159回目 この状況とこの手札で出来る事はなんだろう 13
「ああいう召使いをうちでは使わないのですか?」
トモルはそう切り出していく。
それを聞いて父と母は思案顔になっていった。
「それはなあ」
「いればいいんだけどねえ」
そう言って二人は考え込む。
出来るならそうしたいところではあるのだろう。
トモルの家もそれなりに忙しい。
手伝いがいるならその方がありがたいのだ。
特に最近は冒険者が増え、収入も各段に跳ね上がってきている。
これを機に色々とやるとなると、今居る人数では足りない。
仕事の出来る人間を確保していかねばならなくなっていた。
そういった事情はだいたい推測出来ている。
何から対策は必要だろうと。
そこを上手く突ければと思いながら語っていく。
「出来るなら、村の友達とかを連れていきたいんだ」
「いやいや、それは駄目だろ」
「あくまで学校なんだからね」
さすがに両親はそんなトモルの言葉を、子供の我が儘として退けた。
そこまでする余裕がないのも確かだが、学校には勉強のために送っている。
こんなところで怠け癖をつけてもらっては困ると両親は考えていた。
「でも、友達も出来るならお屋敷で働ければって子もいるから」
「まあ、そういってくれるのはありがたいが……」
「もし召使いを入れるなら、そういう子にしてもらえないかな」
「そういう事になったらな」
本気で取り合う気は無いのだろうが、父はそう言ってトモルをなだめていった。
これで話を終わりにしたいのだろう。
だが、トモルはあと一つだけ、どうしても外せない事を付け加える。
「それと、村に来てる商人さんの子。
あの子も出来れば連れてきてあげてほしいんです」
「……何故だ?」
意外な者が出てきて父は驚いた。
なんでここで行商人の娘が出てくるのかと。
「あの子、村にいてもひとりぼっちみたいだから」
そう言ってトモルは適当にでっちあげた理由を連ねていく。
自分達と同じくらいの年代だが、たいてい一人でいる。
村の子供達も、仲良くしようにも余所者だから踏ん切りがつかないでいる。
でも、最近は村にいる事が多いようだし、仲間はずれも可哀相だ。
だったら、村の者だという事を皆に分かるようにすればいい。
だから、召使いという事にして、柊家の使用人とすれば村の関係者になる。
そうなれば、同じ村の者となる。
そうであるならば、子供も隔意なく遊ぶ事も出来る。
「だから、あの子も是非一緒に」
「そうかそうか……」
そう言って父は嬉しそうな顔をする。
トモルが子供なりに色々考えてると思ってるのだろう。
母も同じように笑みを浮かべてトモルを見ている。
「ちゃんと考えてるのね」
「……何がです?」
「ううん、いいの、こっちのこと」
可哀想な子を助けたい、そんな事を自覚もせずに言ってるのだろうと母は勘違いをしていった。
そんな事がないのはもちろんだ。
トモルは上手く話を受け入れられるよう演技をしながら、場の空気を読みながら話している。
幸いにもそれは上手くいって、父も母もトモルの願いを前向きに検討し始めていった。
そして学校に帰る日。
トモルは召使いに、使用人として奉公したいと言ってる者の名を尋ねられる事になる。
その時にトモルは、サエの名前を躊躇う事無く出した。
自分に好意的な人間は可能な限り側に置いておきたい。
躊躇う理由は何もなかった。
「それとな」
父は言葉を続ける。
「お前の言う通り、行商人にも話をしてみる事にするよ。
あちらがどう言うかは分からないが」
「本当ですか!」
トモルは嬉しそうに声をあげた。
「是非お願いします!」
「ああ、分かった分かった。
だが、こういうのは相手の気持ち次第だ。
こちらの思い通りにならないかもしれないからな。
それは分かってくれ」
「はい、もちろんです。
ありがとうございます、父さん」
そう言ってトモルは頭を下げる。
まだ結果は出てないが、話が思った通りに進んでいってくれてるのがありがたい。
「その前にまずは勉強だ。
大変だろうが、学校の方をがんばってこい」
「はい!」
元気よく返事をして、トモルは馬車に乗り込んだ。
村で使ってる荷物を運搬するために荷馬車だ。
これで駅まで向かう事になる。
下っ端の貴族なら、だいたいこんなものである。
専用の豪華な馬車なんてのは一定以上の位階にいる貴族のものだ。
それでも、歩きで移動でないだけマシではある。
「じゃあ、行ってきます」
「ああ、がんばってな」
「元気でね」
「行ってらっしゃい、兄さん」
家族の見送りを受けて、トモルは学校へと戻っていった。
これからの学校でどんな一手を打つかを考えながら。




