剣道三倍段
防具屋で採寸を終えたアールたちはそのあと、流れのままに同じ通りにある武器屋を覗いていた。
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「アールさん、武器も買うの?」
事務的な会話を続けたおかげか既に暗い表情は影を潜め、いつもの調子に戻っていたチョコ・ティが、少し驚いたような表情で尋ねてきた。
「うーん。買おうか買うまいか、悩み中」
DA9に来てから、はや一ヶ月。ダンジョンを出るときに一番状態の良い両手剣を選んで持って来ていたのだが、さすがに剣が草臥れてきていた。
そこで少し前に修理してもらおうと、この武器屋に持ってきて診てもらっていたのだが、その時に『結構ガタが来てるから、本格的に直すなら火をいれて鍛え直した方が良い』と言われていたのだ。
だが、そこまですると金額も大きくなるし時間もかかる。それでその時は取り敢えず、研ぎ直しだけを頼んで様子を見ていたのだ。だが今なら金銭的にも余裕はある。『一本予備を買って、その間にきちんと修理してしまおうか』と考えている。
「チョコたちはどうする?」
「えっ、うちら? うちらは今は無理。いくらアールさんに沢山貰ってるいうても、さっき防具を新しく買ったとこで、さすがにそんな余裕はないん。それよりなにより、まずはさっき買ってもらった鎧に慣れるんが先やよ」
チョコ・ティは武器の並べられた陳列棚の前で眼をキラキラさせながら話し込んでいる少年二人の様子に、少し呆れた様子を見せながらそんな言葉をかえしてきた。
「そっか。実はちょっと前に剣の修理を頼んだら、修理には時間が掛かるみたいで、それならいっそ予備でも買って様子をみようかと考えてたんだけど…」
チョコの核心をついた言葉にハッとさせられ若干、言い訳じみた言葉が口をつく。
あまり深く考えてなかったが、たしかに装備を換えたら慣らしが必要だ。チョコが言うとおり防具を買ったばかりだし、時間を開けた方が良いってのはある。
けど修理をろくすっぽせずにこのまま使い続けて、もしダメになったらそっちの方が大変ってのも……。
諺に“下手な考え休むに似たり”なんてのもある。あれこれ悩まず取り敢えず商品を見せてもらう方が早いか。そんな風に割り切る。
「チョコ、ちょっと時間をもらってもいい?」
「全然問題ないよ。アールさんが納得いくようにして貰う事の方が、うちらにしても良いことやしね」
少年二人に向けていた眼差しから一転、笑顔を浮かべ話すチョコの言葉に背中を押されながら、武器屋の主人に声をかける。
「あのー、すみません」
「いらっしゃいませ。先日のお客様ですね。本日はどういたしましょうか?」
どうやら私の事を覚えてくれていたようだ、これなら話がはやい。
「以前、説明してもらった打ち直しってやっぱり時間が掛かるんですよね」
「はい。武器に火を入れるとなりますと、それなりの設備を持った職人を用意いたしますので一週間ほどお時間を頂いております」
「ですよね。で、取り敢えずその間、代わりに使えるような武器はないか商品を見せて貰えます?」
「畏まりました。それで何か武器にご要望とかは御座いますでしょうか?」
「ご要望というか、これと似た作りの物が良いかな」
私が腰に帯びていた両手剣を外しながらそう言うと、武器屋は少し顔を曇らせながら答えた。
「やはり、そうですよね。うーん、ある程度似た作りの物でしたらご用意出来ますが……少々お待ちください」
そう言うと武器屋の主人は店の奥に引っ込み、しばらくしてから数種類の武器を抱えなが出てきた。
そしてそのまま私を伴い、少しスペースの開けた場所まで移動した。
「そうですね、まずはこちらから。両手で扱う剣でしたらこれが一番近い形にはなりますかね」
移動後、それではという感じで差し出された両手剣を受け取り構えてみる。
「……」
なんというか、あえて表現するなら“重いのに軽い”って感じだ。
「やはり、違和感を感じますでしょうか。以前にお客様の両手剣を、研ぎ直す際に拝見させていただいたのですが、お客様の剣とこの辺りで一般的に使用される両手剣とではバランスが異なります。
お客様のお使いの剣は中央からやや先端のほうに掛けて重心がございますが、うちの店で扱っている両手剣は重心を手元に置いております」
武器屋の説明を聴きながら、両手剣を構えゆっくりと動かしてみる。
「失礼ながら、品質的にはうちで扱っている商品の方が上だとは自負しておりますし今、手に持っていただいている剣も、重量は増えているかとは思いますが重心が手元に御座いますのでこちらの方が取り回し易いかとは存じますが…」
