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元勇者、魔王の娘を育てる~父と娘が紡ぐ、ふたつの物語~  作者: 雪野湯
第一章 勇者から父として

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第27話 十一歳の記憶・4-2

 俺は風よりも速くひた走る――事故が起きた坑道へと。

 現場には救援隊が集まり、救出された子どもたちの一部が治療部隊により治療を受けていた。

 その中に、アデルとフローラの姿はあったが――――アスティの姿はない!!



「アデル、フローラ! 怪我はないな!?」

「う、うん。だけど、アスティが!」

「あーちゃん、崩れてきた時にわたしを助けるために突き飛ばして、それで、それで、ごめんなさい! ごめんなさい、ヤーロゥさん!!」


 泣きじゃくるフローラの頭を撫でつつ、俺は()く心を無理やり押さえつけて穏やかに声を生む。


「それで、アスティは埋まったのか?」

「わかりません、ごめんなさい、わたしのせいで!!」

「いや、フローラのせいじゃない。だから、落ち着いて」


 ここでアデルが強い声で言った。

「アスティは埋まってないよ!」

「アデル?」

「フローラを突き飛ばした後、すぐに後ろに跳んだのを見たもん。坑道の奥は崩れてないから、たぶんそこに!!」

「そうか! アデル、ありがとう!!」



 俺は坑道の中へ入ろうとする。

 それを救援隊が止めに入った。


「おい、中に入るな。構造が不安定になっていて、いつ完全に崩れるかわからないんだぞ!!」

「アスティの他に取り残された子はいるのか!?」

「え? いや、いない」

「いないんだな!」

「あ、ああ、いないが?」


「じゃあ、どいてくれ」



 救援隊の男性を押しのけて、坑道入り口の前に立って瞳を閉じ、全身をオレンジ色の魔力で包む。そして、コ~ンという甲高い音と共に、一気に光の環を広域に放った。


 その様子を見てフローラがぼそりと声を生み、それにアデルが尋ねた。

「まさか、サーチ?」

「サーチって?」

「何かを探索するための魔法。主に生命反応を探るためなんだけど」


「生命反応!? それじゃ、ヤーロゥおじさんは!?」

「ええ、あーちゃんの生命反応を探るためだと思う。だけど――」

(サーチの魔法は実用的じゃない。普通は遮蔽物に邪魔をされてサーチがままならないから。だけど、今の魔法はそれを桁外れの魔力でカバーして、坑道の奥深くまで届かせた。そんなこと、ママでも……)



 俺は瞳を開けて、まっすぐと坑道入り口を睨みつけた。

「見つけた。息はあるが、呼吸はか細い。早く助けに行かないとな。そこの救援隊の人」

「な、なんだ?」

「坑道の構造はどこまで弱っている?」


「完全に崩れる寸前だ。少しでも手順を誤れば、奥まで一気に崩れ落ちる。この魔石を産出する坑道はしっかり手入れされていて、安全だったはずなのに、どうして!!」

「泣き言は後にしてくれ! まだ、アスティは生きている! 距離はここから二百。それまで持つか?」


「に、二百!? 埋まっている場所を補強しつつ、慎重に掘り返さないといけないんだが……それほど奥となると、空気が持たない。残念だが……」

「理解した。それじゃ、俺が助けに行く」

「――はっ!?」



 俺はアデルとフローラに顔を向ける。


「カシアとローレは?」

「まだ来てない」

「たぶん、寄合所からこっちに向かっている最中だと思います」


「そうか、俺の足の方が速かったんだな。フローラ、坑道が弱っている状況ではアスティ救出後、身動きが取れなくなる。だから、ローレが来たらサーチの魔法を坑道奥二百~三百程度に向けて集中して放ち、俺たちの場所を特定してくれと伝えてくれ」

「は、はい、わかりました」



「よし、行くか! 待ってろ、アスティ。すぐに助けに行ってやるからな」


 俺は救援隊を横切り、坑道の中へと入っていく。

 彼らは一様に俺を引き止めようとしたが、彼らの手は全て空を切り、俺は坑道の奥へと姿を消していった。




――坑道内部


 土砂に埋もれた場所で立ち止まり、その土砂に触れる。

「…………埋まっているのは距離50か? それなりにデカい岩も混じっているが、俺なら一気に突き抜けられるな。ただ、坑道の構造が弱っているから、突き抜けたと同時に魔力で坑道全体を支えないと」


