101回目 彼らの事情 3
別のダンジョンで荒稼ぎをして。
ついでに「このダンジョン破壊します」宣言をした翌日。
この日もトモルは、破壊予定のダンジョンに潜る。
まだ攻略はしないが、モンスターを可能な限り駆逐する。
まだ中枢破壊は難しいのではと考えてるからだ。
慎重の上に慎重を重ね、レベルアップを怠らない。
それに、事前にモンスターを間引いておけば、中枢破壊時に楽になるかもしれない。
中枢破壊が手間取るのは、ダンジョン内のモンスターが集まってくるからだ。
おそらく、中枢を助ける為なのだろう。
それならば、事前に間引いて、救援に来る怪物を消しておく。
モンスターの繁殖力は高いが、減らせばそれだけそれなりの効果はある。
だからこそ間引きを行なっているのだ。
それを大規模にやるだけである。
「今日も頑張るか」
気合いを入れていく。
そんなトモルの前に、前日出会った冒険者達があらわれた。
ダンジョンの前で待っていたようである。
他にも何人かの冒険者がいた。
「よう、ちょっといいか」
そう言って彼等はトモルの前に立つ。
あまり友好的とは言えない雰囲気だった。
実際トモルに向ける表情は硬い。
そんな彼らが喋る事も同様にこわばったものだった。
「あんた、ダンジョンを壊すんだってな」
「ああ、そのつもりだ」
「その……それは控えてくれないか?」
それは、ダンジョン攻略の制止だった。
それを伝える為に、彼らはトモルがやってくるのを待っていたのだ。
「あんたが何を考えてるのか分からん。
けど、ダンジョンが無くなると俺らも食い扶持を無くすんだ」
「そうだろうね、それくらいは知ってるよ」
トモルは彼等の言葉を聞いて話し始める。
「だから新しい所を探してくれ。
なんなら、こっちでも案内するから」
「いや、だからな……」
「場所を教えるから、そちらに出向く準備を始めてくれ。
その為の路銀は、俺が倒したモンスターの核で賄ってくれ。
それで片道分はどうにでもなるはずだ」
「…………」
トモルの声を聞いて冒険者は黙る。
話を聞くためではない、話にならないと思ってだ。
「なに、教える所にいけば食い扶持には困らない。
そっちで新たに頑張ってくれ。
どうせいつかは壊さなくちゃならないのがダンジョンだ」
「そりゃそうだけど」
「だから、新しいダンジョンに向かってくれ。
倒したモンスターの核を売れば、路銀くらいにはなるだろ」
「簡単に言ってくれるな」
「ああ、簡単に言うさ」
苦々しそうな相手に、トモルは何一つ同情も譲歩もしなかった。
言いたい事も気持ちも分かる。
だが、譲歩すればこのダンジョンを破壊出来ない。
そうするわけにはいかなかった。
それではトモルが描いてる予定が崩れる。
「ダンジョンを破壊するのを止めるつもりはない。
そうする理由も無い。
俺は絶対にやるつもりだ」
そう言って彼等と対峙する。
仮面越しであるが、相手と向き合う。
体格差はあるが、堂々としている。
その態度に、冒険者達も気圧されてしまっている。
なまじ、トモルが戦ってるところを見たせいもあるだろう。
どれだけ簡単にモンスターを蹴散らした事か。
それを知れば、迂闊に抵抗も出来ない。
冒険者もトモルの戦闘力を理解している。
他を大きく凌駕する戦闘力を。
それと敵対すれば最悪の危機になりかねない。
一方的に殲滅される事もあり得る。
そうならないように、彼等は出来るだけ交渉でトモルを翻意させようとしていた。
もっとも、交渉するつもりのないトモルに、それは通じない。
だが、トモルの戦闘力を聞いても怯まない者達もいる。
彼等は交渉でどうにかしようとする冒険者達をおさえて、トモルに声をかける。
「それでも俺達はここから離れるわけにはいかないんだ」
成り行きを見守っていた一群が声をあげる。
「他に行って上手くやっていけるかどうか分からない。
俺達はここでやってくしかない。
だから、勝手な事はしないでくれ」
彼らも必死だった。
その言い分ももっともだ。
新しいところで上手くやれるかどうか。
それは常に付き待つ問題だ。
ダンジョンも様々な形態がある。
どこか似通ってる部分もあるが、全く様相が違うダンジョンもある。
その為、下手に他のダンジョンに移動するわけにもいかない。
勝手が分からず苦戦するかもしれないのだ。
命がけの仕事で、それは出来るだけ避けたいものだ。
「俺達にはここしかないんだ」
なまじこのダンジョンに馴染み過ぎたのだろう。
ここで特化しすぎた為に、他への応用がきかない。
そうなってるのかもしれない。
しかし、トモルからすればそんな事どうでもいい。
「それでも、あんたらもそれなりのレベルなんだろ?
だったら他でもやっていけるさ」
そう言って突き放す。




