198回目 帰郷にあたってまた問題が
「さて……」
学校を卒業し、実家へと帰っていく途中。
帰郷の旅路で考えるのは、帰ったその後の事だ。
「どうしたもんだか」
普通であるならば、親の仕事の手伝いをしながら仕事をおぼえる事になる。
ただ、それはそれで様々な面倒がつきまとう。
将来の領主としての様々な束縛が発生する。
それも権利と一体のものだ。
やむをえないものではある。
責任や義務というものなのだから仕方がない。
しかし、それも度が過ぎれば足かせでしかない。
トモルにもそれがやってきていた。
「結婚ねえ……」
とりあえず、こういう形で。
そういう年頃になってきたので、当然ながら話があがってきている。
当面は婚約という事になるが、実質的には婚姻の成立といってもよい。
家同士のつながりを作る為なので、これはしょうがないと諦めてはいる。
余程変なのに当たらない限りは文句を言うつもりもなかった。
だが、その相手が問題だった。
「よりにもよって、タケジのところかよ」
その家から娘をもらうという話になってしまっていた。
タケジの家は、柊家の治める村の一つの村長である。
庄屋や名主と言ってもよい。
領地内における有力者だ。
貴族であっても最下級のトモルの家ならば、これらとの婚姻も珍しい事ではない。
そうやって繋がりを強めていく事で円滑な統治をしていく。
なのだが、さすがにこればかりは、相手として最悪だった。
「なんであんなのと親戚にならなきゃならんのだ……」
この事を記した父からの手紙を眺めつつため息を吐く。
タケジの家はここ最近評判が悪くなっている。
当代であるタケジの父や、先代であるタケジの祖父のあたりからおかしくなっていた。
それまでの者達は、まずまず村の事を考えて動いていた。
必要ならば強引な決定も下して。
その部分は少しばかり評判が悪かった。
だが、それも村の、ひいては村人の為にもなった。
だから、「仕方がない」と納得されていた。
むしろ、嫌われる事を承知でやってると、評価すらされていた。
普段の態度や人柄もあっての事だろう。
しかし、先代からはそうでもなくなっている。
無意味な仕事を強行をする事が多くなっていた。
それも村のためならば咎める事も無いのだが。
どう見ても村長の家にだけ利益が出るような采配が多くなった。
これには柊家の当主達もたしなめてきたのだが、効果は全くあがってない。
特にタケジの家の先々代が死んでからは顕著になった。
その瞬間に先代の村長は横暴な面をあらわにしていった。
おそらく、先々代が先代をおさえつけていたのだろう、文字通り箍が外れた状態になった。
以来、タケジの家は村の者達からの評判が悪くなっている。
当代になってからもそれはおさまる事は無かった。
むしろ、以前よりも酷い有様になってるという。
姑息というか小ずるいというか。
タケジの家は村長としての仕事はそれなりにこなしてはいた。
だが、表に出ない部分でのやりとりがあくどいものだった。
上っ面の取り繕いが上手いというべきであろうか。
その為、表立っての処罰や解任などが出来ないのが困りものだった。