 俺は前傾姿勢を取り、鋭い槍のような形をした魔力を生み、それを前面に置く。

 そして、両足に魔力を溜め込み、一気に土砂へと突っ込んだ。


「おらあぁぁあぁ!」


 数秒で突き抜け、すぐさま魔力を解放し、それにより坑道全体を支える。

「ぐぐぐ! こりゃ、きついわ。まぁ、山一つ支えてるようなもんだから当たり前なんだが」

 体を奥へ向けて、構造維持に意識を絶やすことなく進む。




――坑道奥


 暗闇……閉塞した空気が喉を詰まらせて、音無く、耳鳴りだけが頭に響く。

 無が広がる世界。

 しかし、そこには小さな光が宿り、空気を微弱に震わせていた。


「おとう、さん……」


 少女は温かみのない岩肌に背を預け、(かす)れる言葉と共に手を伸ばす。

 手は胸元に宿る魔法の光から離れると、あっという間に暗闇に飲まれた。

 それに恐れを覚えた少女は手を光のある場所に戻そうとしたが、その時、とても聞き慣れた言葉に交わり、大きく暖かなものが少女の手を包んだ。


「アスティ!」

「……え?」



 俺はうつろな瞳でこちらを見つめる少女――娘アスティを翡翠色の瞳に映した。

「アスティ、無事だな!?」

「おとうさん? お父さん!? どうして!?」

「助けに来たんだ! 怪我は……む……」


 アスティは頭から血を流して、足首は紫色に腫れ上がっていた。

「すぐに治療してやるから。と言っても、回復魔法はいまいちなんで、痛みと出血を抑える程度。あとで、ヒースにしっかり見てもらわないとな」

「う、うん……」



 アスティはいるはずのない俺の姿を見て驚き、言葉がたどたどしい。

 俺は娘の胸元の浮かぶ光に瞳を寄せる。

「魔法で光を生んで……風の魔法で空気を生み出していたのか?」

「うん。でも、魔力で坑道内部の空気を一時的に増幅するだけだから、ずっとってわけにはいかないけどね」

「十分だ。あとはお父さんが空気と光を生むから、アスティは休んでいなさい」

「うん、お願い……」


 

 そう言葉を返すとアスティは光を消して、小さく息をついた。

 しかし、恐怖は震えとなって体に現れる。

 俺はその恐怖を少しでも和らげようとアスティを優しく抱き起して、キュッと抱く。

 そのおかげで幾何(いくばく)か震えは収まる。


(怖かったんだな。そうだというのにお前は……)

 落盤・暗闇・孤独……このような状況でとても冷静な判断を下していた娘の姿に驚きを禁じ得ない。


(普通ならパニックになってもしょうがない状況だというのに……我が娘ながら見事だ)


 危険はまだ去っていないというのに、俺は親バカな思考を宿しつつ、光の魔法で辺りを照らし出し、風の魔法を使い坑道内に残る酸素を魔力で増幅させた。



 そして、光が届かぬ坑道の奥へ瞳を向ける。

「奥から風の流れを感じられない。奥は奥で埋まっているのか?」

「空気は大丈夫かな?」

「半日くらいは持つだろう。その間に救援隊が来てくれる」

「もし……間に合わなかったら?」


 ぶるりとアスティの体が震える。

 俺は優しく頭を撫でて、こう言葉を返す。

「その時はお父さんが坑道ごと吹っ飛ばして脱出する」

「へ?」

「ただ、それをすると坑道が潰れて採掘場が駄目になるし、救援隊や外で見守っている人たちを怪我させてしまうかもしれないから、これは最終手段だな」


「あの、お父さん……?」

「なんだ?」

「そんなことできるの?」

「ああ、その気になればこの山ごと吹き飛ばせる」

「やまごと……」

「ともかく、そろそろローレが現場に着くだろう。そうすればあちらからサーチの魔法を応用した連絡が――」




 と、言っているそばから、サーチの魔法が俺たちのもとへ届く。


 俺は同じくサーチの魔法を使い、生存とおおよその位置を軍で用いる救難信号に表して魔力に乗せた。

 信号内容については元傭兵だったカシアがいるので解読できるだろう。

 僅かの間をおいて、すぐに救出に行くという(むね)が届く。


 というわけで、俺たちはこの場で動かずに救援を待つことにした。

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