48.僕たちの場合
「綺麗……まるで星の海にいるみたい」
「そうだね……今頃、みんなもこんな星空を見ていたりするのかな」
リーピアと僕は、星空を眺めて感慨にふけっていた。
「もう。今は『みんな』の事は良いじゃない。わ、私だけを……見て、なんちゃって……」
「あはは」
リーピアはそんな風に、ものすごく恋人っぽい独占欲をあらわにしたかと思うと、恥ずかしそうにうつむく。
相変わらずな彼女の滑稽さに、僕は思わず綻んだ。
「もう。何よ、スレイド」
「いや? リーピアって、奥手なのか積極的なのか、ホント分かんないよね」
少なくとも、精神的なアプローチに関しては、乙女というか……
「なぁによ。エッチな事なら積極的だって言いたそうね」
「思ってない思ってない」
実際そう思ってたけど口では否定しておく。
――僕らは、1ヶ月の休暇を取って、南大陸のずっと南の方まで、旅行に来ていた。
「大陸の果て、なんてロマンチックよねー。別に、そういうスポットがあるわけじゃないけど」
「冒険者である僕らには、似合いのスポットじゃないかな。最果ての地、良いじゃない」
特に名前がついている訳でもないが、最果ての地にて僕らは夜空を眺めながら話し合う。
南大陸の北の方から南の方まで縦断した長い長い旅路だった。
片道で2週間近くかかった。
「途中色んな事あったわねー。魔王の拠点から離れてんのに、まだ魔族がウロついてるなんて思わないでしょ」
「ま、『無敵催眠』あれば全然平気だったけどねぇ」
久しぶりの2人旅。
リーピアと僕だけで、誰を気遣うでもなく『無敵催眠』をぶっ放せるところを進もうと決め、馬車以外の行程では基本、人気のない場所を徒歩で歩くことを選んだ結果、僕らは結構な危険地帯を歩いて回ることになった。
道のりは割と平地っぽいところが多かったけど、強力な魔族がいるだとか噂されてる場所をわざわざ選んで進むんだから、まぁ、そりゃそうなるよね。
「ていうか、魔王って滅んだんじゃなかった? 残党はまだいるのかしら」
「どうなんだろうね。魔王って言っても、全世界の魔物の意思を統一してまとめてる訳じゃないんだろうと僕は思うけど」
そういえば、僕ら冒険者の間にもそういう噂は流れて来ていた。
だから、若干世界が平和になったのかな、って気の緩みもあったけど、実際はそこら辺にも魔族はまだいたし、野生の魔物もまだまだ元気だった。
どうやら僕らの冒険者稼業が廃業になる日は、まだまだ遠いらしい。
「食いっぱぐれなくて済むのは良いけど、私は平和なほうがいいなぁ」
「そりゃあ誰でもそうだよ。スリルを糧に生きてるタイプの冒険者は違うだろうけどね」
僕らは元々が日銭のために冒険者をやっているアウトローだから、安住を求めるのは当たり前である。
フリッターなんかは、どっちかっていうとスリルを楽しむタイプなのかも知れないけど。
「世界が平和になったら、ずうっとスレイドと一緒に暮らしたいな、って思ってたのよね。勇者さんと聖女さんには、期待してたんだけど、どうなのかなぁ」
僕は突然の告白めいたリーピアの言葉にドキリとする。
「さ、さぁ。魔王が実際に倒れたかは、見ていないからなぁ。それに、勇者さんと聖女さんも、男女関係なのかな。彼らも魔王を倒したら、結婚したりするのかもね」
なんて僕は誤魔化したんだか乗っかったんだか、良く分からない返答をしてしまう。
「そ、そうね」
結婚、というフレーズを口にしてしまった僕に対して、リーピアは真っ赤になってうつむいた。
まぁ、そういうのも僕は将来的にはアリかな、って思っていたんだけど。
しばしの沈黙。
それから、僕の方からリーピアに声を掛ける。
「ねえ、リーピア。これからも、ギルド活動は続けていく……よね?」
するとリーピアは不思議そうな顔をする。
「? なんでそんなこと訊くの? 当たり前でしょ?」
僕はホッとした。
「いや、リーピアは僕を独占して、2人きりで居たいのかなって思ったから。ガルデが加入してから、ずうっとそうだったでしょ。だから今回も2人きりの旅行に誘ったんじゃないの?」
僕がそう言うとリーピアは図星を突かれたといった決まり悪そうな顔をする。
「き、気付かれてたのね。そっかぁ」
「分かりやすいって。リーピアのそういう態度」
僕は苦笑する。
「……そうね、正直言うと、別にガルデもフリッターもブライアも居なくても、2人きりでギルドハウスでずーっとクエストすれば良いじゃない、とか思ってた事はあったわ」
リーピアはそこで、ようやく今まで溜め込んでいたらしき本音を語り始めた。
「でもね、みんなで冒険するうちに思ったのよ。なんか、5人って家族みたいで良いなあ、って」
家族、という言葉が出てきた時に、僕はふっと思う。
リーピアの家族については、結局訊けてないな。
僕のそんな疑問にリーピアは気付いたか、語り始める。
「あのね、私の家族って、旅行好きが災いして、死んだりしてるの。具体的に言うと、上の姉とかね。好奇心で魔王の拠点に近付きすぎて、それっきり……」
結構重いエピソードだが、リーピアは「あ、もう吹っ切ったから平気なんだけどね。5年以上も前だし」とか言っている。
いや、吹っ切れるものでもないだろう、と僕は思うが黙る。
「まぁ、そんなだから、ギルドメンバー……家族みたいなものを増やして、喪うのも辛いからさ。ギルメン増やすのいーけど、クエストで死んじゃったらどうするんだろー、って思いもあったんだけどね。でも……今は、安心していられる」
「どうして?」
僕は分かり切っている答えを、敢えて尋ねた。
「そりゃ、スレイドの事も、仲間の皆も、信頼してるからね」
期待通りの答えを、リーピアは衒いなく返す。ニッコリと、いつもの快活そうな笑顔で。
そして最後に付け加えた。
「だから、これからもギルド活動は続けるわ。勿論、こうしてスレイドと2人きりになる時間は、ちゃんと欲しいけどね」
「善処するよ」
僕は笑って、言った。
「……ね、スレイド」
それから少しだけ、リーピアが黙り込み、そっと近づいてくる。
あぁ。うん。これはそういう流れだね。
「うん」
僕は無言のうちに目を閉じ、待つ。
「大好き」
ちゅ、とリーピアからの軽いキスを受け。
僕らはお互いの気持ちを、そっと交換し合ったのだった。
(つづく)
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