102回目 彼らの事情 4
ここでやっていくしかない。
この場所でのやり方に馴染みすぎた。
他での上手くやっていけるか分からない。
…………そんな言い分を全て無視していく。
「ここでずっとやってきたのかもしれないけどさ。
あんたらだって、そんなにレベルが低いわけじゃないだろ」
長くやってるなら、それなりのレベルになってるもの。
少なくとも素人という事は無い。
それなら、他のダンジョンに行ってもそう手こずる事は無い。
稼ぎは慣れ親しんだダンジョンよりは落ちるにしてもだ。
困窮するほどまずい事になるわけがない。
どこのダンジョンに出て来るモンスターも、強さはだいたい同じくらいなのだから。
例外はあるが、ダンジョンのモンスターの強さはそう違いがあるわけではない。
出来たてだったり、特別巨大な所はともかく。
たいていのダンジョンのモンスターは、どこにいってもほぼ同じ強さをしている。
若干の違いはあるが、極端に大きな差はない。
なので、ある程度場数を踏んだ冒険者なら、何処に行ってもそれなりにやっていける。
ダンジョンによって出てくるモンスターの特性は違うにしてもだ。
それならそれで、特性に合わせた戦い方をしていけば良い。
それはそれほど難しい事ではない。
それでも、別の場所で始めるというのは難しい。
少しでも勝手が違うと戸惑う事もある。
それが命のかかった仕事なら二の足踏むのも当然だ。
だが、だからといってトモルはダンジョンの破壊をやめるつもりはない。
やらねば自分のやりたい事が出来ないのだから。
その為に他人の都合など考えてられない。
他人の都合は自分にあわせる。
その上で、都合に巻き込む者に損をさせない。
するかもしれないが、出来るだけ小さなものにする。
小さくなるように努める。
結果がどうなるかは保証しないが。
だからトモルは告げる。
はっきりと。
「別のダンジョンに行ってくれ」
答えが揺らぐ事は無い。
「俺が教える所に行ってくれ。
知り合いがいる」
彼等の事情を考えた上でトモルは告げる。
「そこならここと同じようなモンスターが出る。
勝手が違うって事もない。
あと、俺の知り合いもいる。
細かいやり方をそいつらに聞いてくれればいい」
トモルが提示出来る、最大の条件だ。
悪い話ではない。
ダンジョン攻略と破壊。
それが避けられないなら、次を目指すしかない。
幸い、その為に必要な手はずはととのえてもらってる。
ならば、あえて執着する必要も無い。
それは冒険者にも分かった。
だが、それでも知らない所に行くのは勇気がいる。
その一歩がなかなか踏み出せない。
「なあ」
未練がましく冒険者は問いかける。
「どうしても駄目か?」
「駄目だ」
トモルの答えはにべもない。




