2時間目 お受験の季節です(2)
食事後の勉強も終わり、空も暗くなってきた夕暮れ時。
こくりとみっちゃんは手を繋いで、二人仲良く下校していた。
すると、そこにお狐さまがやって来た。
「狐栗よ、ここにおったのか」
「あ……」
お狐さまが来ると、みっちゃんが食事中のお話を思い出して気まずそうにする。
すると、みっちゃんの顔を見て、お狐さまが訝しんだ。
二人の反応を見て、こくりはいつも通りのメリハリのない声色で話す。
「パパがみっちゃんを変態と思ってるお話をしました」
「変た……変異体の話か。狐栗や、また美都子にそう言う話をしたのだな。少しは隠さんか」
「隠してと頼まれてないです」
「またそんなヘリクツを。儂は悲しいぞ」
「こくりちゃんは悪くないよ。それに、わたしだって悲しい。お狐さまに妖だと思われてたなんて」
「む、むう。しかしだな、美都子。学園の七不思議の最後の一つだけ、いくら調べても分からんのだ。実果も分からんと言っておるし、そうなると――」
「ふんっだ。わたしはこくりちゃんが信じてくれるなら、お狐さまなんてどうでもいいもん」
「むむう」
「そんな事よりこくりはお腹が空きました」
相変わらずの眠気眼な無表情でメリハリのない声色。
しかし、その言葉にはこくりの本音が100パーセント詰まっている。
こくりの「そんな事」呼ばわりなその言葉に、みっちゃんは何だか馬鹿らしくなり、疑われた事を気にするのをやめた。
そして、お狐さまも疑った事を反省して、素直に「すまぬ」とみっちゃんに謝った。
そんなこんなでこの一件は無事解決したわけだが、ここに新たな問題が迫っていた。
「こくりはすき焼きが食べたいです」
「すき焼きとな?」
「あー。こくりちゃんね、今日のお昼に食べたハンバーガーのお肉を調べて、すき焼きを知ったんだよ」
「ふむ。その食べ物はどう言うものなのだ? 寮の食堂には無いもののようだが」
「牛さんを鍋で煮る料理です」
「その例えなんか嫌」
「なるほどのお。実果にでも聞いて来るか」
「聞いて来るって、理事長先生の所に今から行くの?」
「うむ。可愛い娘の為に、そのすき焼きなるものを作るのだ」
「パパ頑張って下さい」
「では、行ってくる」
お狐さまはそう告げると、ふよふよとモフモフ尻尾を揺らめかせ、理事長室に向かって飛んで行った。
こくりとみっちゃんはそのまま歩いて、芍薬寮と学園の門へと続く別れ道で立ち止まる。
「こくりちゃん、お正月はどうするの? お狐さまと一緒に稲荷神社に帰るの?」
「はい。31日にパパと帰って、お掃除します」
「そっかあ。うーん……」
みっちゃんは少し顔を曇らせて、しょんぼり顔。
こくりは首を傾げて、しょんぼりなみっちゃんを見つめて、背伸びして頭を撫でていいこいいこする。
「どうしたんですか?」
「一緒に初詣に行きたかったの」
「おおー。行きます」
「え? でも、こくりちゃんは帰っちゃうんだよね?」
「みっちゃんも一緒に来ればいいです」
「え……?」
「こくりのお家にみっちゃんをご招待します」
「ええええええええええ!?」
大声を上げてみっちゃんは驚き、こくりは相変わらずの眠気眼な無表情で万歳する。
そんなこくりのその瞳は、どこか楽しそうな輝きを見せていて、カチューシャの狐耳も嬉しそうに揺れていた。
「ど、どうしよう? 新しいお洋服をお母さんに買ってもらわなきゃ」
みっちゃんは早くも乗り気になり、頬を両手で押さえてワクワクが隠せない。
しょんぼり顔は最早デレデレでだらしなく、もうこくりのお家に行く事で頭の中はいっぱいだった。
かくして、こくりのご招待を受けたみっちゃんは、ワックワクのこくりちゃんハウス訪問ツアーに参加する事になった。
この後みっちゃんが両親を説得する為に、31日直前まで長~い時間をかけてしまったが、それはまた別のお話。




