164回目 夏休み明けの初動
そんなこんなで学校が始まる。
休み明けではあるが、トモルは早速行動を開始していく。
学校内の手下などを集めて、夏休み中の動きなどを聞き出していく。
大半が子供なので、特に何があるというわけではない。
だが、実家で何をしてたのかとか、そういった事は可能な限り聞き出した。
それらの中に、有益な何かが隠されてるかもしれないからだ。
同級生の子供達から聞き取れる話に、重要事項など存在しない。
親兄弟や使用人、周囲の大人達がわざわざ子供達にそんな事を語って聞かせるわけがない。
だが、語って聞かせなくても態度に違いが出る事がある。
トモルとしてはそれだけでも分かれば良かった。
何が起こってるのかは分かっても、何かがあると思える事があるならば。
少しでも兆候があれば、あとは調べていけば良いのだから。
もちろん子供の事である。
いつもと何かが違っても、それに気づかない事もある。
そもそも普段から周囲に注意を払ってるものはそうはいない。
いつもと多少違うくらいならば、気のせいと思ってそれで終わる。
むしろ、そう感じた者達がほとんどだった。
なので、変わった事は無かったかと聞いても、特に何もなかったという答えしか出てこない。
子供の観察眼、それも何の訓練も受けてない素人である。
当然と言えば当然の結果だった。
だからこそトモルは一つの結論を得る事が出来た。
「うん、分かったよ。
ありがとうな、聞かせてくれて」
呼び集めた者達をそう言って戻していく。
何も分からなかったと言ってる者達は少し申し訳なさそうではある。
だが、それ以上に不思議そうな顔をしていた。
何も情報を掴めてないのに特に咎められもしなかったからだ。
「どうなってんだろ?」
トモルのいない所で、同級生などは首をかしげる。
たいていの場合、こういった時に何も掴んでないなら怒鳴られるのが普通だったからだ。
だが、トモルはそういった事を少しもしない。
むしろ、ありがとうと礼すら言った。
「どういう事なんだろ」
何も事が起こらないのはありがたいが、不可解極まりない。
なので、生徒の一人がトモルに尋ねていった。
何で怒らないのかと。
「なんで?」
尋ねられたトモルは、驚いてそう聞き返してしまった。
「そんなの仕方ないだろ。
一々怒ってたら神経がもたないよ」
偽らざる本音の一つである。
失敗なんて誰だってやる。
その都度、何で出来なかったとつるし上げていたら時間がもったいない。
それに、怒鳴るのは怒鳴るで結構疲れる。
意味無く怒っても損するだけである。
「まあ、失敗は仕方ねえよ。
手抜きやサボりならともかくな」
それがトモルの考えだった。
同級生達はそれを聞いて安心した。
言ってる意味はまだそれほど分かってるわけではない。
子供だけに、どうしても理解力が追いつかないでいる。
しかし、それでも何となく言いたい事は理解していった。
トモルは失敗した事を怒るのではない。
悪い事をしたら怒るという事を。
それに、トモルからすれば、分からないという事から分かった事もある。
だからこそ怒鳴る必要も叱る必要も無かった。
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