6時間目 いつも隣に私のアバター(3)
今日はみっちゃんの誕生日。
こくりは久しぶりにみっちゃんハウスへと来ていた。
そして、その隣には黄金院明媚ことカナブンちゃん。
自分の家に招こうとしていたカナブンちゃんは、みっちゃんといっぱい言い争った結果「仕方がありませんわね」と言って、みっちゃんの家に行くと言ったのだ。
そんなわけで現れたカナブンちゃんだけど、その背後にはいつものモブ……の姿は無く、執事のお爺さんがいる。
と言っても、執事のお爺さんは手土産とみっちゃんへのプレゼントを玄関で渡すと、直ぐにこの場から去って行った。
そんなわけで、一緒にみっちゃんハウスにやって来たこくりとカナブンちゃんは、みっちゃんと一緒にケーキの置かれた机を囲んで座る。
そして、カナブンちゃんには見えていないが、こくりの背後にはお狐さまの姿もあった。
「狐栗や。儂はちとグマ子と話して来る」
「わかりました。こくりはケーキを食べます」
「うむ。存分に食すがよい」
「食べつくします」
こくりがお狐さまにそう告げると、カナブンちゃんがこくりの周囲を見て首を傾げた。
「誰とお話しておりますの?」
「パパです」
カナブンちゃんは「ぱぱ?」と更に首を傾げて、みっちゃんはクスクスと笑みを浮かべた。
お狐さまがいなくなると、みっちゃんの誕生日パーティーが始まった。
部屋を真っ暗にして、ケーキに立てたろうそくの火に息を吹きかけて消すと、運命のプレゼント時間がやってきた。
まずはカナブンちゃんの執事が先に渡していたプレゼント。
綺麗にラッピングされたそれを、みっちゃんがドキドキしながら剥がしていく。
「ほ、宝石……っ!?」
ラッピングを解き箱を開けて目に映ったのは、綺麗に輝く透き通った紫色の石。
紫の石は髪飾りの装飾とされていて、とても綺麗に輝いている。
「ダイヤさん、これって本物なの?」
「うふふ。美都子さんってば、驚きすぎですわよ。それはアメジストですわ。そんな驚くほどの石ではありませんわよ」
「アメジスト? 初めて本物見たよ」
「あら? 美都子さんの誕生石でしてよ? ご両親からプレゼントされた事がございませんの?」
「こんな高価なものされるわけないよ。わあああ。ダイヤさん、ありがとう。大事に飾っておくよお」
「いいえ。そんなにたいした物ではない安物ですわ。高い物だと困ると思いましたもの。普段からお使いして頂いて構いませんわ」
カナブンちゃんはこんな事を言っているが、この髪飾りのお値段は50万くらいである。
少なくとも、みっちゃん宅では高い物であって安物では無い。
と言うか、一般的な家庭であれば、どう考えても高い物だった。
しかし、そんな事を知る筈も無いみっちゃんは、その言葉を疑う事無く「そうなんだあ」と軽い気持ちで母親に頼んで早速髪に付けてもらう。
そうして付けたアメジストの髪飾りは、とても良く似合っていて、みっちゃんの可愛さを引き立てていた。
もちろんそれをみんなが褒めて、みっちゃんは気分をよくして鏡で自分の姿を見ようと、洗面所へ行こうとする。
するとそこで、待ってましたと言わんばかりの相変わらずの眠気眼な無表情のこくりが、みっちゃんの前に立ちはだかる。
「先にこくりのプレゼントを開けて下さい」
こくりが差し出すのは、可愛くラッピングされたプレゼント。
みっちゃんはそれを見つめて、あまりの嬉しさにこくりからのプレゼントをまだ受け取っていなかった事を思い出して、お礼を言ってプレゼントを受け取った。
そして、しっかり丁寧にラッピングを剥がして箱を開けて、それが前にほしいと言っていた手鏡だと分かり目を輝かせた。
「これ……。ありがとう、こくりちゃん。あの時に言った事を覚えててくれたんだ」
「はい。こくりのプレゼントはお高い物で500円です」
「あはは。値段は言わなくていいよお」
「でも、パパは恩は売れる時に売っておけと言ってました」
「そ、そうなの?」
せっかくの嬉しい気持ちが、お狐さまのせいで微妙になってしまったみっちゃん。
だけど、それでもこくりのプレゼントはとても嬉しくて、みっちゃんの心はとても満たされる。
「そんな事より、鏡を早速使って下さい」
「あ、うん。そうだよね」
少しワクワクしながら、みっちゃんはアメジストの髪飾りを付けた自分の姿を見る。
するとそれは思った以上に可愛くて、みっちゃんは顔を綻ばせた。
しかし、その時だ。
「――っ」
鏡に映った自分の顔。
それが突然ニタァッとした気持ちの悪い笑みを浮かべて見つめてきた。
みっちゃんは驚きのあまり手を離して手鏡が落ちてしまい、床に落ちる寸ででこくりがキャッチする。
「ちょっと美都子さん。危ないですわね。せっかくの狐栗さんからのプレゼントを、危うく落として割る所でしたわよ? しっかり持ちなさいな」
「ご、ごめんね。こくりちゃん」
「いえ。気にしないで下さい。それよりも――」
こくりの眠気眼が鋭い眼光を放ち、お尻からは“燐火”の青白い炎で狐尾が出来上がる。
そして、こくりは何の躊躇いもなく、手鏡を燐火の炎で燃え上がらせた。
「きゃああああああ! 火、火ですわああああああ!」
「か、火事!? 大変! み、水ううううう!」
燐火の炎を知らないカナブンちゃんとみっちゃんママが慌てて騒ぎ出し、影が薄いが実はしっかりとこの場にいたみっちゃんパパは情けなくも気を失う。
そしてそんな中で、みっちゃんだけは別の動揺を見せていた。
「う、嘘。こくりちゃん、この妖って……っ」
「はい。今回の変態はいつもより大変な変態です」
こくりが燃やした手鏡から、燐火の炎で燃えきらなかった変態と言われた妖が姿を現す。
「酷いなあ、こくりちゃん。急に私を燃やそうとするなんて」
姿を現した妖はそう言うと、ニタァッと気持ちの悪い笑みを浮かべてこくりを見る。
そしてその気持ち悪い笑みの顔を、そして姿を見てみっちゃんの顔は真っ青になり、周囲からも動揺の声が上がる。
「美都子が二人!?」
「どどどどど、どう言う事ですの!?」
そう。
現れた妖の姿は、みっちゃんの姿をしていて、そして声も全く一緒だった。
「ねえ、こくりちゃん。もしかして、わたしそっくりなこの妖がドッペルゲンガーなの?」
「はい。更衣室に現れた変態です」




