4時間目 年末挑戦ガール(2)
長い長~い階段を上って、漸く神社へと辿り着く。
するとそこは、長く手入れされていなかったせいで、随分と寂れてしまっていた。
真っ赤だった筈の鳥居は色褪せていて、そこ等中に枯れ葉が散らばっている。
元々なのか、そうでないのか、社の見た目もボロボロ。
屋根の瓦が一部取れてしまっているし、何だかパッと見がオンボロ神社。
階段を上って直ぐにある狐の像も、微妙に汚れてしまっている。
「みっちゃん、いらっしゃいませ。ここがこくりのお家です」
「う、うん……」
みっちゃんは毎年親に初詣で連れて行かれる神社を想像していたので、この寂れっぷりに驚いてしまって、随分と困惑していた。
すると、そんなみっちゃんを見て察したお狐さまが苦笑する。
「すまぬな。こくりが妖女に入園してからは、掃除をまったくしていなかったからこの通りだ。だが、安心せい。随分と荒れてはおるが、建物の中は儂が定期的に来て綺麗にしておる」
「そっかあ……」
「パパが言う通り汚いです。荷物を置いたら、まずはお掃除です」
「わたしも手伝うよ」
と、言うわけで、まずはお掃除だ。
荷物は社にあった階段に置き、二人は箒で掃き掃除。
その間に、お狐さまが社の中を掃除して、二人の荷物を移動した。
そうしてお掃除する事一時間。
境内の中はすっかりと綺麗になり、漸くゆっくりと出来る時間がとれた。
「ありがとうございます」
「うん。……っあ。そうだ。わたしクッキーを持って来たの。一緒に食べよう?」
「はい。食べます」
こくりは相変わらずの眠気眼な無表情で両手を上げてバンザイをして、その後直ぐにみっちゃんと手を繋いで社の中に入る。
社の中はお狐さまが定期的にも掃除をしていたので、それなりに綺麗だった。
しかし、やはりと言うべきかかなり古い建物のようで、所々に穴やらシミやらがありボロボロ。
水漏れしている場所にはバケツではなく桶が置いてあり、水が少し溜まっていた。
そんな社の中を歩いて直ぐ、十畳ほどの部屋に辿り着き、そこには二人の荷物が置いてあった。
「おお、二人とも掃除は終わったか。ご苦労であった。みつこもよう来てくれたな。適当に座ってくれ」
「うん。おじゃまします」
みっちゃんが「おじゃまします」して部屋に入ると、その直後にお狐さまが真剣な面持ちになる。
そして、ただ事では無い雰囲気を醸し出し、その視線をこくりへと向けた。
「ところでこくりよ。掃除で疲れておるところ悪いが、いつものを頼む」
いつもの? と、みっちゃんは視線を向けて、お狐さまのその真剣な面持ちを見て緊張する。
その表情は今までで見た事のないもので、神々しくもあり、畏怖すら感じる威厳がみえる。
「わかりました」
対するこくりは相変わらずの眠気眼な無表情で、しかし、瞳は何やら真剣。
声にもメリハリがなく極めていつも通りだが、何故か真面目に聞こえる。
そして、その手にはとある物が握られていた。
みっちゃんはごくりと唾を飲み込み、そして――
「ここですか?」
「そうじゃそうじゃ。ああ~気持ちがええのう」
――こくりがお狐さまをブラッシングし始めた。
「ただのブラッシング!?」
みっちゃんが驚いて声を上げると、こくりとお狐さまがクエスチョンマークを頭に浮かべて顔を向ける。
「みつこよ、突然大声を上げてどうしたのだ?」
「クッキーはこれが終わったら食べます」
「え? あ、うん。そうだね。じゃなくて……なんでもない」
「ふむ?」
お狐さまは首を傾げて、直ぐにこくりのテクニックで快楽の海へと沈んでいく。
こくりのブラッシング捌きは素晴らしく、お狐さまもなされるがままなのだ。
すると、みっちゃんも自分の家で狸のてんぷらにしているので、それを思い出したのだろう。
二人を黙って見つめていると、うずうずしてきてしまった。
「ねえ。わたしもそれやりたい」
「いいですよ」
「やったー!」
みっちゃんは喜んでブラッシングをして、そして、その後クッキーをこくりと一緒に食べる。
だけど、みっちゃんはクッキーを食べながら、妙な違和感を感じた。
(このクッキー味がしないような……気のせいかな?)
そう思って首を傾げたみっちゃんの耳に、その時、不意に「起きて下さい」とこくりの声が聞こえてきた。
しかもその声は、目の前にいるこくりではなく、頭の中に直接響くような不思議な現象。
みっちゃんは周囲を見回して、次の瞬間、目の前が真っ白になった。




