2時間目 友情のデザート(2)
「変態は焼却です」
狙いを定めて青白い燐火の炎を放つと、その先にいた獲物である妖が燃えて灰になる。
あっという間に妖を退治したこくりは、相変わらずの眠気眼な無表情で「ムッフン」と大きめの鼻息を出して満足気。
燐火の炎で作られたモフモフな狐の尻尾も元気満タンだ。
と言うわけで、変質者が出ると噂されていた更衣室に辿り着いたこくりは、呆気なく妖を仕留めてしまった。
「やれやれ。美都子が言っておった変質者とは、変異体の事であったか」
そう言って現れたのは、こくりのパパのお狐さまだ。
お狐さまはみっちゃんがカナブンちゃんに絡まれているのを放っておいて、一人でさっさとやって来たのだ。
とは言え、既に妖は退治済み。
お狐さまの出番などある筈も無い。
「パパ遅いです」
「狐栗が早すぎるのだ。いや、それよりも……」
お狐さまは更衣室の中を覗いて見回してから、こくりに視線を戻す。
「学園の七不思議に関わる妖であったか?」
「分かりません。変態だったので燃やしました」
「名乗ったりはせんかったのか?」
「生着替えを覗きたい欲から生まれた変態と言ってました」
「それだけでは分からぬのう。実果に報告して来るか」
「こくりは寮に帰ってうどんを食べます」
「うむ。気を付けて帰るのだぞ。知らない人に声をかけられても、ついて行ってはならんぞ」
「分かりました。知ってる人にはついて行きます」
若干心配になるこくりの返事に、お狐さまは「うむ」と安心して頷く。
こうして本当に一瞬で事件は解決したわけだけど、これが学園の七不思議の七つ目かどうかは不明である。
お狐さまは理事長の実果に報告に行き、こくりは一人で芍薬寮へと帰って行った。
そうして芍薬寮へと向かう帰り道。
先程みっちゃんを置いて行った道まで戻ると、そこにはまだみっちゃんがカナブンちゃんと二人でいた。
ただ、二人ともこくりを待っていたと言うよりは、何やらもめている様子だ。
「私が友達だと、何が不満ですの?」
「だから、不満とかじゃなくて、誕生日をお祝いしてくれるのは嬉しいけど、なんで突然そんな事を言いだしたのか不思議なんだよ。それに誕生日は親に祝ってもらうから行けないの」
「まあ! 私よりも家族の方が大事って言いますの!?」
「え? 普通はそうじゃない?」
「そんなんだからお友達が未だに出来ませんのよ!」
「大きなお世話だよ!」
みっちゃんとカナブンちゃんが睨み合い、その間にこくりがシュタタと登場。
そして、二人の手を握って繋いだ。
「喧嘩するならリングの上に行きます」
「こくりちゃ……って、え? リング?」
「どう言う意味ですの?」
突然現れたこくりと、その言動にみっちゃんとカナブンちゃんが驚き困惑する。
しかし、こくりは一度言いだしたら止まらない。
二人の手を繋いだまま引っ張り、5歳児とは思えない程の力で二人を何処かに連れて行く。
「待って。待って、こくりちゃん。何処に行くの?」
「決闘する為のバトルフィールドです」
「決闘!? 何を言ってますの!? 決闘は法律で禁止されていますわよ!」
「確かにそうだけど、今重要なのはそこじゃないよ! こくりちゃん待って!」
みっちゃんの制止もむなしく、こくりはどんどんと進んで行き、そして辿り着いたのは幼稚舎だった。
幼稚舎に辿り着くと、みっちゃんとカナブンちゃんはポカーンと口を開けて幼稚舎を眺め、そして手を引っ張られて敷地内に入る。
こくりは砂場に二人を立たせて、相変わらずの眠気眼な無表情で頷くと、二人から距離をおいた。
「こくりはいつもここでぺたんこ先生と自由を求めて戦っています」
「なにそれ? こくりちゃんがここで先生に怒られてるって事?」
「戦ってます」
「…………」
きっと怒られて、ここで先生を困らせているのだろうと、みっちゃんは察する。
因みに実際にその通りで、こくりはいつもここでぺたんこ先せ……宗内先生に怒られて暴れ回っている。
その様子を園児たちが笑って楽しそうに見ているので、こくり的には園児たちが決闘の観客人である。
とは言え、それはそれ、これはこれである。
みっちゃんとしては別に決闘をしたいわけでは無いし、出来る事なら穏便に済ませたい。
あの事件以来、カナブンちゃんからの嫌がらせは全く無く、争う理由が何一つないのだ。
それに、自分にその気が無かったとしても、いつの間にか友達になっている。
仲が良い程喧嘩すると言う言葉はあるけど、それならと喧嘩するようなものでもない。
なんともまあ気乗りしない状況に、みっちゃんは困ってしまった。
だけど、目の前にいたカナブンちゃんは、みっちゃんとは考えが違うらしい。
「分かりましたわ。美都子さん、ここでどっちが上か決着をつけますわよ!」
「なんで!?」




