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元勇者、魔王の娘を育てる~父と娘が紡ぐ、ふたつの物語~  作者: 雪野湯
第二章 子どもたちの目指す道

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第11話 ……

 元来た道を引き返し、子どもたちと再び合流を果たすと、待ちかねたようにアスティとフローラが小走りに駆け寄ってきた。

「お父さん!!」

「ご無事で!!」


「ああ、なんとかな……だが、それよりも、お前たち、待っていろと言ったはずだぞ」

「そ、それは…………ごめんなさい」

「申し訳ありません。待ってるだけじゃつまらなかったもので、つい……」


 フローラから零れ出た本音に、俺は思わず苦笑いを浮かべる。

 三人の中で一番しっかりしてそうで、実は最も好奇心旺盛なのがフローラ。アデルはやんちゃな雰囲気に反して、以外に慎重。アスティに至っては、賑やかな場があれば迷わず頭から突っ込んでいく。


 好奇心。慎重。豪胆。

 

 普段は抑え役に回るアデルは冒険を前に止まらなかった。アデルとアスティが止まらないときは、フローラが一歩退いて止め役に回るのだが、今回は好奇心が上回り、いつもの均衡が崩れてしまったようだ。



 二人は反省の色を浮かべつつも、俺に大事ないか心配している様子。

 そんな二人の頭を軽くぽふぽふと叩き、特に問題ないことを伝え、子どもたちを助けに来たジャレッドとカシアへ顔を向けた。


 ジャレッドは肩に大剣の(やいば)を軽く乗せ、片手を上げて挨拶を寄越す。

 一方カシアは、頬に涙の痕を残しており、彼女の前ではアデルが息切れのような様子を見せていた。


 二人の間で何があったのか想像に難くない。



 俺は子どもたちには届かない低い声でジャレッドに問いかけた。


「ジャレッド、二人は……」

「ああ、二人とも自分を抑えていたが、結局は親子喧嘩だ。旅を続ける続けさせないのな。最後はアデルが押し切ったが」

「すまん、大事な息子を預かったそばから、こんな大事(おおごと)に巻き込んで」


「別に巻き込まれたとは思っちゃいねぇよ。村は遅かれ早かれ大戦(おおいくさ)に見舞われるわけだしな。それに敵は、勇者クルスそのものじゃないんだろう?」

「気づいていたか」


「まぁな。こんな辺境に勇者クルスがお越しになるくらいだ。何らかの狙いがある。それを元に考えると、その背後に異界からの侵略者がいて、俺たちの存在に勘づかれたってところだろう。ただ、なぜ軍や偵察隊ではなく、勇者を直接送ってきたのかが気になるが……?」


「俺もそこが腑に落ちない……ま、どう転がるにせよ、備えは大丈夫なのか?」

「十分すぎる――――と、言いたいが、お前さんとクルスの戦いを見て、不安になった」



 言葉ではそういうものの、村の方角に顔を向けたジャレッドの表情には一片の動揺もない。

「村には、アルフレッドクルーンシールドがある。あれなら勇者であれ魔王であれ、そう簡単には破れないだろうぜ」

「なっ!? アルフレッドクルーンシールドだと!? 百年前に存在した大魔法使いアルフレッド=クルーンが考案した絶対障壁。理論だけで存在しないはずだろ!?」



 アルフレッドクルーンシールド……大魔法使いの名を冠する大結界。いや、絶対結界と言うべきか。

 幾重にも折り重なる多重防壁の結界で、いかなる魔力をも無尽蔵に吸収し、生半可な物理攻撃では破ることができない。物理攻撃で破壊しようとするならば、最低でも一つの町を消し飛ばす力が必要。しかし結界は、傷を負っても瞬く間に自動修復するという代物。

 

「そんなものが村に……そうか! 村中に配置されていた防衛用魔石は、そのためのものだったのか!」

「村長から聞いてなかったのか?」

「ああ、まったく」



 村長リンデン……魔王ガルボグの理想を引き継ぐ者。

 どうやら俺は、自分が思っていた以上に、彼から信用されてなかったようだ。


(まぁ、俺はガルボグと敵対していた存在。しかも元勇者。村長という責任を預かる立場上、ほいほいと信じるわけにはいかないか――ん?)



 奇妙な視線が俺に絡みつく。

 俺はその視線の出所へ話しかけた。

「どうした、アスティ?」

「…………」


 名を呼んでも答えを返さず、アスティはただぼーっと俺を見ている。

 隣に立っていたフローラがアスティの袖を軽く引っ張る。

「あーちゃん、ヤーロゥさんが呼んでるよ」

「え!? ああ、そうなの? どうしたの、お父さん?」

「いや、どうしたは俺のセリフなんだが? 大丈夫か、上の空だったようだが」

「あ、うん……お父さんが無事だったのがわかって、ちょっと気が抜けてたのかも」

「フフ、そうか? ほら、見ての通り、俺は元気そのものだぞ」


 俺は腕をまくり、力こぶを見せつけて微笑み。

 それにアスティも同じく微笑みを返す。

 その様子を見ていたフローラが、戦いの相手だった勇者クルスについて尋ねてきた。


「あの勇者クルスに勝ったんですよね?」

「一応な。逃げられてしまったが」

「ヤーロゥさんは、現役勇者に勝てるほどの強さをお持ちというわけですか」

「クルスが油断してくれていたおかげだ。正直、次はないと思っている。だからこそ止めを刺しておきたかったんだが……」



 俺はジャレッドに向き直り、あの場に現れたリリスについて話すことにした。

「ジャレッド、クルスに止めを刺そうとしたとき、リリスが現れた」

「リリス!? 勇者クルスと双璧を成す大魔法使いじゃねぇか!? よく、この二人を退(しりぞ)けることができたな!」

「いや、リリスとは敵対していない」

「なに?」

「いろいろややこしいことになっているみたいでな。とりあえず、お前とカシアに詳しく話しておきたい」



 俺は子どもたちを遠ざけて、大人たちだけで話す空間を作る。

 子どもたちは不満げな表情を見せていたが、あの子たちに話をするにも、一度整理をつけておきたかった。

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