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47話 待てができる黒狼陛下

本日、【黒狼陛下】の書籍第一巻が発売となります!

この日を迎えられたのは、応援してくださった皆様のお力が大きいです……!

ありがとうございます(*^^*)

加筆や改稿、番外編に書店特典SSなど、書籍版も絶対楽しんでもらえると思いますので、書籍の方も応援してくださると嬉しいです(〃ω〃)

 

「それにしても! ドロテア様はお優しいだけではなくて聡明で博識で……私は感動しました!」

「あ、ありがとうございます、ハリウェル様」


 工房でレーベと別れてからというもの、ドロテアはハリウェルや他の騎士たちと『セゼナ』の街を歩いていた。

 というのも、フウゼン染めの件が早めに解決し、帰城の予定時間までまだ余裕があったため、折角だから街全体も視察しようという話になったのである。


 因みに、領主のユリーカは街全体の案内にも付き合うと言ってくれていたのだが、側近と思われる人物から急ぎの用事が入ったとかで既に解散済みだ。


「原因が分かるだけでも凄いのに……竜巻の影響を受けていない別の採集地のフウゼンの葉を取り寄せる手筈を既に整えているだなんて……本当に凄いの一言です!」


 工房を出てからというもの、繰り返されるハリウェルからの称賛。

 垂れた目をキラキラとさせて興奮している様子はとても可愛いし、褒められることはもちろん嬉しいのだけれど、ドロテアとしては大したことをしたつもりはなかった。


「……手筈を整えたと言っても、手続きに必要な最低限の書類を作っただけですから。城に戻ったら、レーベさんの意見を取り入れた報告書もその書類に組み込んで、ヴィンス様にご検討いただかなくては。実際にレーベさんのもとに高品質な原料が届くようになるまでは、解決とは言えませんしね」


 とはいえ、おそらくここから新たな問題が起きることはないだろう。

 フウゼンの葉をレーベのもとに届けるための人件費や輸送費よりも、フウゼン染めの品の数が災害前に戻る方が、国益に繋がるのは間違いないのだから。


(……ヴィンス様、私は貴方の婚約者として、少しはお役に立てたでしょうか……?)


 城に帰って報告をしたら、ヴィンスは喜んでくれるだろうか。あの大きな手で頭を撫でて、「良くやった」と言って、褒めてくれるだろうか。鋭い牙をちらりと覗かせるように、微笑んでくれるだろうか。


(いけない、ヴィンス様のことを思い浮かべると、つい気が緩んでしまうわ)


 しかし、まだ視察中だ。ヴィンスの婚約者として来ている以上、気を引き締めて挑まなければならない。


(さて、頑張りましょう!)


「ハリウェル様、次は工房が集中している地区に行きましょう! 護衛、お願いできますか?」

「はい! ドロテア様のお気に召すままに、どこへでもお供いたします!!」



 それからドロテアは、時間が許す限り街の様子を見て、工房を見て回った。


 ときおり知的好奇心が高まり過ぎて駆け足になり、転けそうになったときはハリウェルに手を取ってもらったり、やや軟派な男性職人がドロテアに触ろうとしようものならハリウェルが自然と直ぐに間に入ってくれたり。ハリウェルのおかげで怪我をすることも、嫌な気持ちにもなることなく、ドロテアは有意義な視察を終えることになった。


「ドロテア様、もう少しで城に着きますよ」

「ええ、ハリウェル様、今日は本当にありがとうございました。沢山助けていたただいてありがとうございます」


 帰路に就くために馬車に乗り込んでから暫くして、ドロテアはハリウェルに対して深く頭を下げる。


 すると、ハリウェルは純白の耳は真っ赤に染まり、それはピクピクと動いた。


「いえ! こちらこそドロテア様のお役に立つことができたなら、本望でございます!!」

「……ふふ、ハリウェル様は本当に騎士の鑑ですね」

「そんなことは……! 私はまだまだ若輩者です! しかし……ドロテア様にそんなふうに仰っていただけると、騎士としてこれ以上ない誉れです!」


(そこまで……?)


