16回目 襲われてるのを助けるのに理由はいらない、襲ってるのを殲滅するのを躊躇う必要もない <能力表記>
地味で地道な苦労が続く。
モンスターを倒し、領内の安全を確保し、田畑の実りを陰ながら支援する。
私利私欲にまみれたモンスター退治は、結果としてそうなってる。
それを来る日も来る日も続けている。
最近はだんだんとモンスター退治が楽しくなってきてもいた。
他に娯楽もない世界である。
ほぼ一方的にモンスターをたたきのめせるのは、リアルなFPSのような楽しみがあった。
ついでに自分を鍛える事が出来るので、トモルとしては願ったりかなったりである。
少なくとも、父親に連れられて近隣の貴族の所に行くよりはよっぽど楽しい。
出来ればこのままモンスターだけを倒していきたいとすら思ってしまう。
(まあ、そうはいかねえだろうけど)
妙にさめた考えで現実を眺めつつも、出来ればこの時間が長く続くよう願っていた。
そんなトモルであるが、毎日のバッタ狩りは順調に進めていっている。
魔術による探知のおかげで以前とは比べものにならないくらいにバッタを仕留めている。
一日10体を倒し、日に500点の経験値を手に入れていく。
おかげでレベルアップまでの速度が加速している。
それでも4万点というのは大きな壁である。
なんだかんだで入ってくる貴族の用事と重なり、なかなかモンスター退治に出かけられない。
運が良くても一週間は拘束される。
下手すれば一ヶ月近く外回りに付き合わされる事もある。
おかげで経験値を定期的に確保出来ない。
単純計算すれば、一日500点も経験値があれば、60日で次のレベルに上がる事が出来る。
なのに様々な邪魔のおかげでそれもままならなかった。
その代わりと言っては何だが、技術の自主練習には精を出した。
こちらは経験値と関係なく、繰り返した練習などによって上がっていくようである。
基本的な成功率や威力などは能力値によるのだが、それらへの修正を与えるのが技術である。
これらを上げる事で、能力値の足らない部分を補い、様々な技をおぼえていく。
モンスターを倒しにいけない時は、専らこちらの練習に専念していった。
おかげで技術の上昇はめざましいものがある。
練習をしていて気づいたのだが、この技術レベルの上昇がとても早くなっている。
身につけた技術をレベル1から上げていく速度が今までの比ではない。
もちろんレベルが上がれば上昇速度も緩やかになるのだが、それすらも緩和されてるようであった。
(やっぱり、能力値が関係してるのかな)
あるいは総合レベルの方が関係してるのかもしれない。
もしくはそれ以外の何かが関係してるのかも、とは思う。
だが、決定的な要素が何であるかは分からない。
分からないが、以前より技術をおぼえやすくなってるのは確かである。
おかげで練習や実地で用いてる技術はぐんぐんと成長していっている。
総合レベルの成長が頭打ちになってしまってるトモルにとって、これはありがたいものだった。
そんなこんなでモンスター退治に赴いていた時である。
外出の予定も当分無く、好きなように外へ出られる貴重な時間を用いて、トモルは外に出ていた。
効果範囲が拡がった探知魔術を用いて本日最初のモンスターを探しつつ、そこらをうろつき始めようとしていた。
その探知魔術に早速反応があり、これは運が良いと思った瞬間である。
(いや、ちょっと待て)
あまりにも人里近くでの事である。
そこまでモンスターが迫ってるのかと危機感を抱く。
すぐさまそこに向かい、問題を起こしてるモンスターを成敗してくれよう、と思った。
が、そこで更に奇異な事に気づく。
(これ、街道の方じゃねえのか?)
探知の結果が出てるのは街道の方である。
なんで、と思った次の瞬間に体が動き出していた。
(街道って、もしかして……!)
