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おっさんはダンジョンマスターになって青春を取り戻せるのか  作者: 烏龍お茶
5章 おっさんがこの世界の街に生きる
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始めての依頼

 深淵の第9都市(ディープアビスナイン)での2日目の朝は、気持ちの良い目覚めで迎える事が出来た。


 やっぱり新品の下着はさっぱりしていて良い物だ。


 まだ、日の出からそれ程時間は経ってないはずである。この後、朝食をとってから冒険者ギルドに行って依頼を受ける予定にしている。


 軽く身支度をすませて下に降りると、用意されていた黒パンとスープに手をつける。


 前の世界で食べた黒パンは柔らかくて独特の風味があって美味しかったのだが、今食べてるのはただ単に固くて酸っぱくてと、微妙な味だ。温かいスープが付いているので、誤魔化しながら食べている。


 昨日せっかく小麦粉を見つけたのだから、柔らかいパンを食べたいと思っていたが、次第にこれはこれで良いかもしれないと思い直す。この固くて酸っぱい黒パンはなかなか腹持ちが良さそうなのである。私みたいな貧乏人にはありがたい物だ。


 これで夕食も合わせて銅貨1枚ってのは、相当いい宿なのかもしれない。今度、西門の隊長に会ったらお礼を言っておこうと思う。


 なんせ、もうお金がない。この宿がいくら安い食事を提供してくれるからと言って、それでも1日銅貨6枚はかかるのだ。


 昨日服を買うのにお金を使ってしまったので、もう残り銅貨9枚しか残っていない。あと1泊分、大部屋に止まればあと4泊はいけるか。風呂には入れなくなるが4日ぐらいは平気だろうか。


 そんな事を考えながら、朝食を食べ終わる。


「今日はどうするんだ?」


 食器を返すと宿屋の主人、マイルズがカウンターの奥から声を掛けてきた。


「冒険者ギルドに行って依頼を受けようと思っています」


 そんな事を聞いてるんじゃない。というような表情を浮かべて宿屋の主は首を振りながら言葉を続ける。


「まあ、金を稼ぐのは悪い事じゃない。その金をうちに払ってくれるならな。で、あんた今日も泊まるのか?」

「あっ、頼みます。それと食事も付けて」

「前金で銅貨6枚だ」


 右の手のひらを上に向けて差し出して来た。げっ、前金ってまじか、払ったら銅貨3枚しか残らなねぇ。


「あんたからは保証金を預かってないからな。まあ、払わないなら払わないでそれでも良い。ただ、帰って来てからの宿泊だと昨日の夜みたいに残り物になるぞ」


 そんな私の表情を読み取ったのか宿屋の主が忠告してくれた。確かに昨日の夕食、私のスープ皿にだけ肉が入って無かった。別に今払おうが後で払おうが同じだ。問題は依頼を達成できずにお金を稼げなかった時、大部屋に泊まるって選択肢が無くなるって訳だが、問題ないな。


「お願いします」

「晩飯と部屋は用意しておく。ちゃんと帰ってこいよ」


 マイルズは差し出された宿泊代金を受け取ると、そう言って厨房の奥に消えて行った。



 宿を出て冒険者ギルドに向かう。昨日より早い時間だからか、人通りが多い。私のように街の中心方向へ進む人の流れもあるが、街の外に向かう農夫の流れの方が大きいようだ。大通りに合流したら、さらに目に入ってくる農夫の数が増えた。


 そう言えば昨日の晩ご飯を食べるのに酒場に降りて行った時、東と南にはもう土地が残ってないから、西で新たに開墾するしかない。みたいな話が聞こえてきたな。つまり、発展途上の西の城門に向かう人の数より発展済みの南の城門に向かう人の方が多いのだろう。


 人混みを掻き分けるように、街の大通りを北に進んで行く。しかし本当に人の数が多い。こっちの世界に来て3ヶ月強の期間、引き籠っていたからか、人混みに酔ってしまいそうだ。前の世界の通勤電車とまでは行かないが、小学校なんかに在った集団登校みたいで不思議だ。


