1時間目 お受験の季節です(1)
この世に蔓延る怪奇な現象。
人々の心から忘れ去られていく“おばけ”や“幽霊”や“妖怪”の類。
それ等が詰まったこの世の不思議は、
時が経つにつれ薄まっていく。
だが、そんな不思議が今でも集まる場所がある。
それが、世界に名だたる名門女子校【私立妖花威徳女学園】。
幼稚舎から大学までエスカレート式に通える少女達の学び舎。
“妖花”や“威徳”などと言う可笑しく奇怪な名の学園ではあるが、
設立当時はこの名前が【徳女】と略されて話題となり、
徳を積む事の出来る学園として、名家のお嬢様方からの注目を集め、
今では名門と呼ばれる学園となった。
しかし、時が経ち、今では若者たちから【妖女】と呼ばれ、
その名に釣られた一部マニア達からも一目置かれた乙女の園。
この物語は、そんな可笑しな名の学園に通う幼女『狐栗』の、
奇妙で不思議な妖が満載な物語である。
◇
妖女学園には、飛び級制度と言うものがある。
それは、毎年2月に行われる飛び級試験を受けて、合格すると学力に見合った学年へと進級すると言うもの。
詳しく説明すると色々とややこしいので割愛するが、実はこの物語の主人公であるこくりも、これを受けようとしていた。
そうして迎えた冬休み。
寒さも強まる年末を迎えたとある日。
こくりはいつもの様に初等部の図書室で勉強をしていて、お昼になったので食堂でご飯を食べていた。
そしてその側には、もちろんみっちゃんの姿もある。
「え? それじゃあ、お狐さまがずっといなかったのって、“ハナだらけの生物室”を調べていたからだったの?」
「はい。このハンバーガーうまうまです。ピザと同じくらい美味しいです」
「あ、うん。良かったね」
こくりの今日のお昼ご飯はハンバーガーとポテトとコーラ。
因みに、みっちゃんはスパゲティのボロネーゼを食べている。
さて、それはそれとして、お狐さまが調べているらしい学園の七不思議の一つ“ハナだらけの生物室”。
深夜の生物室でたくさんの花が咲くと噂される怪異で、ここ最近は頻繁に被害情報が出ているものだ。
比較的可愛らしいと言うか平和と言うか、お嬢様達の通う学園にピッタリなような、そんな不思議。
しかし、そんな平和的なものでは無い。
ハナだらけの生物室を見た者は、全員がその記憶を無くす程の何かを受け、翌日に生物室の中で見つかると言う。
ただ、噂だけが一人歩きしていて、実際には悪い夢を見た人がそれを話して生まれた噂だとも言われている。
「でも、なんか残念だなあ。お狐さまが最近いなかったのって、クリスマスのプレゼントを用意していたからだと思ってたよ~」
「パパはクリスマス教ではないです」
「クリスマス教って何……?」
こくりの言葉で生まれた謎の宗教。
みっちゃんは冷や汗を流し、苦笑する。
そして、こくりがポテトを「あーん」してきたので、パクリと食べてもぐもぐごっくんする。
「ありがとう。あっ。そう言えば、ハナだらけの生物室で思い出したけど、学園の七不思議って残り二つだけだよね? それとも実はそれで最後なの?」
「あと二つです」
「やっぱりそうなんだね」
「パパはみっちゃんと関わってから変態が出始めたので、みっちゃんが最後の一つかもって言ってました」
「へえ。そうなんだ~」
なるほどなあ。と、みっちゃんはスパゲティをフォークに絡ませパクリして、美味しそうに食べる。
そして、次に水を口に含んで――
「ブフウウウウウウウウッッッ!」
――水を勢いよく吐き出した。
「わたし疑われてたの!?」
「みっちゃんお行儀悪いです。毒霧はリングの上だけで使って下さい」
「あ、うん。ごめん……どくぎり? りんぐ? 何それ……?」
「パフォーマンスアタックです」
(余計わからない)
などと思うみっちゃんだが、ここで説明しよう。
毒霧とは、昔プロレスで使われた技の一つ。
口に含んだ液体を試合相手に向かって吹き出す技である。
何故そんなものをこくりが知っているのかは謎だが、そんな事はどうでもいい。
みっちゃんは妖だと思われていた事がショックで、凄く落ち込んだ。
「こくりちゃんも……疑ってるの?」
「コーラは刺激的な味です」
「聞いてない!? こくりちゃん、ねえ? 聞いて? こくりちゃんもわたしを疑ってるの?」
「なんで疑うんですか?」
「え?」
「みっちゃんはこくりのお友達です。だからどっちでもいいです」
「こくりちゃん! 好きいいいい!」
みっちゃんがこくりを抱きしめて、こくりはハンバーガーをもぐもぐしながら抱きしめられる。
すると、二人の会話の内容を知らない周囲のお姉さまたちから、クスクスと微笑ましく笑う声が聞こえてきた。
こうして、こくりとみっちゃんの仲はより深まり、お狐さまへの信頼度が減少したこのお話。
その真相は、お狐さまの考えすぎと言う結果。
そもそもとして、誰も気づいていないわけだが、みっちゃんはお狐さまのお守りを持っている。
みっちゃんがもし妖であれば、お守りなんて持てなかっただろう。
と言うわけで、本当にたまたま偶然にみっちゃんは巻き込まれただけの話だった。




