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妖女学園のこくりちゃん  作者: こんぐま
第8話 誕生日はケチャップ色
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1時間目 友情のデザート(1)

 この世に蔓延はびこる怪奇な現象。


 人々の心から忘れ去られていく“おばけ”や“幽霊”や“妖怪”のたぐい


 それ等が詰まったこの世の不思議は、


 時が経つにつれ薄まっていく。


 だが、そんな不思議が今でも集まる場所がある。


 それが、世界に名だたる名門女子校【私立妖花(ようか)威徳(いとく)女学園】。


 幼稚舎から大学までエスカレート式に通える少女達の学び舎。


 “妖花”や“威徳”などと言う可笑しく奇怪な名の学園ではあるが、


 設立当時はこの名前が【徳女】と略されて話題となり、


 徳を積む事の出来る学園として、名家のお嬢様方からの注目を集め、


 今では名門と呼ばれる学園となった。


 しかし、時が経ち、今では若者たちから【妖女】と呼ばれ、


 その名に釣られた一部マニア達からも一目置かれた乙女の園。


 この物語は、そんな可笑しな名の学園に通う幼女『狐栗こくり』の、


 奇妙で不思議なあやかしが満載な物語である。







 ドタバタした正月が過ぎ去った三学期。

 幼女学園に通うお嬢様たちの間に、妙な噂が流れていた。


「初等部の校舎に不審な者が出入しておるだと?」


「うん。上級生のお姉さまたちが使う更衣室が荒らされてて、不審者が出るって噂になってるの」


 ここは学園の敷地内にある帰り道。

 今日もこくりとみっちゃんは勉強をして、下校時刻になったので帰っている所だ。


 気になるのは妙な噂。

 妙な噂とは、みっちゃんが説明した通りの不審者情報。

 少女たちの更衣室が、体育の授業中に荒らされると言うもの。

 しかし、不思議な事に、授業中は先生が更衣室にかぎをかけるので、本来であれば侵入不可の筈な場所である。


 冬休み前の二学期には起きなかった事件で、先生たちの予想では、冬休み中に外部の者が侵入して更衣室の合い鍵を作ったのではと考えている。

 そして、あまりにも頻繁ひんぱんに起きている為、最近では見張りをつけていた。


「でも、見張りを付けているのに、気がついたら荒らされちゃうみたいなんだよね」


「むむう。美都子みつこよ、妖の可能性はあると思うか?」


「え~。どうだろう? 窓から逃げてるって聞いたし、ただの変態だと思うけど……」


「変態ですか? 変態は焼却します」


 こくりは直ぐに“燐火りんか”の尻尾を出して、変態を始末する為に走り出そうとした。

 でも、それをみっちゃんが慌てて腕を掴んで止める。


「待って! その変態じゃないよ!」


「どの変態ですか?」


「美都子よ、止めなくとも良いのではないか?」


「え?」


「その変態が妖であろうとなかろうと、更衣室に侵入するのが変態なのは変わらんのだろう?」


「うん。そうだけど……?」


「ならば、さっさと捕まえて悪さが出来ぬ様にしてやればよいではないか」


「そっかあ……って、ダメだよ! こくりちゃんが危ないよ! ナイフとか、他にも凶器を持ってたら危険だよ!」


「むう、凶器か。確かに可能性はあるのう。しかし、それは山に住む熊より強いのか……?」


「え? 強くは……ないかも?」


「ならば問題あるまい。狐栗こくりは一度に熊を五頭相手にしても勝てる」


「五頭!? うそー!?」


 最早人間離れしたこくりに、みっちゃんが大声を上げて驚いた。

 するとその時、みっちゃんの目の前に見慣れた人物が現れる。


「美都子さん、誰と喋ってますの?」


「あ、ダイヤさん」


 現れたのは、黄金院こがねいん明媚ダイヤこと“カナブンちゃん”。

 そして、カナブンちゃんと入れ替わるように、こくりがいなくなっている事にみっちゃんは気がついた。


「あれ? こくりちゃんは……?」


「こくりさんなら何処かに行きましたわよ」


「……え?」


「美都子よ、大変だ。狐栗が初等部の校舎に向かっておる」


「なんで?」


「そんなの知らないわよ」


 微妙に会話がかみ合っているが、カナブンちゃんにはお狐さまの声が聞こえないし、姿も見えていない。

 だから、さっきまでのみっちゃんの姿は、カナブンちゃんからすれば独り言をブツブツ言っていた不審者である。

 その為、カナブンちゃんは実は若干引き気味である。


「ダイヤさんは何でこんな所にいるの?」


「これよ」


 カナブンちゃんがこれと言って見せたのは、頭につけたダイヤのヘアピン。

 みっちゃんはそれを見て、この間に起きた冬の全裸祭りを思い出した。


「そのヘアピン見つかったんだ? 良かったね」


「ええ。先程落し物として届いたと連絡を受けて、ピアノのレッスンを途中で切り上げて取りに来ましたの」


「そっかあ。って、あれ?」


「なんですの?」


「あ、ううん。なんでも無い」


 みっちゃんはそう言って周囲に視線を巡らせた。

 と言うのも、いつの間にやら、お狐さまも姿を消していたからだ。


 みっちゃんはお狐さまがこの場にいないと分かると、こくりを追いかけて初等部の校舎に行ってしまったのだろうと肩をすくめた。


「ところで美都子さん。あなた、来月にお誕生日ですわよね?」


「え? そうだけど……って、なんで知ってるの?」


「こくりさんにお聞きしたのですわ。ですから、その日は予定を開けておいて下さる?」


「なんで?」


「なんでって、そんなの決まってるでしょう? 美都子さんのお誕生日パーティーを開くからに決まっていましてよ」


「ホントになんで!?」


 みっちゃんはもの凄く驚いたけど、それもその筈だ。

 何故なら、みっちゃんとカナブンちゃんの関係は変わりないからだ。

 いや、そう思っているのはみっちゃんだけらしい。


「お友達のお誕生日をお祝いするのに理由なんていりまして? こくりさんと一緒に我が家へご招待しますわ」


「ええええええええええ!?」


 みっちゃんは、いつの間にかカナブンちゃんとお友達になっていた。

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