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33話 ロレンヌとの再会

 

 建国祭パーティーの会場に到着したドロテアたちは、来賓客ということもあって、少し遅めの入場だった。  


 アナウンスされ、ドロテアはヴィンスの腕に手を回してから会場内へと足を踏み入れる。


(さて、しっかりしなさいね、ドロテア)


 今までの舞踏会や夜会はランビリス子爵家の長女としての参加だったが、今回は正式ではないにせよヴィンスの婚約者としてだ。

 失敗はあってはならないと、気を引き締めて入場すると、まずは挨拶のためにサフィール国王のもとまで向かう。


 ヴィンスの挨拶に続けてドロテアも美しいカーテシーを披露すれば、国王は焦ったような笑みを浮かべた。


「我が国の建国祭パーティーによくお越しくださいました、レザナード国王、並びに婚約者ランビリス嬢……是非楽しんでいってくだされ。……そ、それと、レザナード国王、時間が許すならば後で別室で話をさせていただけると……」

「ええ、構いませんが」

「おお! それは有り難い! ではまた後ほど、声をかけさせて頂きますゆえ」


 サフィール国王のかなりへりくだった態度に、ここでは後で別室で話したいという要求。


(なるほど。……おそらく、シェリーのディアナ様への暴言の謝罪ね。求婚のあと、ヴィンス様が手紙に記したのかしら)


 とはいえ、ヴィンスはドロテアが求婚を受け入れるならば謝罪を受け入れると言っていた。

 そのため、おそらく大事にする気はないが、なかったことにまでするつもりはないと。サフィール王国側も、謝罪で済むのならば安いものだと考えたのだろうか。


(ということはシェリーのしたことが問題に上がった訳よね……あの子、何も罰は受けなかったのかしら)


 とはいえ、今はそれを考えているときではない。

 ドロテアは再び美しいカーテシーを見せてから、ヴィンスと共に壇上から降りていく。


 すると、壇上を降りきったところでヴィンスはドロテアの耳元に顔を近づけると、ボソリと囁いた。


「今日のパーティー、何かあるかもしれない」

「えっ?」


 ヴィンスは人間の何十倍も耳が良い。おそらく招待客のひそひそ話が聞こえたのだろうが、言い方からして詳細は分からないようだった。


 考える素振りを見せる隣のドロテアの顔を、ヴィンスは腰を屈めてちらりと覗き込んだ。


「まあ、何があっても俺がドロテアを守るから問題ないがな」 

「……っ、わ、私もお守りします。主人の安全を守るのも、侍女の勤め……あ」

「ほう」

「申し訳ありません……。つい癖で」


 婚約者だからと気を引き締めなければ思った矢先の失敗である。

 婚約者としての自覚、そして自信を持たなければと改めて胸に刻むと、ドロテアは見知った姿を視界に捉えたのだった。


「あれは……ロレンヌ様……!」


 五年お世話になっていたロレンヌの姿を見間違えるはずはない。

 ドロテアはヴィンスを見て「挨拶をしても宜しいですか?」と問いかけると、ヴィンスはコクリと頷いた。


 事前の話し合いでヴィンスもロレンヌに挨拶をしたいと言ってくれていたため、ドロテアはヴィンスと共にロレンヌの元まで向かって声を掛けると、振り向いたロレンヌは大きく目を見開いた。


「貴方……ドロテア……!?」

「ロレンヌ様! お久しぶりでございます! しばらく帰国できずに申し訳ありません……! 侍女の件も手紙で済ませてしまい、なんてお詫びを申し上げればよいか……」


 建国祭に出席することは事前に手紙でロレンヌに伝えてあったのだが、何やら幽霊を見るような驚きようだ。


 ヴィンスの格好良さに驚いているのかとも思ったが、ロレンヌの視線はずっとドロテアを向いているため、何事かと「ロレンヌ様……?」と問いかけると。


「ドロテア貴方、奇麗になったわねぇ」

「えっ?」


 ロレンヌは、ドロテアのことをただの侍女以上に大切に思っていた。それこそ、本当の娘のように。

 だから心配だったのだ。獣人国での扱い、ヴィンスからの扱い、ドロテアは幸せにしているか、大切にしてもらっているか。


 けれど、その心配は杞憂だった。今のドロテアと、そしてドロテアの隣りにいる優しい瞳をしたヴィンスを見れば、それは歴然だったから。


「表情も明るいし、何よりとっても幸せなのが伝わってくるわ。その姿を見られただけで、何も聞かなくても貴方が大切にされていることは分かったから、何一つ謝る必要はないわ。私はドロテアが幸せになっているならそれで良いのだから」

「ロレンヌ様…………」


 ドロテアとしては、大きく変わったつもりはなかった。

 けれど確かに、獣人国に行ってから自分自身に自信を持てた。自分の見た目も好きになれた。誰かを好きになることを知った。


 人生経験が豊富なロレンヌには、そんなドロテアの変化が、どれ程の幸せによってもたらされたのか、手に取るように分かったのだろう。


 ロレンヌの言葉が嬉しくて、じ~んと感動しているドロテア。

 そんなドロテアの一歩前に出たヴィンスは、ロレンヌに対してゆっくりと頭を下げた。


「ヴィンス・レザナードと申します。ライラック公爵夫人、以後お見知り置きを」

「まあ、こちらから挨拶をせねばなりませんのに申し訳ありません。改めまして、ロレンヌ・ライラックと申します。……親でもない私が言うのはなんですが、ドロテアを大切にしてくださって、本当にありがとうございます」


 深々と頭を下げたヴィンスは顔を上げると、ふっと柔らかく微笑んだ。


「こちらこそ、ドロテアを大切にしてくださってありがとうございました。これからは生涯をかけて、俺が幸せにします」

「ヴィ、ヴィンス様……っ!?」

「あらまあ、お熱いこと。おっほっほっ」


 愉快そうに笑うロレンヌと、当たり前のように言ってのけるヴィンスに、ドロテアはたじたじだ。


(このお二人には、一生勝てる気がしないわ……!)


 ドロテアが頬を赤く染めながらそんなことを思っていると、「そういえば」と話を切り替えたのはロレンヌだった。


「……実は先日、とある噂を耳にしたのだけれど」

「……? 噂ですか……?」


 扇子を開いて口元を隠すロレンヌに、ドロテアはすすすと寄っていくと耳を近付ける。

 周りに聞かれないようにという対策である。まあ、ヴィンスには意味はないのだが。


「……実はね──……」

「えっ……それは、本当ですか?」



 ──『貴方の妹が賜った『聖女』の称号だけれど、今日で廃止になるみたいなの』


 まさかそんなことになっているとは夢にも思わなかったドロテアは、素早く目を瞬かせた。

ロレンヌ様……!!

お久しぶりでございます!


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