 この世界には魔物がいる、固まって動いた方が安全だからだろうか。そんな事を考えながら歩いていると、いつの間にか冒険者ギルドに到着していた。



 冒険者ギルドの中も、昨日とは打って変わって混雑している。


 掲示板の前には人だかりができていて、窓口には既に冒険者のような者達が並んでいた。G、Hランクの依頼が載っている場所に近づいていくと、少年少女と呼んでもいいくらいの年齢の冒険者が群がっている。このランクの冒険者は通常、見習い冒険者になるとかいってたからこんなもんなのかもしれない。


 中年のおっさんがこんな所に混ざるなんて、ちょっと浮いてる、恥ずかしい。気後れしつつ、しばらくの間眺めていると特定の種類の依頼が飛ぶように剥がされていくのに気付いた。


 依頼書の内容を詳しく見ると、薬草採取の常注依頼のようだ。ただ報酬は安い、銅貨3枚だ。気になったので、備え付けの資料でその薬草について調べて見る事にした。


『疲労回復ポーションなどの素材。ギザギザの葉っぱが水平に広がり、中心から数本の短い茎が伸びて先端に黄色い花を咲かせる。生命力が強く至る所に生えている。綿毛のような種子が出来ると価値がなくなる。根からも薬効を抽出するので、そのまま全てを採取する』


 これってタンポポだな、絵を見ても記憶にあるまんまの姿だった。採取エリアを確認すると、街の東と南側のお勧めポイントが書いてある。


 河原の土手にちょっとした空き地、それどころか舗装の隙間。タンポポってどこにでも生えていたイメージがある。これなら見分けもつくし、皆も選んでるんだから採取も簡単そうだ。初めて受ける依頼にはぴったりかもしれない。


 残り少なくなったタンポポ採取の依頼を剥がす。周りにいた見習い冒険者たちがちらっと、こちらを見るがすぐに掲示板に向き直った。無くなる前に早く確保しようという感じだろうか。


 依頼書を手に持って窓口に向かうが、自然と長い列の方に並んでしまった。


 列の先の窓口に座る受付嬢が美人だからという訳ではない。どちらかと言うと、鼻につく男の職員が座っていないって事の方が重要だ。朝から気分が悪くなるとか避けたい事案だ。


 ちょっと時間がかかったが、ようやく順番が回って来た。


「いらっしゃいませ、アールさん。本日のご用件はどういったものでしょうか?」

 受付嬢が視線を上げて私の顔を確認すると名前を呼んでくれた。


 確かジャッジアさんだったかな、少し嬉しくなりながら答える。


「依頼を受けたいんですが」

 そう言いながら依頼書を差し出す。


「こちらの依頼ですね、お預かりします。あと、ギルドカードもお願いしますね」

 嫌味っぽくない、にっこりとした笑顔を浮かべてくれた。


「あっすみません、ジャッジアさん」

 慌てて、首から下げたギルドカードを手渡す。


「いえいえ、慣れないうちは仕方ないですよ。では、受付処理をいたしますので少々お待ちください」


 笑顔を浮かべたまま、水晶玉にギルドカードをかざして処理を始めた。


 これが隣の男だったらと思いちらっと視線を向けると、まだまだ子供と言って良いぐらいの見習い冒険者に冷たい口調を浴びせかけている。


 うん、こっちに並んで正解だったようだ。


「アール様、ご依頼はこちらだけで宜しかったでしょうか?」

 処理が終わったのか受付嬢のジャッジアが、こちらを見ながら確認してきた。


 こちらだけって事は、掛け持ちで依頼を受けてもいいのかもしれない。まあ、今日は様子見だ。それに本音を言うと多めにとって自分でポーションを作成してみたいってのもある。


「ええ。初めての依頼ですし、それだけでお願いします」


「アールさんならすぐに終わると思いますが、そういう事ならわかりました。それでは、手続きの方は終了しておりますのでギルドカードをお返ししますね」


 最後まで笑顔を崩さず気持ちの良い応対だ。昨日も感じたが妙齢の美人にこんな対応を取られたら、心が惹かれてしまう。だが相手の名前を呼ぶなんてセールストークの基本中の基本だ、惑わされちゃいけない。


 われながらこんな惚れっぽかったかな!? まるで思春期みたいに盛ってる、と心の中で苦笑する。


 しかしと、よくよく考えてみて気付く。そう云えばこっちの世界に来て直ぐに冥府の番(ハチ)犬に出会い、その後は絶えずかたわらに信頼できる仲間がいる状態だったのだ。気付いてしまうと、人恋しい寂寥感せきりょうかんが心を占める。


