69話 ダンスホールで意地悪タイム?
先程、間違えて先の部分を投稿してしまいました!
謹んでお詫び申し上げます。
それからドロテアは、ヴィンスとセグレイ侯爵の話し合いが終わるまで、フローレンスの相手をし続けた。
明らかに挑発的な態度をされたり、小馬鹿にするようなことを言われたりもしたが、ドロテアが常に笑顔をたたえているので、フローレンスは終始不機嫌そうだったが。
結果的に大きな問題は起こらず、お茶会は閉幕したのだった。
そして、その日の夜。
「ドロテア、中々上手いな」
「本当ですか? ヴィンス様のリードのおかげだと思います。とても踊りやすいです……!」
王城内には宮廷舞踏会を開けるような大きなものから、個人レッスンのための小さなものまで、ダンスホールがいくつか存在する。
その一つの小さなダンスホールで、ドロテアはヴィンスとワルツのステップを踏んでいた。
窓から差す月明かりと、部屋の端に置かれたオイルランプの淡い光しかない中で、密着している二人の影は一つに重なっている。
「ヴィンス様。ダンスの練習に付き合ってくださってありがとうございます。婚約パーティーで披露するには不安が多くて……助かります」
「そうか? 前々からダンスの練習に付き合ってほしいと言われていたからどんなものかと思えば、ダンスの流れはしっかりと覚えているし、ステップにもさほど問題ないように見えるが」
「いえその、サフィール王国に居た際にダンスレッスンの先生からは問題ないと言っていただけているのですが、如何せんパーティーで異性と踊った経験が殆どないもので」
この前のサフィール王国での建国祭でも、シェリーの問題行動を諌めていて踊れなかったし、ヴィンスに求婚されるまでなんて、社交パーティーに参加しても誰もダンスを誘ってくれなかった。
恥を忍んで自分から誘ったこともあったが、そんなのは片手の指の数以下であり、ドロテアは圧倒的に異性とのダンス経験が少なかったのだ。
ドロテアの発言に、ヴィンスは大方のことを理解できたのだろう。「なるほど」と呟いてから、絡ませた指に、より力を込めた。
「ドロテア、昔のことを思い出させて悪かった」
「いえ、もうあの頃のことは良い思い出ですから! むしろ、そのおかげでこうしてヴィンス様に手ほどきしていただける訳ですから、役得といいますか……」
「……っ」
その瞬間、ヴィンスの背中を支える方の手にも力を込められ、より密着することになったドロテアの頬は薄っすらと桃色に色づく。
一方でヴィンスは、至近距離にあるドロテアの顔をじっと見つめて、ふっと微笑んだ。
「それなら、もっとダンスを上手く見せる方法を教えてやろうか?」
責任感が強いドロテアは、次期王妃としてパーティーで美しいダンスを披露するためならば努力を惜しまないつもりだ。そんな中でアドバイスを貰えると言うならば、それは願ったり叶ったりというもので。
「は、はい……是非!」
前のめり気味にそう答えれば、その瞬間、ヴィンスの顔がずいと近付いてきたのだった。
「この国ではダンスの精度も重要だが、一番大切なのは踊る二人の密着度だと言われていてな」
「……っ、はい……っ?」
睫毛の本数を数えられそうな距離感。
恥ずかしさのせいで上擦った声が出たドロテアに、ヴィンスはニヤリと口角を上げた。
「つまり、くっついて踊れば踊るほど、周りからは美しいという評価を貰えるわけだ」
「ほ、本当なんですか……っ? そんな話、聞いたことが──」
「だろうな。……なんせ俺が今考えた嘘だ」
「はいっ……!? 何故そんな嘘を……!?」
クツクツと喉を震わせるヴィンスに問いかければ、その瞬間彼に促されてダンスのステップが再開される。
青と白のドレスを靡かせるようにドロテアがヴィンスと共にくるりと回ると、イヤリングと同じ黄金色のヴィンスの目が薄っすらと細められた。
「ドロテアが可愛いことを言うから、無性に虐めたくなっただけだ」
「っ!? な、なんですか、それは……っ」
「言葉通りだが?」
悪びれる様子なく言ってのけるヴィンス。真剣に聞いたのにと思いつつ、そんな姿も格好良いと思ってしまうのは惚れた弱みだろうか。
「……で、今日の茶会はどうだったんだ? どんな嫌味を言われてもお前が一切狼狽えないから、あの女がずっと不機嫌だったとハリウェルから報告を受けたが」
ややステップをスローテンポに落として、そう話を切り出したヴィンスの表情はどこか不安そうだ。
そんな彼の表情に、心配してくれているのだと察したドロテアは、明るい声色で答えた。
「確かに、嫌味のようなことは沢山言われましたが、それほど気になりませんでした。今まで何かと言われて来たので慣れていますし、敵意を持っている相手に何を言われても、大して心に響きません!」
迷いのない声ではっきりと伝えれば、ヴィンスの表情は先程よりも陰りを帯びる。
何故だろうかとドロテアが思っていると、ヴィンスがピタリと足を止めた、そのとき。
「悪意を向けられることに慣れていても、一切何も思わないわけではないだろう。嫌な役を任せて、すまなかった」
「……! ヴィンス様……」
「それと、本当に助かった。ありがとう、ドロテア」
「…………っ」
ヴィンスの言葉に、ドロテアは胸が詰まった。
ヴィンスは心配をするだけでなく、心の奥底にある小さな傷をも癒やし、感謝の言葉もくれる。
(いつも、いつもそうだわ……)
ヴィンスへの愛おしさや、彼の婚約者で居られる幸せが込み上げてきたドロテアは、自らヴィンスの背中に腕を回した。
ギュッと抱きつけば、ヴィンスは「珍しいな」と言いながら、片手では背中を擦り、もう一方の手では頭を撫でてくれる。その優しい手付きに、ドロテアはより一層腕に力を込めて、彼の胸板に頬をすりすりと押し付けた。
「私の代わりに、ナッツやハリウェル様が尻尾で怒りを表現してくださったので、スッキリしました」
「そうか。それは目に浮かぶな」
「ふふ。……あ、けれど……フローレンス様が幼い頃のヴィンス様のお話しをされたときは、ヴィンス様の昔の様子を知れた嬉しさと、私の知らないヴィンス様を知っているんだなって、嫉妬していまいました……」
尻すぼみに声が小さくなっていくドロテアが最後に「情けないです」と漏らせば、ドロテアの背中が弓のように反るくらい、ヴィンスは力強く彼女を抱き締めた。
「またお前は可愛いことを──その可愛いことを言う口は、今直ぐ塞いでしまおうか」
「……はっ、はい……っ!?」
「ふ、今夜は冗談にしておいてやる。キスだけで止まらなさそうだしな」
「……!?」
薄暗い部屋でも分かるくらいに顔を真っ赤に染めたドロテア。
その表情を容易に想像できたヴィンスは、くつくつと喉を震わせると彼女の耳元に口を寄せた。
「あと、俺の昔の姿が見たいなら、今度アルバムを見せてやる。一緒にディアナやラビン、ハリウェルも載っているものもあるかもな」
「……!? そっ、それはまさしく幼いもふもふ天国ではありませんか! 是非! 是非今度見せてくださいませ! 約束ですよ、ヴィンス様!」
「お前はブレないな、本当に」
幼いもふもふ天国に頭を奪われたドロテアは、いつアルバムを見せてもらえるか、念入りにヴィンスに確認をするのだった。
黒狼陛下2巻の発売日です!
ぜひよろしくお願いします!
↓に新作短編も投稿しましたので、そちらもぜひ(*^^*)♡