 出会ってまだそんなに時間は経っていないはずだけれど、そんなに主人として認めてくれているのだろうか。


(まあ、嫌われるよりは良いから気にしなくて良いわよね)


 そう思ったドロテアは再びハリウェルと談笑しながら、馬車に身を任せた。



 ◇◇◇



 ──空が茜色に染まり始めた頃。

 ギギギ……という音と同時に城壁が開くと、馬車はゆっくりとしたスピードに落として城内に入っていく。


「ドロテア様、もう少しで正門に着きます」

「ええ。城に着いたら私はヴィンス様のもとに報告へ向かいますから、ハリウェル様は他の騎士たちと一緒に今日は休んでくださいね」

「かしこまりました!」


 そんなやり取りを済ませると、馬の蹄のパカラパカラ……という音が少しずつゆっくりになり、直後、正門の前に着いたところで馬車の揺れが止まる。


 先にハリウェルが降りてドロテアも続くようにして地面に足を着ければ、足元にすっと伸びた影に気が付いて、バッと視線を上に動かした。


「ヴィンス様……っ? どうしてこちらに……!」

「おかえり、ドロテア」

「た、ただいま戻りました」


 反射的に返事をしたものの、ドロテアの頭には疑問が支配する。


 供を一人も付けずに、どうしてこんなところに一人で居るのだろう。

 いくら獣人が耳が良いにしたって、城内からではドロテアたちの帰還の音は聞こえないはずだというのに。


(もしかして、窓の外を見て、私たちが帰って来たことに気付いたのかしら?)


 もしそうだとしたら、ヴィンスはかなり急いでこの場に来たことになるが、彼の様子からそんな感じはしない。ということは──。


「ヴィンス様……もしかして私たちを出迎えようと思って、ここで待っていらしたのですか……?」 

「……! さあ、どうだかな」 


 そう言ったヴィンスは、どこかばつ悪そうに視線を他所へ逸らす。僅かに動いた耳とふりふりと揺れた尻尾、ほんのりと色づいた彼の頬にドロテアの心臓はどきりと音を立てた。


(珍しく照れていらっしゃる……! か、可愛い……!)


 ヴィンスの反応を見れば、はぐらかされても容易に見当はつく。

 どれくらい待っていてくれたかはわからないが、きっと照れている彼は答えてはくれないのだろう。


(私って、本当に幸せものだぁ)


 忙しい中わざわざ時間を作ってくれて、待っていてくれただなんて嬉しくないはずがない。


「ヴィンス様、ありがとうございます。帰城して直ぐにヴィンス様に会えるなんて、私……とっても幸せです」


 だからドロテアはこの思いが伝われば良いのにと、花が開くように微笑んだのだけれど。

 ヴィンスはその瞬間、口元を押さえて呟いた。


「…………ハァ。また不意打ちを……」

「え? 何ですか?」

「いや、何でもない」


 ヴィンスの声は聞こえなかったけれど、彼の雰囲気からして機嫌は良さそうだ。

 それなら良いか、とドロテアがにこやかな笑みを浮かべたままでいると、ヴィンスはドロテアの頭にぽんと手を置いた。


「その様子だと、フウゼン染めについては上手くいったのか?」

「はい! 詳細はまた後でお話しますが、解決策についても殆ど書類は作成済みですので、ヴィンス様の承認をいただければ直ぐに問題は改善するかと思われます」

「ハハッ。解決策も考え済みか。流石ドロテアだな。良くやった」


 よしよしと頭を撫でられ、ドロテアは気持ち良さそうに、何より嬉しそうに目を細める。

 そんなドロテアをヴィンスは愛おしそうに見つめた後、ドロテアの頭をなでる手を止めて、彼女の後方に控えるハリウェルへと視線を移した。


「ハリウェル、お前もご苦労だった。今日はゆっくりと休め」

「ハッ……! ありがたく」


 深く頭を下げるハリウェルに、今度はドロテアが視線を寄せる。そして、ドロテアはハリウェルと向かい合うと口を開いた。


「ハリウェル様、改めて今日はありがとうございました。私が自由に動けたり、安全に街を見て回れたのはハリウェル様を始め、騎士の皆様のおかげです」


 ヴィンスに会えたことで気が抜けたのか、完全に緩んだ笑顔を見せるドロテアに、ハリウェルの頬はぽっと色づく。

 そんなハリウェルは「い、いえ……! ここここ、こちらこそであります!!」なんて動揺を露わにしているだが、その原因が自身の笑顔にあるだなんてドロテア本人が気付くことはなく。


「厄介な無自覚人たらしめ……いや、獣人たらしか」

「え? ヴィンス様、何かおっしゃいましたか?」

「何でもない。さあ、そろそろ城に入るぞ」

「あっ、はい……!」


 その会話を最後に、ドロテアとヴィンスは城内へと歩き始める。


 自然と手を絡めるヴィンスに、「まだ皆さんが見ていますよ……!?」と言って恥ずかしがるドロテア。「つまり、手を繋ぐのは嫌じゃないわけか?」とヴィンスがからかうように聞けば、「意地悪なことを聞かないでくださいませ……!」と眉尻を下げて、ドロテアは女の顔をする。


 そんな二人の姿が少しずつ小さくなっていく様子を、ハリウェルは少し切なげな目で眺めていた。

読了ありがとうございました(*^^*)♡

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