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妖女学園のこくりちゃん  作者: こんぐま
第7話 年越しノーズ
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7時間目 決戦のおもちバトル

 学園の七不思議の一つ“ハナだらけの生物室”を無事解決したこくりたちは、急いで帰り支度をして、これまた急いで里帰りを始めた。

 そうしてあれよあれよとしている間に、朝陽が昇るまでには、こくりの神社に辿り着く事が出来た。


「わあ。夢の中で見たのと殆ど変わらないよー」


 みっちゃんは稲荷神社に到着するなり、上がった息を落ち着かせて目を輝かせる。

 階段も鳥居も境内も何もかもが、夢のままで、まるでまだ夢の中のような感覚さえ覚える。

 そんな不思議体験の真最中なみっちゃんではあったけど、のどをうるおす為に飲んだお茶はとても美味しくて、それだけでこれが現実だと実感した。


「ふふふ。お帰りなさい。それから、あけましておめでとう」


 不意に声が聞こえて振り向けば、先に来ていた理事長の実果みかが微笑みながら近づいて来ていた。


 こくりとみっちゃん、それからお狐さまは実果に顔を向けて、新年の挨拶をする。

 それから、生物室の出来事を報告して、学園の七不思議が残り一つだけだと伝えた。

 そうして報告を終わらせると、いつの間にか朝陽が昇り始めて、せっかくの初日の出なのでとみんなで眺める。


 初日の出を見終わると、こくりがトテテと走り出し、みっちゃんと実果とお狐さまはそれを追って社の中に入って行った。

 そして、事件が突然やってきた。


「おもちが逃げました」


「……うん? お餅が……逃げる?」


 一足先に社の中に入って行ったこくりが相変わらずの眠気眼な無表情で告げて、みっちゃんは一拍遅れて困惑した。

 すると、みっちゃんの隣でふよふよと揺らめいていたお狐さまが「むむ」と呟いて、何やら考え込む。

 そして、実果はと言うと特に気にしてなさそうな素振りで、先を歩いて「おせちの準備をしてくるわね」と呑気に歩いて行った。


「こくりちゃん、お餅が逃げるって何?」


 みっちゃんが再度尋ねると、こくりは今度は頷いて答える。


「活きの良いお餅だから、食べられるのが怖くて逃げたんです」


「……そっかあ」


(どうしよう? 意味が分からないよ)


 頷いたものの、みっちゃんは理解に苦しみ頭を悩ませた。

 すると、お狐さまがそんなみっちゃんを見かねて説明する。


美都子みつこよ。魚と同じだ。魂を宿らせて、活き活きした新鮮なお餅を食そうとしていたのだ」


「なんか色々おかしいよ!」


 最早何からツッコミすればいいのか分からず、全部ひっくるめたみっちゃんのツッコミがお狐さまに炸裂する。

 すると、お狐さまは「むむう」と顔を曇らせた。


「このままだと外来種と間違われて駆除されます。一刻も早くこくりが美味しく頂く為に、特急で確保します」


 相変わらずの眠気眼な無表情で言うと、こくりはタタタと社の外へと飛び出した。


「待って、こくりちゃん!」


 みっちゃんは慌ててこくりを止めようとしたけど、残念ながらこくりはあっという間に姿を消してしまった。

 こくりを止める事が出来ず、みっちゃんは肩を落として後を追い、「多分砂まみれで食べられないと思うんだけどなあ」と呟いた。


 実際に、みっちゃんの予想は当たっているだろう。

 活き活きしたお餅は自由に動き回り、地面を移動するのだ。

 今頃は食べられない程に汚れているに違いなかった。

 悲しいけど、現実は残酷なのだ……と言いたい所だが、こくりは予想を遥か越えた先にいた。


 みっちゃんがこくりを追いかけて社を出ると、目に映ったのは、燐火りんかの炎でモッフルな狐尻尾をお尻に生やしたこくりの姿。

 そして、こくりの目の前には、燐火の炎に包まれた二つのお餅。

 みっちゃんは冷や汗を流しながらこくりに近づいて隣に立つと、燃えるお餅の良い匂いを鼻で感じとる。


「こくりちゃん、これって……燐火の火って、妖にしか効かないんだよね?」


 恐る恐る尋ねると、こくりはみっちゃんに顔を向けて「はい」と頷き、再び燃ゆるお餅に視線を戻す。


「活きの良い変態のおもちです」


「え? これ妖に憑りつかれたお餅だったの? なんか嫌」


「表面に焦げ目がついてきたから、そろそろ食べれます」


「本当に食べるの? お腹壊しちゃうよ?」


「なぜですか?」


「何故って……」


 何故と問われて視線をお餅に向け、みっちゃんは口元を引きつらせる。

 丁度お餅が膨らんできて丁度良い食べごろではあるが、どう見ても砂だらけで、最早3秒ルールすら通用しない状態だ。


「砂だらけでばっちいよ」


「砂ですか? はらえば大丈夫です。いつも山で採った山菜も掃って食べてました」


「そんな事してたの!?」


「はい」


 流石野生児こくりである。

 こくりが言った事は、嘘では無い。

 こくりを育てたのはお狐さまや、野生の獣達なのだ。

 人の手で育てられたわけでは無い為、こくりはこう言う事になれていた。

 おかげで訓練された歴戦の勇者の如く、こくりの胃はウルトラ最強なのだ。


 そんなわけで、こくりはみっちゃんが驚く目の前で、焼けたお餅にくっついていた砂をパッパッと掃う。

 そして、どこから取り出したのか醤油と砂糖を混ぜたあまだれにお餅をつけて、にょーんと伸ばして美味しそうにお餅を食べた。

 もちろんこくりはみっちゃんにもお餅をあげようとしたけど、みっちゃんは流石にそれは断る。


 それから暫らくして、実果がお餅を持って来てくれて、みっちゃんも無事に綺麗なお餅を食べれたのでした。

 めでたしめでたし。

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