58.スレイドの女難
「一体、何があったんだスレイド? お前らしくない、大分挑発的な交渉だったな」
「そ、そうですよ。ちょっとカッコ良かったですけど、ヒヤヒヤしましたよ?」
ガルデとブライアが口を揃えて言い募る。
僕はグッタリ疲れてトボトボと歩く。
「あぁ、そうだよね。僕も言ってて、すんごい疲れた」
何があったかは本気であまり語りたくないが、まぁ、愚痴を吐く程度の気持ちで言っておくか……
どうせ、隠しきれるものでもないだろうし。
「実はね、あの4人、僕を寄ってたかって性的に愚弄しようとしたんだよ」
その言葉にガルデもブライアも硬直する。
「夜な夜なあの4人って色々しててさ。僕が偶然そこを見ちゃったもんだから、パライヴァは嬉しそうに『精神屈服』でさっきみたいに『彼女の虜』にして、取り巻きのジルヴァ、ワルト、ダンコは僕に裸を見せつけてニヤニヤしてたし、地獄だよ。背徳の宴、悪徳の極み」
僕はベラベラと、過去に遭った『酷い目』の話を思わず吐き出してしまうが、ブライアもガルデもドン引きだった。
特に女性であるブライアの前でここまで赤裸々な話をしたのは不味かった。
「あ、ご、ごめんブライア。君がいるのにこんな」
しかしブライアは別の意味で青褪めていた。
「い、いえ。お、女所帯へ男一人、って、そういう恐ろしい事もあるんですね……よ、世の男性に『ハーレム』が素晴らしいなんて認識、取っ払って欲しくなる地獄ですね……」
ガルデはガチでビビっていた。尊敬の念すら伺える、それは恐らく男性としての共感だったのだろう。
「お、お前、そんな環境で、よく貞操を守り切って、無事でいられたな……お前がリーピアの肉体的な誘惑にいつまでも屈しなかった理由が、ちょっと見えた気がするぜ……」
僕の『極楽鳥の誘惑』での出来事は、ガルデとブライアにとって想像以上の衝撃をもたらしたようだ。
まぁ、僕自身よく『男として』彼女らの淫猥な誘惑に耐え切ったものだよと思う。
彼女らが女色じゃなく両刀だったら、多分今頃僕は彼女らに貞操を奪われていたと思う。
◆◆◆
「お帰りー、どうだった? 交渉」
「あ、うん。まぁ、そこそこ滞りなく終わったよ」
僕はサラリと嘘を吐いた。
色々あったと言うと芋づる式に『例の件』まで露見しそうだからだ。
『例の件』だけは、彼女には真実は知らせないほうが精神衛生に良い。
その事は、ガルデとブライアにもキッチリと言い含めておいた。
「へぇ~、スレイドも随分交渉上手になったっスね。童顔だけど、やるときゃやる男、流石ギルドマスターっス」
「よしてよ」
あれ程キツい舌戦の後では、フリッターのいつものからかい口調がむしろ心地良いくらいだった。
「私が『限定超強化』を使う事にはならなさそう?」
リーピアが恫喝めいた口調で言うが、
「あー、うん。もし相手のギルドマスターが僕に『精神屈服』っていう固有能力を放とうとしたら、こう……こういう感じの予備動作があるから、その時は迷わず『無敵催眠』使おう」
僕も彼女の言葉に乗っかって、説明した。
ジェスチャーを交えて、高飛車な彼女の『固有能力』発動前の仕草の真似をする。
するとリーピアは冗談のつもりだったのか意外そうに、
「え、うん。じゃあ、マジでスレイドに敵対的なのね? 警戒心上げておく?」
「ちょっとだけね。なるべく敵対はしたくないと言ったけど、想像以上に突っかかってきたから」
そこだけは言っておく必要があると思い、伝えておいた。
「そんな敵対心強かったんスか。へぇー」
「ちょっと予想の斜め上だったかな」
僕はフリッターには迂闊な言い方をすると変に話を引き出されそうなので、つとめて軽い口調で嘘を吐いた。
するとフリッターは、今度はガルデに水を向けた。
「ガルデ、どんな印象だったっスか? 連中」
「あぁ……高飛車、だな。一言で言うと」
ガルデは無難な感じで誤魔化してくれる。
そしてブライアは。
「そ、そうですね。スレイドさんに対して常にこう、上から上からって感じで話し掛けてくると言うか……優位に立とうとする感じでしたね」
ぶ、ブライア。そこまで言わなくて良い。
彼女の悪癖が悪いタイミングで発動したな、と僕は思った。
「優位に? なんで?」
あぁ、ほら。リーピアが反応しちゃった。
僕は目線をブライアに送る。誤魔化して!
「えっと、分かりません。なんか、スレイドさんが『使えないスキル』を『すっごく強いスキル』にした事に、嫉妬してるんじゃないですかね?」
ブライアは口が滑りましたごめんなさい!と僕にだけ分かるハンドサインを送って、適当に言った。
「ふうん。まぁ、でもそれなら、こっちの能力欲しさにもっとすり寄って来てもよさそうなのに、上からねえ。プライドが高い女なのかしら。身の程知らずっていうか、なんていうか。……ま、何にせよ、お疲れスレイド。いたわってあげるわよ~、リーピアお姉さんが恋人としてね! ふふっ」
リーピアはブライアの言葉に妙な違和感は覚えたようだが、取り敢えずそれ以上深堀りする気はなく、恋人モードで僕をいたわってくれる。
「ありがとうリーピア。君の存在が癒しだよ……」
僕は、本気でそう思った。
あれだけ上から目線でこっちを屈服させようとする女性と話すのがしんどいとは。
僕はリーピアの、友人みたいな関係に近い恋人が、どれだけ癒されるのかと思い知るのだった。
(つづく)
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