115回目 ダンジョン、ボス殲滅後の撤退
のたうち回るボスに何度も刃を叩き込む。
トモルの手にした刃渡り150センチの山刀は、もがくボスを輪切りにしていく。
分厚い刃は包丁のように綺麗に切断はしない。
ボスの体も簡単に壊れるようなやわなものではない。
だが、遠慮など何一つないトモルの攻撃は、そんなボスの体を各所で切り離していった。
比較的柔らかい、頭・胴体・腹の連結部から。
それらが終わると、各部位を。
再生能力によって傷口が塞がれないように。
そこまでされたら生き返る事は出来ない。
かろうじて保っていた生命を潰えさせていく。
横たわり、のたうつ体を切り裂かれていく。
ダンジョン中枢であるボスモンスターは、こうして死んでいった。
確実に息の根を止めたところで、トモルは核を切り取っていく。
ダンジョン中枢であったボスモンスターのものだ。
他のモンスターとは比べものにならない魔力純度をほこる。
圧倒的なまでのそれは、高値で取引される。
持って帰れば結構な小遣いになる中枢モンスターの核。
それでいて大きさもほどほど。
持ち運べないほど大きいというわけではない。
手で握れるくらいの大きさだ。
個体差はあるだろうが、今回のボスの核はその程度の大きさだった。
通常の核よりも、いくらか大きいくらいである。
それを手にしてトモルは、ダンジョンから脱出していく。
長居は無用。
ボスモンスターの死亡は、ダンジョンの消滅に直結する。
中枢を担ってるだけはある。
そうなるのも、ダンジョンがボスの作り出した異空間だからと言われている。
真相は不明であるが、そう推測されている。
その為、ボスを攻略したら急いで脱出する事が求められる。
でないとダンジョンの消滅に巻き込まれ、異空間に消え去る事になる。
とはいえ、これは確かめられたわけではない。
消滅に巻き込まれた者のその後など、調べようもないのだ。
だが、脱出に失敗した者が姿を消すのも事実。
逃げ遅れた者と再びまみえた者はいない。
ただ、ダンジョンの崩壊に巻き込まれたのは間違いない。
その為トモルも、ダンジョンが崩壊する前に脱出しようとした。
こんな所で死ぬのは御免だ。
なのだが、そう簡単にはいかない。
「あらまあ……」
核を回収して逃げだそうとしたトモル。
その前にかなりの数のモンスターが集まっていた。
ダンジョンの崩壊がすぐそこに迫ってるというのにだ。
「どうなってんだ?」
あきらかに異常だった。
通常、ダンジョンが崩壊するとなればモンスターも逃げ出す。
崩壊に巻き込まれるのをモンスターも恐れてるからだろう。
にも拘らず、トモルの周囲には驚くほど多くのモンスターが集ってる。
(どうして……)
そう思うトモルの頭に、ある可能性が浮かんできた。
死ぬ間際、ボスはやたらと翅を振るわせていた。
トモルはそれを威嚇だと思っていたのだが。
(あの音が仲間を呼び寄せたのか?)
可能性としてそんな事を思いついた。
実際にどうなのかは分からない。
だが、可能性は否定出来ない。
少なくとも、音によって何かをもたらしたかもしれない。
それは、何らかの警告を周囲に与えていたのかもしれない。
あるいは、それが招集の呼び声だったのか。
確かめようもないが、何らかの影響を与えていたのは間違いない。
少なくとも、目の前にモンスターが集まってる理由に思える。
まさかダンジョン崩壊の瀬戸際でも、こうして集まるとは思わなかったが。
ボスからしたら、トモルに一矢報いたかったのかもしれない。
あるいは、死ぬ前に呼び集めるつもりだったのかも。
仲間を集結させて、トモルに攻撃させるために。
そうなれば勝算があると思ったのだろうか。
だが、その前にトモルによってボスは死んだ。
結局、何を意図していたのかは分からない。
中枢であるボスはもう死んだのだ。
確かめようがない。
だが、何を意図していたのかはともかくとして。
トモルの周囲にモンスターが集まってるのに変わりはない。
これを突破しなければ生き残る事は出来ない。
(やってくれる)
おそらくはボスが最後に作り出したのであろうこの状況。
それにトモルは舌打ちをした。




