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妖女学園のこくりちゃん  作者: こんぐま
第8話 誕生日はケチャップ色
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8時間目 いつも隣に私のアバター(5)

 こくり対偽みっちゃんのフードファイトが始まってから30分が経過した頃に、この戦いにも変化が起き始めていた。

 みっちゃんママの繰り出す料理の数々が段々と減っていたのだけど、その結果で手を緩める余裕が出来て、それが原因とも言える変化。

 みっちゃんの誕生日パーティー用に準備されていた料理と、フードファイトが始まってから作られた料理の底がつき始めたタイミングで、偽みっちゃんが卑怯な手段を使い始めたのだ。


「ワア。手ガ滑ッチャッタ~」


 あからさまな棒読みで繰り出されたのは、こくりが食べていたから揚げにふりかけられたレモン汁。

 そう。

 かの有名な「レモンかけときますね」を、偶然を装ってふりかけると言う暴挙。

 レモンの香りがこくりの鼻を刺激して、その手は止まる。


「ごめんね狐栗こくりちゃん。でも、一度手を付けた料理は全部食べないと駄目だよ?」


「…………」


 偽みっちゃんがニマアッと気持ちの悪い笑みを浮かべて食事を続ける。

 手を止めてしまったこくりを見て、本物みっちゃんが顔を青ざめさせてお狐さまを見ると、お狐さまは首を傾げた。


美都子みつこよ。アレは何をしたのだ? 何故あやつ、ドッペルゲンガーはあれ程にしてやったり顔なのだ?」


「レモンの汁をかけたんだよ。わたしアレ嫌いだから、こくりちゃんの気持ちが分かる。こくりちゃん可哀想だよ」


「レモンの汁じゃと? それなら問題無いではないか」


「大問題だよ!」


 その恐ろしさを全く分かっていないお狐さまに、みっちゃんは少し強めに話す。

 この問題はそれ程に根深く、数多の論争を繰り広げた世間を揺るがす程の問題なのである。

 偽みっちゃんのしでかした事は、それだけ恐ろしい暴挙なのだ。

 しかし、相手が悪かった。


「からあげにレモン。美味しいです」


 相手はこくり。

 こくりはそんな世間一般的な争いなど全く関係ないし、そもそもとして、別にからあげにレモンがどうのとかどうでもいい。

 レモンが嫌いなわけでも無いし、からあげを食べる事もそんなに無いので、むしろ新感覚で味わえる。

 そして何より、野山で野性的な食事をしていたこくりにとって、人の作り出した料理は本当にどれも美味しいのだ。

 つまり好き嫌いなんて今のところ全く無くて、例え多くの人が嫌がるだろうイナゴ料理を出されても美味しく頂くだろう。


「レモン味のから揚げが美味しいなんて、なんて野蛮なの! 狐栗ちゃん!」


 さっきまでの気持ちの悪い笑みは何処へやら。

 偽みっちゃんは顔を真っ赤にして怒気を孕ませ、レモン汁のかけられたからあげを美味しく食べるこくりを睨み見る。

 尚、レモンの汁をかけたからと言って、レモン味になるわけでは無い。 


「やはり問題は無いようだな。美都子の取り越し苦労であったな」


「うぅ……。こくりちゃんがレモンの汁派だったなんて……」


「そんなに気にする事でもあるまい」


「気にするよ!」


「美都子さんは先程からどなたと話していますの?」


「え!? あ、ほら。ペットのてんぷらだよ」


「クューン?」


「ふふ。狸とお話だなんて、美都子さんもまだまだ子供ですわね」


「そ、そうなんだあ。えへへ~って、わたしたち子供だよ?」


 みっちゃんの言う通り、二人ともまだ7歳児なので子供である。

 さて、それはそうと、レモン汁からあげを攻略したこくりが次の料理に手を伸ばす。

 すると、偽みっちゃんがこくりに憎しみの籠った視線を向けて、今度は近くに置いてあったタバスコを手に取った。


「大変ですわよ美都子さん! あれはタバスコですわ!」


「そんな! パパがピザとスパゲティにタバスコをかけるせいで、こくりちゃんが危ないよ!」


「美都子や、タバスコとはなんだ? またさっきの様に、たいしたものではないのだろう?」


「もう! お狐さまは黙ってて!」


「ぐぬぬ」


 お狐さまはレモン汁のように大袈裟に騒ぐほどではないと考えたが、今回ばかりはそうもいかない。

 お子さまの舌にはタバスコは猛毒の如く牙を剥き、口内に山火事を起こす恐ろしい破壊兵器なのだ。

 そして、偽みっちゃんの恐ろしい攻撃が今、こくりが食べようとしたピザにダイブした。


「今日のピザはピリ辛で美味しいです」


「大人! こくりちゃん大人舌だ!」


 なんということでしょう。

 5歳児こくりの子供舌には、大人な破壊兵器タバスコが全く効かなかった。

 これには偽みっちゃんも驚愕し、そして――


「――ぎゃああああああああああ!」


 哀れな偽みっちゃん。

 偽みっちゃんはこくりの反応を見てタバスコを疑い、一滴だけ手の平に付けて「実は中身が違うんじゃ?」とペロリと舐めて、見事に撃沈。

 最後に断末魔を叫ぶと、制限時間を待たずして倒れた。


「さっきのピリ辛はこれですか? このケチャップ美味しいです。もっとかけるです」


 白目で気を失った偽みっちゃんを気にせず、こくりがケチャップでは無くタバスコをピザにかけて食べる。

 その顔は相変わらずの眠気眼な無表情だけど、目はシイタケになって十字を輝かせたとても良い表情。


 こうして、フードファイトはこくりの圧勝で勝敗を決して、幕を閉じたのでした。

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