76.それから
『魔王討伐記念式典』から3年。
魔王が世界から倒され。
僕ら『冒険者』の仕事は……。
――まだ、残っていた。
「ほーら、足元がお留守っス!」
「調子に乗るなよフリッター!」
どひゅっ、どひゅっ!
ずばぁん!!
軽快な弓矢と豪快な大剣。
すっかり相棒のようになったフリッターとガルデは、僕らの護衛という枠には収まらずに、純粋に二人だけでクエストをこなすことも多くなっていた。
ま、今日は5人揃ってのクエストなんだけどね。
「はぁ~、私は楽出来ていいです。もう皆さんのレベル、S級冒険者なんて言葉じゃ足りませんよね」
「もう、気を抜かないでよ!」
「ははは、まぁしょうがないよ。あれから『無敵催眠』も滅茶苦茶進化しちゃったし」
そう。
魔王軍の残党なんていう強敵を相手にしたからなのか、僕らの能力がある種のピークを更に乗り越えたのか。
ブライアに補って貰っていた欠点はいつの間にかなくなり、僕らの『無敵催眠』は、恣意的に敵を選べたり、範囲を100m以上まで拡げられたりと、その無双っぷりにも磨きがかかっていた。
お陰で最近じゃ、ブライアは家事や育児にだけ集中している、文字通りのパーティのおふくろさん状態だった。
うん、そう。
僕とリーピアの、子供ね。
「スリッピィちゃんも、すっかりあんよが上手になりましたねぇ」
「ぶらいあー」
戦場に抱っこしてくる位の余裕を見せるブライア。
僕らの能力に全幅の信頼を置いてくれるのは良いけど、赤ちゃんにとってあんまり教育上よろしくない場面が繰り広げられている。
「ま、良いんじゃない。眠らせるだけ、眠らせるだけ」
「そのあと首を斬り落としたりしてるんだけどね……あぁ、僕らの娘も冒険者になっちゃうのかなぁ」
それはそれで、という気持ちもあるが。
「あーあ、私だけすっかり行き遅れちゃいましたね。フリッターさんとガルデさんは、何だかんだでラブラブっぽいですし」
「そ……うなのかな?」
「どうかしら」
ブライアが行き遅れたなんて言ってるのも、正直不誠実な気はしたが。
何しろ、ずうっとプロミナからの愛の告白を袖にしているのだから。
因みに、ガルデとフリッターは、別に前と変わりない。
ラブラブに見えるのは、まぁ、ブライアのそういうフィルターがかかっているという事だろう。
「でも、あれから3年かあ。トルスさんやリエルさん、それにマゴリアさんたちはどうしてるかな?」
「それぞれ元気にやってるんじゃない? アストリアの復興も、少しずつ進んでるみたいだし。マゴリアさんとはたまに手紙のやり取りしてるけど、変わりないみたいだしね」
「はい、私は旧知という事もあってたまーに手紙を貰いますよ。相変わらず、オスオミさんとラブラブバカップルみたいですね」
ブライアは笑って言う。
「どこもかしこも、バカップルだらけだね」
僕は自分の事を敢えて棚に上げて言う。
「良いんじゃない? 世界が平和って、そういう事よ」
平和になる前からバカップルだった僕らが言っても、説得力はないけれど。
やがて、僕は言った。
「この先もずっと、こんな風に5人で仲良くギルド活動していけたら良いね」
僕は心底そう思った。
最初は日銭を稼ぐための冒険者稼業で。
そこに大した思い入れも、愛着もなかったけれど。
時に追放され、悲しみ、苦しんだけれど。
でも、リーピアとの出会いがすべてを変えてくれた。
「私も、ずうっとスレイドと冒険してたい!」
リーピアは変わらぬ笑顔を僕に向けて、言った。
僕は微笑む。
「うん。これからもよろしくね、リーピア!」
そして、僕は何も言わず、彼女にキス。
彼女は不意打ちに顔を真っ赤にしつつも、返してくれる。
その様子を見て、ガルデも、フリッターも、ブライアも笑う。
「まったく! 相変わらず、ラブラブイチャイチャ! お安くないっスね!」
「ははは!」
「もう。スリッピィちゃんには見せられないじゃないですか!」
「ぶらいあー? おめめかくさないでー?」
僕はふと、思いついたように言った。
「スリッピィ。パパとママが、おねむにしてあげるよ」
「娘になーに乱暴な能力使おうとしてんの、もう」
言いながらも、調整が利くようになった僕らの能力でそんな事にならないと知ってるリーピアは、僕と声を揃えて、言った。
「無敵、催眠」
それを聞いた僕らの娘、スリッピィは。
すやすやと、安らかに、寝息を立て始めるのだった。
(終わり)
どうも0024です!
ついに完結です!
いやー、過去最高に長くなりました、この連載。
色々と思う所はいっぱいありましたが、楽しかったです!
スレイド達の冒険は、いずれまた別の形で書くかもしれません。
その時まで、彼らがどう生きるのかは……ご想像にお任せします!
ではでは、また次回作で!