思い当たる事がある。
普通なら村の方が先に襲われるので滅多にないが、街道とて安全ではない。
辺境のこの地域はやってくる途中であってもモンスターが出没する。
村に比べれば少ないものだが、皆無ではない。
そこを通る者達にとっては、ここまでやってくるのは割と命がけであった。
そして、こんな所にまでやってくる物好きは限られている。
(冒険者ならいいけど、もしかして……)
戦闘力がある冒険者ならばさほど問題は無い。
モンスターが出現しても自ら撃退するからだ。
むしろ、撃退出来ずに死んでしまうなら用はない。
退治するべきモンスターに負けるような者など必要ないからだ。
しかし、これがもう一つの可能性だったら村にとって死活問題になる。
(この前来たのも、確か一ヶ月か二ヶ月前だったし……)
やってくる間隔を考えれば、それが一番可能性が高かった。
村にとって生命線と言える行商人。
それが襲われてる可能性があった。
全速力で走り、息切れがしてきたら治療魔術で回復し、とにかく走り続ける。
探知魔術のおかげで方向を見失う事もなく進み、目的地へと近づいていく。
それに応じて、だんだんと様々な痕跡が出てくる。
何かが通り過ぎていった跡がそこかしこに残っている。
そこそこの大きさのものが、それなりにまとまった数で動いているのが分かる。
(まずい、まずいぞ)
一体だけなら大した事は無いが、見た所かなりの数が動いている。
おそらく10や20といったものではあるまい。
こんなのに襲われたら、それなりの手練れでなくては撃退も難しくなるだろう。
(間に合ってくれ)
そう願わずにはいられなかった。
幸いにも、襲撃されてる者はまだ生きてるようではあった。
だが、このままでは時間の問題とも言える。
襲われてるのは、行商人の馬車。
襲ってるのはモンスターの巨大バッタ。
数は、とにかく多い。
何十という数がそこらを飛び回っている。
最近、ひたすら倒していたのに、どこからわいてきたのかと思う程だった。
(いや、考えてる場合じゃねえ!)
驚き、呆気にとられていた自分をしかりつけ、すぐに魔術を用いていく。
目の前にいるモンスターを一気に殲滅する手段はない。
だが、とにかく行動を止めねばならない。
(だったら!)
すぐさま基本魔術を用いて光を連続発生させる。
そこかしこ、バッタの居る所ならどこにでも。
直接的な損傷は与えないが、目をくらませて動きを邪魔する事は出来る。
馬車までの間にいるもの、馬車に襲いかかってるもの、そのどれにも光を浴びせていく。
効果時間を短く、威力を大きく設定した光ははじける。
カメラのフラッシュと同等かそれ以上の光量でバッタの目を突き刺していく。
まぶたのないバッタは、それらを見て次々にのたうち回っていった。
そんなバッタをトモルは、ただひたすら鉈や手斧で叩きつぶしていく。
狙うは頭。
頭でなくてもとにかく足を。
出来るだけ一撃で倒すために。
倒す事が出来なくても、行動不能になるよう刃を振り回していく。
途中、バッタが回復しようとしてきたらその都度閃光をあびせる。
そうやって何度も光を放ちながらバッタ退治を続ける。
ほぼ一方的な殲滅をしながら、トモルは何十というバッタを倒していった。
おかげで核を大量消費したが、その分は倒れたバッタから回収していく。
毎度の事だが、消費する核に対して手に入れる分が多い。
なので、ケチらずに使う事が出来る。
むしろ積極的に使った方が効率が良いくらいだ。
「大漁、大漁」
襲われてた行商人も気がかりだが、とりあえず幾つか核を回収してから向かう。
どのみち、核がなければどうしようもない。
顔をとりあえずタオルでくるんで隠していく。
バレてもどうという事はないかもしれないが、一応自分が誰だかは分からない方が良いだろうと思ったからだ。
(一応、秘密にしてるしな)
モンスター退治を、である。
それがこんな所からばれたら面倒になる。
(とっくにばれてるかもしれないけど)
毎度思う事だが、だとしても他の者が何も言ってないのだから、こちらから白状する必要もない。
見て見ぬふりをしてくれてるなら、それを裏切らないよう動いていかねばならない。
そんなトモルは行商人の馬車へと近づいていく。
幌をかけられていた商品の方はまだ無事のようだが、剥き出しの御者台に座っていた者は結構な怪我をしてる。
体のあちこちを囓られてるのか血まみれになっている。
それは他の使用人達も同じで、大なり小なり怪我をしている。
(酷いなこれは)
早速、手にした核を使って治療魔術を使っていく。
特に大きな怪我にはなってないようだから、トモルの腕でも治す事が出来た。
ただ、相当疲れていたのだろう、すぐには動けないようではある。
(ま、そのうち動けるようになるか)
あまり深刻な状況ではなさそうなので、怪我を治したら放置していく。
一人にあまり時間は使えない。
ある程度大丈夫だと判断したら、次の者に向かっていかねばならない。
そんな調子で数人の人間を治療していく。
(もう大丈夫かな?)