なるほど、重心が手元にあるのでテコの原理というやつだろうか、切先を動かすのに余り力を必要としない感じだ。今までは力を入れて武器を振り回している感じたったのだが、この武器は振り回すというよりも操るって感じになる。
前の剣よりも重いのに切っ先はヒュンヒュンと動く。ただ、この剣でダンジョンのトロルを仕留められるか?と問われると無理と答える。
やはり武器の重心を相手に叩きつけるのが一番威力の上がる攻撃になるのだが、前と同じように扱ってしまうと、斬撃に威力が乗らないのだ。
私は両手剣を胸の前で構え軽く動かしながらも、微妙な表情をうかべていたのだろう、武器屋は次の剣を取り出した。
「武器のバランスだけで言いますと、こちらの剣が一番近いものにはなるかと思います」
そう言いながら剣鉈を手渡してくる。
確かに手に持ってみると重心の位置は今使っている両手剣と似たような感じだが、これは片手で扱う武器だ。両手剣と比べると直感的には扱えるが、いかんせん短いし軽い。
これだと、戦闘に対する取り組み自体を変えないといけない。
確かに今のパーティー構成だと私の役割は遠距離アタッカー。つまり、メインの攻撃は魔法による攻撃だ。武器を使うのは粗方の敵が片付いてからなので、両手剣が片手剣になりダメージ・パー・セカンド、つまり戦闘不能に追い込むまでの瞬間的な火力が下がったとしてもそれほど問題はない。
だが、このパーティーメンバーを連れてダンジョンまで帰るのか? と考えると未だに答えは出ていない。いや、むしろ連れて帰らないと考える方が妥当な答えになる。そう考えると、その時に使うメインウェポンが殲滅力の低い片手剣になるのは避けたいところ。
では、主武器ではなく暫定的な武器。つまり”武器を修理している間に限定で”とか、”パーティーで行動している時に限定に”とかで、一時的に使う武器としてのみ考えたらどうだろう。
それなら確かに、これでも良い様にも思える。だが私の頭の片隅にある、未だに戦う機会がなく強さを測りかねているボブゴブリンとの戦闘や、もしかしたらこの辺りにも生息しているかも知れないハイオークとの戦闘を想定するとなると別だ。そう言うもしもの時の為に現状は問題が無さそうに見えても、DPSの低下は出来るだけ避けたいと考えているのだ。
他に選択肢がないのであればこれでも仕方ないが、そういう状況でもない。そう結論を出し剣鉈を武器屋の主人に返す。
安易に武器を買おうと考えていたが、ちょっと甘く見ていた。だが、それならそれで本腰を据えて選んでしまおうと思う。まあ、なんて言ってもワクワクするのだ。そんな風に考えていたら次は斧が出てきた。
武器屋の主人が持つのは片刃の斧と両刃の斧。私はそれを受け取り、それぞれを軽く振りかぶるように構えながら感触を確かめていく。
「両手でお使いになる武器でしたら、斧なんかも、お客様の使ってらっしゃる両手剣と同じような使用感になるのかもしれません」
武器屋の言う通り、たしかに斧での力を込めた攻撃は遠心力を最大限活かした斬撃となり、今の武器と似た感じになる。だが、刃の形状が違うので突くや撫切るといった小技は使えないようだ。
その後もハンマーやメイス、棍や槍なんてのも試していく。
この世界に来て、武器を扱ったからこそ初めて解るそれぞれの武器の特色。それを順々に試していくだけでも、滅茶苦茶に楽しい。
中には今の自分のスキルを上手く応用できる物もある。だが全てに満足が行くわけじゃないのだ。”あちらを立てればこちらが立たない”そんな感じだ。
色々な種類の武器を試すが、これという決め手が無いまま武器の数は少なくなっていく。そして、残された武器はとうとう一つになってしまった。
槍斧…あれだ、槍の頭にゴテゴテとした刃が付いた色物武器だ。
剣にしても槍にしてもそうだが、私が武器に求めるのはシンプル・イズ・ベスト。理由は簡単、その方が強靭だから。それに元が日本人だからかも知れないが、刀のように下手なギミックの無い物こそが美しく実用に足ると考えていたのだが… …。
手渡されたこの槍斧、物は試しと扱ってみると長いのは長いんだが、意外なことに”叩き斬る””薙ぐ””突く”という今の自分のスタイルにあった攻撃が繰り出せるのだ。
武器屋の主人もこれを最後にもってきた所をみると、この槍斧こそが本命だったのかも知れない。
確かにこれであれば、今の自分が出しうる最大級のDPSと同等の殲滅力を叩き出せる。
