100回目 彼らの事情 2
必要な人材を確保するためのダンジョン破壊。
あまりにも身勝手な理由である。
だけどトモルは、一切の躊躇なしにそれを実行していく。
そこに集まってる者達の生活を考えると、可哀相だとは思う。
思うのだが、その気持ちは押し殺す事にした。
稼ぎ場を失ったなら、トモルの実家や学校近くのダンジョンで吸収すれば良い。
むしろ、そうやって実家や手下の冒険者を成長させる方が大事だ。
ダンジョンの周りにいる者達に彼等の生活があるように、トモルにも欲望や欲求がある。
それを満たすために彼等を必要としていた。
その為に強制的な立ち退きを強いるのだ。
実に、最低最悪である。
だからこそ、受け皿を用意しておくのだ。
実家、もしくは自分の手下という。
さすがに着の身着のまま放り出すのは気が引けた。
結果としてそうなるが、出来るだけの後始末はするつもりでいた。
(まあ、路銀くらいは提供するし)
せめてもの餞別に、そういうものも提供するつもりだった。
ただし、現金を配布するのではない
ダンジョンに突入して倒すモンスター。
その核を無償で提供するのだ。
何の事はない、学校近くのダンジョンでやってる事である。
それをこのダンジョンでやるつもりなのだ。
規模を最大限に拡大して。
そうすれば、別の町にいくまでの路銀くらいにはなる。
あとは行き先を伝え、目的地に向かってもらう。
そうして冒険者達が退散したところで、ダンジョンを破壊する。
実に大雑把な計画である。
行き当たりばったりの要素が強すぎる。
そもそも、冒険者が納得するのか悩ましい。
なのだが、
(でも、やるしかないし)
などと考えて開き直る。
全ては自分の利益の為だと。
(他人の利益の為に尽くしても、良い事ないし)
そうも考える。
感謝の言葉くらいはもらえるかもしれないが。
得られるのはせいぜいそれくらいだ。
ならば、他人にどれだけ憎まれようとも、自分の好きなように生きようと思った。
利益をしっかり確保しながら。
そんな独善的な理由で始めるダンジョン攻略。
いつも通りにトモルは、探知魔術でモンスターを見つけていく。
見つけて即座にそれらを殲滅していった。
後に残る核はそのままにしていく。
核を放置したらモンスターが蘇る可能性もある。
それでも敢えてそのままにした。
生き返るならそれでもよい、また経験値になってくれる。
たまたま遭遇した冒険者が核を回収するならそれでも良い。
彼等の今後の旅費になる。
そうしてダンジョン内を巡っていくうちに、冒険者にも出会っていく。
そうした時にトモルは、
「これからモンスター倒しにいくんで、倒したモンスターの核はそちらに譲るよ」
と声をかけていった。
いったい何だそれは、と冒険者達は訝しげな表情を浮かべていく。
それでも興味をひかれる者も出てくる。
言ってる事が本当なのか確かめるために、トモルについていく。
そうした者達は、宣言通りにモンスターの死骸を放置していくのを見る事になる。
「ついてくるなら、他のモンスターの死骸も好きにしていいから」
そう言うトモルの言葉に、冒険者達は一も二もなく食いついていった。
そうしてダンジョンの中を駆け巡り、モンスターを倒していく。
今回は冒険者がついてくる事を全く考えずにやっていた。
そのせいで、トモルを追いかけられなくなる冒険者も出てきた。
それらを気にせず、トモルはモンスターを倒していく。
核はどうでも良いが、とにかく経験値が欲しかった。
そうして怪物をひたすら倒した翌日。
再びダンジョンに向かうと、その入り口付近に冒険者がたむろしていた。
結構な数である。
その一人がトモルの前に出てくる。
前日に顔を合わせた者だ。
それが代表するように尋ねてくる。
「なあ、今日もついていっていいか?」
彼等からすれば、楽して儲けられる機会と考えているのだろう。
トモルは即座に返答をする。
「もちろん」
それを聞いて冒険者達の顔がほころぶ。
「今日もこの中を回って、モンスターを倒すつもりだ。
死骸はそのままにしておくから、核は好きにしてくれ」
その言葉に冒険者達は歓喜していく。
だが、その次の言葉で唖然とする。
「明日明後日で中身を粗方片付けるつもりだ。
そしたら、ダンジョンの中枢に行く。
それを潰してこのダンジョンを破壊するから」
聞いてる誰もが思った。
こいつは何を言ってるのだろうと。
だが、その言葉の意味を理解していくにつれ、彼等は青ざめていく。
それが自分達の失業につながりかねないのを理解して。
「お、おい、それって……」
「言いたい事は色々あると思う」
何か言おうとする冒険者達の言葉をトモルは遮る。
「でも、俺はやるつもりだ。
他のダンジョンに移動する事も考えておいてくれ」
「…………」
「まあ、他のダンジョンや稼げる所もある。
とりあえず、あっちの地方の方に行ってみたらどうだ」
自分が普段使ってるダンジョン、そして実家の方を伝えていく。
それを聞いて冒険者達は騒ぎ始めた。
トモルの言ってる事をどう判断したらよいのか悩んでるらしい。
そんな冒険者達を放置して、トモルはその場から走り出していく。
「何にしても、明日明後日の事だ。
それまでに考えをまとめておいてくれ!」
走りながら強化魔術をかけていく。
凄まじい早さでダンジョン内に向かう。
それを見て冒険者達は慌てておいかける。
話の続きをしようとする者。
とにかく今日も核を手に入れる為についていく者。
頭が混乱し何も考えられないまま、釣られるように走り出した者。
理由は様々だが、とにかくトモルを追いかける。
そんな冒険者達の前で、トモルはひたすらモンスターを倒していった。
後ろに続く冒険者も、目の前で倒れるモンスターを見て考えを止める。
思う事は色々あるが、目の前に核がある。
それを手に入れようとしていく。
稼ぎは何にしても必要なのだから。




