていった。
そこでならば、何があってもモンスターの仕業に出来る。
人間同士のいざこざがあっても、確認する術もない。
目撃者が出る場合もあるが、そういった事もそう多いわけではない。
ダンジョンというのは様々な意味で治外法権である。
無法地帯であり、そこはどんな横暴も悪さも存在出来る空間である。
そこでトモルは、自分に絡んできた連中を始末していった。
そのおかげでダンジョンとその外にある町の治安が良くなった。
無駄に騒動を起こす奴が減ったのだから当然だ。