 思わず胸に手を持って行き、首にぶら下げたダンシングレー(お玉さん)ドルの魔力を感じ取る。


 あれだな、人恋しいなら誰かの肌の温もりに癒してもらえば良いのだ。本来の目的通り今日は依頼を終わらしたら娼館を探そう。そう心に決めてギルドカードを受け取り、冒険者ギルドを出る。



 向かうのは東の城門だ。先ほど資料に載ってた地図で確認したのだが、街の北よりにある冒険者ギルドから一番近い、薬草採取のおすすめポイントは街の東の川沿いだ。この辺りは昨日、歩かなかった。


 周りの様子を見ながらのんびりと進んで行く。すると、冒険者ギルドで横の列に並んでいた少年が私の横を走り抜けていった。


 今の少年はさっきあの陰険ギルド職員になんか言われて、悔しそうな顔で薬草採取の依頼に変えていた見習い冒険者だったはずだ。心の中で「頑張れ」と応援しておいた。



 東の城壁のほとんど北の端にある城門は、一昨日入って来た西の城門より一回り大きく立派である。


 城門にいる衛兵に挨拶すると声が返ってきた。


第6都市(DA6)に向かうのか? それにしては荷物も持ってないし……商人ではなさそうだ。誰かのお使いか?」


 衛兵は私の顔を見ると怪訝けげんな表情を浮かべた。


「冒険者です。今日は初めての依頼なんですよ」

 ギルドカードを提示する。


「その年でか……まあ頑張れよ」

 何とも言えない表情をして、通るのを許可してくれた。



 城門をくぐりながら考える。このまま進むとDA6って街に行けるのか、新しい情報が手に入った。それとこの年で冒険者になるのは珍しいって情報も……。


 何となく目立ちたくはないな。そんな事を考えながら目線を前に向けると、見わたす限りの穀物畑が広がっていた。


 北側や西側とは全く違う風景だ、思わずその広大な農地に圧倒される。しかも1つ1つの農地が広く、同じ作物を栽培しているようだ。それに1つの畑に入って働いている人数も多い。


 そう言えば昨日、奴隷商の主の説明でようやく理解できたが、首輪をつけてる者だけが奴隷じゃない。一昨日の城門で衛兵が点呼をしていた感じだと、今見えてる農夫の大半が奴隷ってことか。


 そうか、そういう事か。だからみんな固まって移動するんだ。だから、みんな同じ時間に出勤してるのか。つまり、学生時代に習ったプランテーションってやつみたいな物か。


 この圧倒的な食料供給体制があるからこそ、この世界は私が想像していたよりも文化的で衛生的な社会を作り出せているのかもしれない。剣や盾で戦うのをみて、奴隷と言う存在を聞いて、中世や古代をイメージしていたが、もう近代一歩手前なのかもしれない。


 よく考えてみると、日本でも200年も遡れば腰に刀をいていた訳だし、アメリカですら150年前にやっと奴隷解放を宣言したのだ。


 異世界に転位して来てダンジョンマスターになって、意のままにダンジョンを作って信頼できる眷属に囲まれて、その眷属に対して俺Tueeeの真似事をして思いあがっていたのかもしれない。気を引き締め直さないと、思わぬしっぺ返しを食らいそうだ。


 決意を新たにして薬草採取に向かう。

 ・・・

 ・・

 ・

 だが、しっぺ返しは思いの他早くやって来た。


 早く終らして娼館を探そう、なんて考えていた自分に文句を言いたい。私の横を走り抜けていった少年に頑張れ、なんて思っていた自分を呪いたい。


 あの少年冒険者は知っていたんだ、近場にはもう採取すべくタンポポが残っていないって事を。


 おすすめポイントを探し回ったがまったく見つける事が出来ず、昼過ぎまで歩き回ってようやく遠目に見つけたタンポポ。ほっと一息ついて気を抜いた瞬間、あっという間に駆けよってきて、唖然としているうちに根こそぎ掻っ攫って行ったあの少年冒険者の笑顔。


 思わず腰の剣に手が伸びる所だった。早い者勝ちなのだ、どうにか我慢して気付いた。そうかそういう事か。依頼書が飛ぶように剥がされていたのも、早く動かないと採取するのが大変になるからだったのか。


