154回目 この状況とこの手札で出来る事はなんだろう 8
急激に増えた冒険者を見て、村の者達は危機感を急速に増大させたようだ。
今までもかなりの人数がいたのに、今はそれが更に増加してる。
それを見て、このままでは村に襲いかかるのでは、というような恐れを抱いたようだった。
子供達がトモルから聞いた事も伝わっているらしく、今後も更に増大する事を彼等は懸念していた。
さすがに襲撃は無いにしても、変に絡まれたら面倒ではあるのだから。
村の者達からすれば、冒険者とはそういう事をしかねない存在であった。
彼等の実態が分からないから、そういった想像もしていた。
だが、実際にどんな人間か分かったところで対応がそれほど大きく変わったかどうか。
馴染みのない、得体の知れない人間である事に変わりはないのだ。
古くから、何代にもわたって一緒にやってきた村の者達とは違う。
そんな者達に警戒心を抱くのは仕方のない事だろう。
これは村の者達が特別偏屈だからというわけではない。
人は見知らぬ者への警戒心を持っている。
生存本能として当然であろう。
それを今、村の者達は最大限に働かせていた。
対応する領主の方も困っていた。
いきなり増えた冒険者に驚いたし、それらが何かしでかさないかとも思っている。
だとしてもすぐにどうにか出来るわけもない。
人手が全く足りないのだ。
もし冒険者が何かしでかしたとしても、それを取り締まる力はない。
この領内で抱えてる兵力は冒険者を大きく下回る。
そんな人数では、冒険者が暴動でも起こしたら対処出来なくなる。
それに、何らかの対策をしようにも、その手段がない。
方法が分からないというのは何にしても大きな問題になる。
実働部隊も欲しいが、それらを運用する智慧も欲しかった。
だが、辺境の小さな村を幾つか治める領主に、そんなものがあるわけがない。
早くも柊家当主は進退窮まったような状況においこまれてしまった。
「大変な事になってるようですね」
トモルは父に話しかける。
帰り際に父と村人の姿を見ていたのでもちかけやすかった。
父は無理に笑みを浮かべて、
「なに、大丈夫だ」
と応えた。
さすがに子供にあれこれ相談するつもりはないのだろう。
愚痴をこぼすにしても、相手が幼い子供というのは情けないものがある。
そうやって強く振る舞うあたりは大人なのだろうとは思った。
だが、トモルはそこで引き下がりはしなかった。
折角ここまで来たのだから、必要な後押しをしておかねばならない。
「やはり冒険者の事ですか?」
この前聞いた、と告げる。
それを聞いた父は、自分が言った事を思い出して頭を振る。
失言というわけではないが、余計な事を言ってしまったかと。
「まあ、そういう事だ」
それだけを口にする。
誤魔化すわけではないが、決して必要な事は口にしない。
子供相手に言っても仕方ないと思ってるのだろう。
だが、トモルは引き下がらない。
「たくさん集まってますからね」
返事を待たずに言葉を続けていく。
「だったら、こっちも人を集めたらいいのでは」
「おいおい、何を言って……」
「僕の友達も、友達のお兄さんも呼んだりすれば無敵ですよ!」
出来るだけ子供らしい言い方で、子供らしい発想に思われるようにつとめる。
「友達のお兄さんとかも家で鍛錬をつんでるといいます。
その人達が来てくれれば大丈夫です」
「はは、なるほど。
それもそうだな」
父の返事はつれないものである。
だが、とりあえずトモルは伝えたい事を伝えた。
あとは父が気づくかどうかである。
貴族の家に眠ってる、部屋住みという埋蔵金に。
だからトモルは、あえて言及する事無く念押しをこめて、
「そうですよ、絶対です!」
と言って締め括った。
これ以上言ってもしつこいだけだし、それはそれで逆効果になるだろうと。
とりあえずこれでトモルは、思いついた事を概ねやりきった。
この後どうなるかは、もうトモルがどうにか出来る事ではない。
なるようになるしかない。
(上手くいけばいいけど)
残り少ない夏休みの日数を数えながら、残りの時間で何が出来るのかを考える。
出来るだけ上手く後押し出来れば、誘導できればとは思う。
だが、そうそう簡単にいくとも思ってはいない。
成り行きにあわせて上手くやっていくしかない。




