113回目 ダンジョン、ボス攻略
泥の中に沈んだ幼虫モンスター。
炎にくるまれて灰になっていくモンスター。
逃げ場を失い死んでいくそれらを心地よく見ていく。
経験値もそれなりに入ってる事だろう。
(でも、核は回収出来ないか)
それが少し残念だった。
だが、気にしてる場合ではない。
片付けねばならない大物が残ってる。
それの相手をするために、自分に強化魔術を。
手にした武器に付与魔術をかけていく。
この付与魔術。
基本的に威力を上昇させるために用いる。
また、狙った敵に攻撃を当てやすくするのにも用いる。
しかしトモルの場合、付与魔術を使う理由がいささか異なる。
トモルの場合、能力が常人を超える。
それを強化魔術で更に跳ね上げている。
普通の武器を使ったら、その力に武器が耐えられない。
敵を攻撃した途端に粉砕するという事もある。
それを避けるために、武器の強度を付与魔術で上昇させねばならない。
でなければ、数回使った程度で武器が駄目になる。
能力強化による、思わぬ問題だった。
持つトモルの泣き所の一つである。
それを避ける為に、武器を強化する。
敵に与える威力を上昇させる事も狙ってるのも確かだ。
だが、それ以上にトモルの力に耐えさせる為だった。
こうして不安を取り除いてから、ダンジョン中枢たるモンスターへと向かっていく。
中枢のモンスターも混乱してるようだった。
突然幼虫が土に沈み、卵も周りの草木も燃えていったのだ。
その反応は当然だろう。
そして、その中心にいるトモルを向けて怒りの表情を向けてくる。
だが、飛びかかってくるかというとそうではない。
中枢モンスターも感じ取ってるのだろう。
吹き上がってる風を。
それによって飛び立つ事が出来ないでいる。
人面虫の中枢モンスターにも翅がある。
それで多少の飛行能力を持っている。
しかし巨体を支えるにはいささか力不足だ。
風が強いと、空中で巨体を保つ事が出来ない。
その為、地面を伝ってこようとする。
だが、そうなると泥でぬかるんだ地面に足をとられる。
水分はだいぶ取れてはいるのだが。
まだいくらか柔らかいようで、巨体を支える足が埋まってしまっていた。
そこにトモルは遠慮無くとびかかる。
手にした長大な刀剣を掲げて。
刃渡り150センチという、今のトモルよりも長く大きな刃。
鉈や斧のように厚みのあるそれは、山刀やマシェットに近い形をしていた。
それをトモルは巨大人面虫にたたき込んでいく。
右肩に担ぐように走り、その体勢から刀を繰り出す。
八相と呼ばれる構えににている。
そこから袈裟懸けにするように分厚い刀剣を振る。
身動きの取れない巨大人面虫は、防ぐ事も出来ない。
刃が巨体にめり込んだ。
しゃあああああああああああああ!
女のような顔をした口から、人間のものではない悲鳴があがる。
乱雑な切り口からも、緑色の血液が飛び出していった。