 ようやく理解した時はあとの祭りって奴だ。ちょっと強いからと言って天狗になっていたようだ、初日にして冒険者の洗礼をうけてしまった。



 なんとか依頼された量を掻き集め、城門でギルドカードを提示した時にはすでに周囲は薄暗くなっていた。


 このまま宿屋に帰って1日中歩き回った体を癒すためにふて寝をしたい所だが、薬草採取の期限は当日中だし報酬をもらわないと明日の宿代も払えない。


 太陽が沈んでしまうと冒険者ギルドは閉まってしまう。間に合うようにと、城門を抜けると走り出す。


「頑張れば間に合う!!」


 後ろから、ギルドカードで依頼を確認して事情を分かっているであろう衛兵が声援を送ってくれた。



 何とか間に合ったようだ。冒険者ギルドに着くと直ぐに裏手に回って、採取してきた薬草を納品する。品質や量には問題は無かった。大きく息を吐き出しながら、依頼の報酬を受け取る為に建物の中に入る。


「あら、アールさん遅かったですね。もう窓口を閉めようかと思っていたんですよ」

 受付嬢のジャッジアが声をかけてくれた。


「報酬だけ受け取りたいんですが、まだ大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫ですよ」


 ほっと胸を撫で下ろしながらギルドカードを手渡す。ジャッジアが水晶を操作しながら、不思議そうな顔をして尋ねてきた。


「アールさんあの後、新しい依頼を受けたって訳じゃなかったんですね。何か他に用事でもしてらっしゃったんですか。もしそうなら、もう少し早く来ていただいた方が助かります。今度からは気を付けてくださいね」


 最後の方はさすがにちょっと渋い顔を作っていた。とは言っても、文句を言われる筋合いはない。こっちも一生懸命頑張ってきたんだ。


「いや、必死に薬草を探してたんですよ。近場のは、ほとんど取り尽されちゃってて大変でしたよ」

「えっ。この薬草採取の依頼って2日前に出たばっかりなので、そんな事無いはずなんですが……」

 少し驚いたような顔をしている


「半日探し回ってやっと見つけたと思ったら、目の前で見習い冒険者の少年に先を越されてしまいました。ほんと情けない限りです」


 大変だったという事を理解してもらう為に、説明していたのだが思わず愚痴になってしまったようだ。頭を掻きながら照れ隠しに苦笑いを浮かべる。


「半日ほど入った森の中で、見習い冒険者ですか。危険ですね、ちょっと調べさせてください。アールさん、良ければ目撃した少年の人相を教えて頂けますでしょうか?」


 ジャッジアは私の話を聞くと、次第に表情を真剣なものに変えていった。なにか問題でもあるのだろうか……森の中・・・!?


「いま、森の中って言いました? 私が採取しに行った場所は、街の東の街道沿いを進んで……」

「はあああああ??」

 見る見るうちに受付嬢の表情が変っていく。


「えっと……」



 結論から言うと西の門から出て探すといくらでも採取できたそうだ。とは言え、街の西側には魔物が出る可能性があるので低ランクの見習い冒険者は西の城門で止められるらしい。


 ちなみに、私ならなんの問題もないそうだ。だから私には街の西側で採取して、東の街道沿いのは低ランクの新人冒険者の為に残しておいて欲しいとまでお願いされてしまった。


 新人冒険者ってこっちもだよ。それに、知ってたら東には行かないわ。


 お勧めポイントに従って、みたいな感じで言ったら、薬草がどこにでも生えているのは常識で、東と南で採取するとしたらこの辺りが良いですよ。というポイントなんですよ、とゲンナリした顔で説明された。


 思わず私の故郷では見たことがないと誤魔化すと、結構どこにでも生えてるはずなんですがね、と不思議そうな顔をしていた。実際、前の世界にも生えていたんだから、そう云う物なんだろう。


 なんか二重に落ち込んだ。余裕の依頼だと思って受けたら、実は大変で、何とか依頼達成できたかと思ったら、やっぱり余裕だったとか……訳が分からん。


 せっかく受付嬢から情報を得たのだから、明日も同じ依頼を受けるか。




 そして西側に行ってみようと思う。

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