7時間目 いつも隣に私のアバター(4)
「変態とは失礼だなあ。私は変態じゃないよ」
こくりとみっちゃんの会話を聞いていたドッペルゲンガーはそう言うと、みっちゃんと瓜二つのその顔をしょんぼりさせた。
流石は見た目が8歳になったばかりのみっちゃんと同じ顔だけはある。
しょんぼりとしたその顔からは哀愁が漂い、常人であれば戸惑ってしまう程のもの。
しかし、こくりには通用しない。
こくりはしょんぼりした顔の偽みっちゃんに向かって、燐火の炎を直ぐに放つ。
だけど、残念な事にそれは届かなかった。
何故ならば、放った直後にみっちゃんママが咄嗟に庇ったからだ。
「きゃああって、あら? 燃えない……あ。それより美都子、ケガは無い?」
「うん。無いよ、ママ」
「……ママ?」
「お母さん騙されないで! それはわたしじゃないよ!」
「そ、そうね。でも……」
みっちゃんは必死に教えるけど、みっちゃんママとしては「はい。そうですか」とはいかない。
例え偽物だとしても、例え「お母さん」ではなくて「ママ」と呼んできたとしても、見た目は可愛い愛娘なのだ。
黙って見過ごすなんて、絶対に出来ないだろう。
ただ、この状況はこくり的には非情に不味かった。
偽みっちゃんを退治したくても、みっちゃんママやカナブンちゃんにも見えてしまえているから、どうにもやりにくい。
どれだけ倒そうとしても、今みたいに護られてしまえば倒せないのだ。
「こうなったら奥の手を使います」
こくりは相変わらずの眠気眼な無表情をそのままに、まるでこの時を待っていたかのように、目をシイタケに変えて十字を光らせる。
そして、全身から燐火の炎を発生させて、ゆっくりと偽みっちゃんに近づいていく。
「変態みっちゃん、フードファイトしましょう」
「フードファイト……っ!?」
「待って!? こくりちゃん! その呼び方は変えよう!? それだと私まで変態っぽく聞こえちゃうよ!」
こくりの申し出に、偽みっちゃんが驚き、本物みっちゃんが背後で困惑して叫ぶ。
しかし、こくりの燐火の炎は灯っていて、既に戦いは始まっているのだ。
みっちゃんの訴えは、こくりの耳には届かない。
「一時間の制限時間内に、いっぱいご飯を食べた方の勝ちです。こくりが勝ったら、大人しく更衣室に帰って下さい」
「こくりちゃん、流石にそれで更衣室に戻るわけ――」
「いいよ、こくりちゃん」
「――いいの!?」
まさかの返答に驚くみっちゃん。
しかし、それだけでは終わらない。
「私が勝ったら、一週間その尻尾をモフモフするよ! 先月おもちを食べすぎて太った私の食いっぷりを見せてあげる!」
「ちょっとおお! なんでそんなこと知ってるの!? 誰にも喋ってないのに! しかもばらさないで!」
やはりドッペルゲンガーは恐ろしい妖だ。
その猛威はフードファイトが始まる前から発揮して、みっちゃんの内緒がばらされてしまった。
まだ8歳で幼いとは言え、みっちゃんもやっぱり女の子だ。
気にしていた体重の話を持ち出され、顔を真っ赤にして既に満身創痍である。
「な、何が何だか分からないけど、美都子さん哀れですわね」
「美都子はまだ子供なんだから、体重なんて気にしなくていいのよ」
「ダイヤさんとお母さんは何も言わないで!」
みっちゃん達がギャーギャーと騒ぐ中で、こくりと偽みっちゃんが向かい合って椅子に座る。
真剣な無表情こくりと、ニタァッとした気持ちの悪い笑みを浮かべる偽みっちゃん。
そして、みっちゃんの「誕生日なのにいい!」と言う悲痛な叫びを合図にして、二人は同時に食事を始めた。
しかし、最初はこくりに分が悪かった。
「いただきます」
お利口さんのこくりは、しっかりといただきますをして食べ始めたのだ!
だけど、お利口さんとは程遠い偽みっちゃんはそれをしない。
まさかのスタートに出遅れると言うハンデを背負ってしまったこくりは、ピザ一切れ分の差をつけられてしまった。
「大変ですわ! 狐栗さんが出遅れましてよ!」
「うん、そうだね……あれ? ダイヤさんはこくりちゃんの青い炎を見ても驚かないの?」
「今時CGで驚く人なんていませんわよ。先程あれを浴びても、あなたのお母様は何とも無かったでしょう? 驚くほどの事ではありませんわ」
「そ、そうだね」
「美都子、お母さんは今から二人が食べる料理を作るわね」
「あ、うん……え? 作るの?」
みっちゃんママが何故かはりきり出して、台所で料理を始める。
すると、まるで入れ替わるかのように、お狐さまとグマ子がてんぷらと一緒にやって来た。
「あれー? みつこちゃんが二人いるわ~」
「クューン?」
「むむう。美都子よ、これはどうなっておるのだ? 何故もう一人おるお主と、燐火を全身に纏った狐栗が競うように食事をしておるのだ?」
「わたしが聞きたいよ」