これならオークよりも若干強いというボブゴブリンの強さが少しぐらい想定を越えていようと問題なく対処出来るだろうし、以前ダンジョンに現れたハイオーク数匹と対峙したとしても逃げる隙ぐらいは作れる。
いや、条件さえ揃えばいま使っている両手剣よりDPSは上がるかもしれない……。
そう言えば三国志の英雄の武器はこっち系が多いんだよな。
青龍偃月刀に方天画戟に蛇鉾。
そう考えると途端に槍斧が魅力的な武器に見えてくるのは私が単純だからだろう。だが、如何せんこの武器は嵩張る。
馬上とまでは言わないが、戦闘をする場所が開けた場所であるのなら迷わずこれを買う。だが、今の主戦場が森の中であることを考えると……。
「因みに、これって幾ら位になるんですか?」
「金貨8枚に銀貨6枚となります」
構造が複雑だからだろうか他の武器に比べて値段も高い。相当に気に入ったんだが現況ではシチュエーションが合っていないのでやはり使い難いか。いくら魅力的だからと言って、そんな物を焦って買う必要もない。
「ふぅー」
昂ってしまった気持ちを排出するように大きく息をはく。やはりゲームと同様に武器を選び出すと熱くなる。
気付くと結構な時間をつかってしまっていた。
そろそろチョコ・ティの方を何とかしなくちゃならない、ここらでいったん区切りをつけるか。
「色々見せて頂き参考になりました。最後の槍斧なんかは、いま使っている武器に通じるところがあって、なかなか良かったんですがね。
ただ今の狩り場である森の中で使うとなると…」
そう言いながら槍斧を防具屋の主人に返す。
「うーん、やはりそうなりますか。お気に召す商品をご用意することができず残念です」
「ほんと、色々紹介してもらったのに申し訳ないです。槍斧なんかは、状況が変われば直ぐにでも買わせて頂こうとは思いますが、今日のところはもう一度この剣の研ぎ直しをお願いします」
腰の両手剣を取り外しつつ、新たな依頼を口にする。
「それと、ついでと言っては何ですが、うちのパーティーメンバーの武器の手入れもお願いしたいんですが…ジェイク、ノーグ‼」
店内にところ狭しと置かれた様々な武器を見て回っていた二人が私の横に並ぶと、武器屋の主人が二人の装備を確認する。
「 このお二方の分は盾も一緒でよろしいですかね。あと、後ろで控えてらっしゃる女性の方の分はどういたしましょうか?」
「チョコ・ティの弓は……」
名前を口にしながら振り返り確認すると、思った通りチョコ・ティは首を横に振っている。
「パスで。この二人の分は盾も一緒にお願いします」
間接武器である弓は基本的に損耗しない。損耗するのは矢の方だ。だからと言って弓本体を全く整備しなくて良いのかと言うとそうではなく、逆に最も手間のかかる装備の一つになるそうだ。
なぜなら少しでもメンテナンスを怠ると、途端に命中精度が落ちるらしい。また、毎日行う弦の張り替えなんかも指先の微妙な感覚を頼りに調整しているそうで、他人には任せられないそうだ。
そんな話をチョコ・ティから聞いていたので断るのが予測できた訳だ。
「畏まりました」
店主の了承の言葉を聞き、ジェイクとノーグに声をかける。
「ジェイク、ノーグ。代金はこっちで払うから一緒に整備してもらえ」
「うん、わかったアールさん」
「ありがとうございます。アールさん」
ジェイク、ノーグが順に返事をし、装備を外しカウンターの上に置いていく。
「ご注文有難うございます。そうですね、お代は合計で銀貨三枚になります」
私は武器屋の主人が告げた値段を耳にしながら言葉を続ける。
「後、ついでと言っては何ですがこの二人に、ご主人の武器の手入れの仕方を見学させたいんですよね。この二人、ギルドの受付も認める有望株なんで、色んな経験をさせてやりたいんですよ」
「見学ですか? 私は職人という訳ではありませんし、お見せするほどの物は……」
「勿論、お釣りは結構ですんで」
そう言いながら金貨一枚をカウンターに置き、武器屋の主人の目を見ながら頭を下げる。
「そこまで仰っていただけるなら……そうですね、職人ではありませんが、それでも、武器を専門に扱う商人です。
基本的な所は押さえているつもりです。畏まりました。
別途にお代も頂きましたし、お二人が迷惑でなければ、私が気を付けている事なんかも助言させていただきましょう」
その後、アールはジェイクとノーグに武器屋に残ってコツを掴んでおいてくれと頼み、チョコ・ティと二人、冒険者ギルドに向かうと言って店を出た。