念のために馬車の下に隠れてる者はいないか、脇の小道に身を潜めてる者はいないかと調べていく。
ついでに探知魔術を用いて周囲に誰かいないかを確かめる。
と、反応があった。
倒れてるバッタや行商人達以外にもう一人。
(誰だ?)
反応は、幌というか、雨よけの布を被せられた荷車からである。
その荷台の中に反応がある。
バッタが潜んでるのか、と思ってそちらを注意深く見ていく。
荷物と布の間を開いていき、隙間を作る。
そこに光を発生させ、中の様子を見る。
「ん?」
予想外というか、意外な者がいた。
(女の子?)
荷物の間に身を潜めていたのは、人間の女の子だった。
年の頃はトモルと大して変わらないだろうか。
(そういや、行商人が連れていたな)
あまり印象に残ってなかったが、確かにそういう者がいたのを思い出す。
この行商人の娘だったはずである。
(襲われて、あわてて逃げ込んだってところかな)
何にしても、無事なようで幸いである。
そんな彼女を、トモルはあえてそのままにした。
見つかっても面倒なだけだった。
それよりは、このまま他の者が気づくまで隠れててもらった方が良い。
(その間に、核を回収するか)
行商人と使用人達の怪我は治してある。
そのうち気が付くはずである。
それまでにさっさと核を手に入れて退散する事にした。
(バレずに済みそうだし)
そして、幸か不幸かこの時の戦闘でトモルはレベルを上げる事が出来た。
帰り道、大量に獲得した核と、上がった能力値を見て笑顔を浮かべる。
(あれが最後の一押しだったみたいだな)
図らずもしてしまった人助けのおかげで、必要な経験値を一気に達成する事が出来た。
若干だがお釣りもある。
(人助けはするもんだな)
結果として自分の利益になったからであるが、そんな事も思う。
それでもトモルは、あらためて本日のモンスター退治を行なっていく。
先ほどのようなボーナスステージは滅多にない。
それはそれでありがたく受け取るにしても、やるべき仕事まで放り出すつもりはなかった。
「さ、がんばっていきましょう!」
誰もいない野原で、しっかりと声をあげて仕事に向かっていった。
次のレベルアップを迎えるために。
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柊 トモル
5歳 男
レベル3 → 4
体力: 90/300 → 120/400
健康: 90/300 → 120/400
敏捷: 90/300 → 120/400
智慧: 90/300 → 120/400
意志: 90/300 → 120/400
共感: 90/300 → 120/400
一般教養 レベル10 → 11
知識:地理 レベル5
知識:社会 レベル5
発見/探知 レベル3 → 5
潜伏/隠密 レベル3 → 5
運動 レベル8 → 9
刀剣 レベル6 → 8
斧 レベル2 → 4
格闘 レベル4 → 5
基本魔術 レベル6 → 8
治療魔術 レベル3 → 5
探知魔術 レベル0 → 5
知識:日本 レベル8
パソコン操作 レベル15
振り分け可能技能点数: 7点
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