60.一角獣の捕獲
「遅いですわよ。女性を待たせるなんて失礼じゃなくて?」
「そうよそうよ! お姉さまに失礼!」
「ほーんと、相変わらずトロくさいんだから」
「スレイド、あんたお姉さまの足引っ張んじゃないわよ」
相変わらずの上から目線でパライヴァと取り巻きは僕らに言う。
僕一人に対してだからまぁ良いけど、リーピアの目の前で変な事言ったらタダじゃ済まないってあれだけ脅しといたのに、懲りないもんだ。
「な、何なのよあんたたち。共闘しようってギルドに対して、その威圧的な態度はないんじゃない?」
リーピアも彼女らの態度には、流石に鼻白む。
「ムカつく連中っスね。叩きのめされたいんスか?」
フリッターは予想通り、喧嘩腰で話し掛ける。
まぁ、売り言葉に買い言葉、だよなあ。また、フリッターは特にこういう連中に当たりが強い。
「ま、まぁまぁお二人とも。こういう方たちなので、いちいち突っかかってたらキリがないですよ」
「ああ、慣れるしかない」
ブライアは『余計な一言』を交えつつ(ごめん、その言葉は正直スカッとした)、ガルデは寡黙に彼女らをスルー。
「じゃあ行こうか、パライヴァ」
僕は言う。
「ふん。そうですわね、こんな所でグダグダ言い合ってる時間が惜しいですわ」
パライヴァも不承不承、僕に続く。
リーピアはその様子を見て、妙に不満そうだった。
「何。どうしたの」
僕はリーピアに近付いてそっと耳打ちする。
「んー? いや、仲悪いって言ってたけど、そうでもないんじゃない? って」
「え、ええ……? どこを見たらそう見えるのさ」
僕は理解不能なリーピアの嫉妬に困惑した。
「……どこって言われると困るんだけど、なんか、空気感。敢えて言うなら、なんか……喧嘩してるんだけど、心の奥底で妙に通じ合ってるっていうか……言葉を選ばずに言うなら、相棒感……」
「僕の相棒はリーピアでしょ! 今更、変な嫉妬しないでよ!」
思わず大声を上げてしまう。
「ちょ、ちょっと声が大きいわよスレイド」
照れるリーピア。
いや、照れてどうするの。恋人だって事も公言してるんだから。
もう、最近はリーピアもこういう変な嫉妬をしなくなったと思ったのに、なんで急に。
「女は理屈じゃないんですよ、スレイドさん」
と、先日『女は打算で動く』と言い放ったフリッターと対照的な事をそっと僕に言うブライア。
まぁ、リーピアが感情最優先に動くのは言われるまでもなく僕もよく知っているのだが。
それにしても、割と今更な感じがする。
「理解しきれないね」
恋人の複雑な心境を慮って、僕は頭を悩ませるのだった。
◆◆◆
「あれが一角獣、か……」
「ええ、この森に棲んでいる下世話な馬ですわ。まずはあなた方の『無敵催眠』とやらで眠らせて頂けますこと?」
パライヴァが言う。
僕らが『無敵催眠』で眠らせたら、その時点で終わりって気もするけどね。
「じゃ、あんまり近づいちゃ駄目だよ。この能力、半径50mにいる面々には敵味方関係なく通じちゃうから」
「不便な能力ですわね。わたくしたちを眠らせて好き放題にする事も出来るという意味では、便利なのかも知れませんけど」
つまんない挑発をするなあ。
僕は嘆息して、ガルデ、フリッター、ブライアに目配せする。
勿論、ガルデ・フリッター・ブライアには、事前に『視界封印』と『心眼開花』をかけている。
しかし、彼女達には、今回は黙っておく事にしたので、久々に仲間に対して『半径50m』を意識した『無敵催眠』の発動を実行する事になる。
僕は敵との距離を慎重に計る。
目測、約30m。十分だ。
更に後方、敵から80mは離れた辺りでガルデ達には待機してもらう。
「行くよ、リーピア」
「任せて。『限定超強化』かけたら、即座に『短時間催眠』発動させてね」
「いつも通りだね」
「ふふっ」
僕らはヒソヒソと『無敵催眠』の準備を整える。
「「せーの」」
僕らの声が重なる。
「「無敵……催眠!!」」
ピカッといつものように僕らの放つ閃光が、一角獣を包み込んだ。
「ブフ……ブルルッ……」
閃光を浴びた一角獣は、ぐっすりと眠る。
処女の膝枕ならぬ、草地の上に、ごろんと。
「やったね!」
「ラックショー!」
S級クエストとは言え、どちらかというと『採取系』に属する一角獣の捕獲は、こうしてあっさりとこなす事が出来たのだった。
(つづく)
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