152回目 この状況とこの手札で出来る事はなんだろう 6
次の日、いつものように出向いた手下の所。
そこでトモルは新たな募集を出した。
「商人の経験のある者が欲しい。
仕事があるので良ければこちらに同行してもらいたい」
それを聞いて、反応する者達がいる。
潰れたダンジョンの所から流れてきた商人や、商人の店で働いていた従業員である。
彼等は冒険者の流出に伴って失業し、近隣で残ってるダンジョンの一つに流れ込んできていた。
それでも商売を行うのは難しく、どうしようかと途方に暮れてる者が多かった。
そんな彼等に、仮面を付けたトモルの言葉は救いに聞こえた。
即座に手をあげた者達に、トモルは馬車に乗るよう促した。
馬車を持ってる商人には、そのまま自分の馬車で。
そうでない者達はトモル達の手下が調達した馬車に。
それぞれ乗り込んだところでトモルはいつも通りに馬を強化していく。
それから商人と従業員の第一陣を運んでいった。
彼等が到着まで地獄を見たのは言うまでもない。
そんな彼等に行商人の事を伝えて、あとは自分達でがんばれと放り出す。
下手に行商人の所に顔を出して、自分の正体がばれるのは避けたかった。
それに、冒険者達を避難所予定地につれていかないといけない。
行商人だけにかまけてるわけにはいかなかった。
そんなわけで、いきなりやってきた者達を見て行商人は驚いた。
事前に何も聞いてないのだから当然である。
だが、彼等の経歴を聞いて更に驚く。
まさか自分が望むような人材があらわれるとは思ってもいなかった。
あまりの都合の良さに何らかの作為すら感じた。
(まさか坊ちゃんがなあ……)
そんな事も考えてしまう。
昔から不思議な事をしてた子供だから、この出来事にも関係してるのではと思ったのだ。
人手不足について語ったのもトモルしかない。
それもあって、もしかしたらと思っていく。
しかし、それでも行商人はそれについて深く考える事は止めた。
下手に詮索したり調べたりしたら、やぶ蛇になるかもしれないからだ。
それに、何がどうなっていようと必要な人間が来た事に変わりはない。
事実や真相は後日知る機会がある時に分かれば良い。
それに、今は仕事を優先せねばならない。
「そういう事なら、こちらで仕事をしてくれるとありがたい」
各自に何をしてきたか、何が出来るかを聞いて採用を考えていく。
求める能力を持ってない場合もあったが、とりあえず下働きで雇う事にする。
ぐずぐずしてるわけにはいかなかった。
ここにいるのは従業員だけやっていた者だけではない。
商人として店を切り盛りしていた者だっている。
そいつは自分の馬車を用意して、商品も持ってきている。
競争相手がすぐそこに生まれたのだ。
行商人も急いで対抗出来る状態を作らねばならなかった。
この日トモルは更に3回ほど往復して人を増やした。
冒険者も増えたが、商人や従業員も増えた。
おかげで村外れの一角は一気に賑やかになっていた。
核を取ってくる冒険者が増え、商人も稼ぎが増大していく。
(こりゃ、本当に店を開く事も考えておいた方がいいかもしれんな)
賑やかな状況を見て、行商人はそんな事を考えていく。
カウンターだけの小さなものでもいい。
とにかく、商品を置いておくことが出来る場所を作らねばならない。
それに、従業員を抱えるなら、それらが寝泊まり出来る宿舎も必要になる。
すぐには出来ないし元手も必要だ。
だが、今の状態が続くなら稼ぎはどうにかなる。
(やってみるか)
しがない行商人だった彼は、自分に巡ってきた可能性を感じていた。




