186回目 とりあえず一発やってみて様子を見る 5
そうした出来事の発端となる卒業式におけるカオリの言葉。
それが最後まで言い終わるまでに発生した怒号や嘆きは、卒業式の会場の中で渦巻いた。
しかし、それにもめげることなくカオリは、終始笑顔で伝えるべき事を伝えていった。
「────以上がこの学校に在学中に、私が取り仕切った事の全てであります」
締めくくりに入るその言葉が出るまでに、参列した多くの貴族が茫然自失となっていた。
自分のやった事が白日の下にさらされた者達は顔面蒼白どころではない。
彼等はこの先の事を考えて暗澹たる気分になっていた。
何とかして取り繕おうとするが、その為に何が出来るのかと考えると心もとない。
今更無かった事にするのも難しい。
既に言葉として発せられてしまってるのだ。
おまけにそれを、参列した者達に聞かれている。
その全ての口を封じる事など出来ないだろう。
藤園の権勢をたのむ事が出来ればどうにかなるかもしれないが。
それにしたって、どこまで頼れるか分かったものではない。
関係していた貴族を藤園が切り捨てる可能性があるからだ。
累が及ぶ前にトカゲの尻尾切り。
貴族社会ではさして珍しくもない。
場合によっては、責任を取っての自決をさせられる事もある。
むしろそうなる可能性の方が高いだろう。
上位の貴族ほど、自分達の保身のために末端を切り捨てる。
それらに責任を負わせて。
珍しくもないそんな事が、今回も起こるだけ。
だからこそ、事に何らかの形で関わってる者達は恐怖をおぼえていた。
貴族としての地位を失うだけならまだ良い……いや、それも良くはないだろう。
だが、命すらも失う事になるかもしれないのだ。
それも、彼等がこれまで仰いできた者達によってだ。
だとすれば、藤園に助けを求めるわけにはいかない。
そんな事をすれば、最悪の結果に陥る事になるだろう。
(逃げねば)
該当するほとんどの者達がその結論に到達した。
藤園カオリが行なっていた事に荷担してない者達も、呆然とするしかなかった。
何せ、自分の子供が通う学校で、不祥事と言う程度では済まされないような事が起こっていたのだ。
下手すれば、自分の子供が犠牲になっていたかもしれない。
その事が、子を持つ親としての恐怖をかきたて、そして怒りに変化していく。
何がどうしてこんな事になってるのかは分からない。
だが、学校がとんでもない場所になっていたのだけははっきりしている。
貴族のこと、勢力争いなど珍しくもない。
後ろ暗い事など一つや二つでは済まないものだ。
だとしても、今回暴かれた事実は簡単に許容できるものではない。
何らかの形で落とし前をつけねば、納得出来ない者が続出するだろう。
それが出来るかどうかは別として、それだけの気持ちになった者達はこの場に大勢発生した。
そうした者達にトモルは接触をしていく。
もちろん直接トモルが会いにいくわけではない。
そんな事をしても相手にされないで終わる。
自分の繋がりのある者達の親などに接点をもってもらうのだ。
配下となってる学生の親などに。
そういった者達に声をかけてもらい、つながりを作っていく。
上手くいくなら、仲間に引き込んでいきたい。
最終的には実家の方に繋がりを作っていく。
そうして勢力を拡大していきたかった。
敵の失点を活かして、自分の得点につなげねばならない。
他人の不幸を利用してるようなものだが、それでもトモルは行動を躊躇わない。
変な同情や安易な躊躇、無意味な謙遜や謙譲は損失にしかならない。
それよりは、強引にでも利益を得た方が、よっぽど後々の為になる。
何より今この機会を逃して、手に入るはずだったものを捨てても何の意味もない。
トモルに躊躇う理由は何もなかった。




