125回目 余計なお世話、あるいはやった事の尻ぬぐい
ダンジョンの中枢たるモンスターを倒し、核を回収する。
それからダンジョンからの脱出。
生き残りのモンスターも移動を開始している。
さっさと逃げ無いと、それに巻き込まれてしまう。
(急げば間に合うか?)
強化魔術を自分にかけて、勢いよく駆け出す。
ありがたい事に、前回ほどモンスターは集まっていない。
もちろん、多いは多いのだが、出口をふさぐ程ではない。
適当に数を減らせば、それで十分だった。
トモルなら問題無く出来る。
躊躇う理由は無いので、即座にトモルは行動をしていく。
魔術で広範囲のモンスターを覆い、一気に倒していく。
炎が周囲に燃え広がる。
その中に巻き込まれ、モンスターは消し炭になっていく。
中には飛びかかってくるものもいたが、それらは太刀で切断していった。
さっさと逃げればいいのに、ご苦労な事である。
ほどなく出入り口前の掃除が終わった。
他に動くものが見えなくなったところで、トモルは外へと向かう。
その足が止まったのは、背後から聞こえてきた声によってだ。
どうも冒険者がモンスターに絡まれて足止めをくってるらしい。
(あらまあ)
完全に他人事なので無視して帰ろうかと思った。
なのだが。
なぜだか足を止めてしまう。
どうしても冒険者達の事が気になってしまった。
赤の他人であるので無視しても構わない。
助ける必要性などもない。
義務なんてもとより存在しない。
しかし、だからといってそのまま見捨てるのもしのびなかった。
(行きがけの駄賃だ)
そう自分に言い聞かせて、声の聞こえるほうへと向かっていく。
ダンジョンが完全に崩壊して消滅するまでにはまだ余裕がある。
逃げる奴らを少しは助けてもいいと思った。
それに、確かめてみたい事もある。
完全な善意とは言えない理由も含めて、トモルは冒険者の所へと向かう。
その冒険者達は運が良かったほうだろう。
ダンジョンの崩壊に気づいたのだから。
おかげですぐに撤退の判断をする事が出来た。
逃げ出すモンスターと鉢合わせになる前にと考えながら。
彼らは一般的な冒険者である。
どこにでもいる、標準的な能力と強さしか持ってない。
ダンジョンに挑むだけあって、それなりの腕はもってるが。
しかし、出入り口に殺到するモンスターの大群と戦う力はない。
それらとぶつかる前にダンジョンから脱出しなければならなかった。
不運なのは、この日の彼等は比較的奥まで進んでいた事だった。
それだけ撤退が遅れる事にもなる。
何より、逃げる途中でモンスターに出くわす可能性が高くなる。
その可能性に当たってしまった事が、この日の彼等の最大の不運であったかもしれない。
それでも彼等は道を切り開いていった。
冒険者としての彼等は、決して有能という程ではない。
だが、無能でも愚かでもない。
ごく普通の冒険者として数年ほど活動を続け、それなりの能力を手に入れている。
総合レベルは10まで成長しており、技術レベルもそれなりのものになっている。
普通に戦えば、それなりのモンスターくらいなら対処する事が出来る。
ただ、今回のモンスターの規模はそれなりを大きく超えていた。
何せダンジョン中のモンスターが残らず出入り口に向かってるのだ。
その流れの一端であってもかなりの規模になる。
少なくとも、この冒険者達の対処出来る数は超えている。
その為、彼等は戦いながら少しずつ退く事になった。
押し寄せる敵を食い止めるなど無理。
押し返すなんて不可能だ。
そんな強さは持ち合わせてない。
迫るモンスターを少しずつ切り払い、勢いに飲み込まれないように下がっていく。
そうやって敵に出血を強いながら、少しでも生き延びる為に動いていた。
それでもジリ貧である。
このままいけばいずれは倒れる事になる。
それに、ダンジョン崩壊も進んでいる。
外に出られなければ、巻き込まれて死ぬ。
それでも必死になっていく。
ここまで生きてきたのだ、ダンジョンで。
ここでも生き延びるために必死になっていく。
なのに生還の可能性が全く見えてこない。
冒険者達の顔には絶望が浮かんでいた。
そんな彼等の目の前で、迫るモンスターの大半が吹き飛ばされていく。
地面が勢いよく隆起して、冒険者達に迫るモンスターの列を分断したのだ。
目の前のモンスターの数は大きく減る。
これにより冒険者達は、目の前にいるモンスターだけを相手にすれば良くなった。
「今だ!」
絶好の機会とみて、リーダーが声をあげる。
それに従って仲間も目の前にいるモンスターを蹴散らしていく。
対応可能な数にまで減ったモンスターは冒険者の敵ではない。
その瞬間、冒険者達には生き残る可能性がもたらされた。
彼等にとってのこの日最大の幸運。
それは、トモルが駆けつけた事であろう。
もっとも、この事態を引き起こしたのもトモルである。
差し引きで考えれば運が良かったのか悪かったのか。
どちらであるかは、今の段階では判断が出来ない事である。
だが、冒険者達は全滅の可能性を回避した。
これだけは紛れもない事実であった。




