9時間目 クリスマス注意報(9)
妖女学園初等部冬の全裸祭り事件が終わり数日が経ったクリスマスイブ。
幼稚舎にお待ちかねのサンタさんがついにやって来た。
「メリークリスマ~ス! みんな~。いい子にしていたかな~?」
「「は~~~い!」」
幼稚舎の幼女たちが一生懸命準備したパーティ用のお部屋の様々な飾りつけ。
サンタさんの絵も壁に貼られていて、クリスマスツリーも可愛く仕上がっている。
そうして準備万端にして出迎えたサンタさんは、日本語を話していて、しかも女性だった。
「日本語のお姉さんです」
こくりはサンタさんが日本語を話し、女性だった事に驚いた。
何故なら、サンタさんが日本語が話せるのも知らなかったし、絵本に出てくるサンタさんがみんなおじいさんだったからだ。
サンタさんの登場で盛り上がる幼女達と、眠気眼な無表情で驚くこくり。
そんな中プレゼントを貰う時間が早速やって来る。
「こくりちゃん、プレゼントだよ。どうぞ」
「ありがとうございます」
こくりは自分がプレゼントを受け取る番が回ってくると、サンタさんにお礼を言って受け取る。
そして、眠気眼な無表情の瞳をシイタケにして、十字をキラキラと輝かせた。
プレゼントはこくりと同じくらいの大きさの可愛い袋に入っていて、こくりはそれをキラキラシイタケな瞳で抱きかかえた。
こくりの想像と違ったサンタさんではあったが、こうして出会えてプレゼントも貰えて、嬉しいものは嬉しいのだ。
プレゼントは綺麗に包装されていて、どんな物かは開けてからのお楽しみ。
幼女たちはみんな各々園児バッグにしまったり、それ用に持って来た大きめのバッグにしまったりする。
中には先生の目を盗んで早くも開けてしまう子もいたけど、もちろん直ぐにバレていた。
サンタさんと一緒にすごす楽しいクリスマスパーティーは、あっという間に時間が過ぎていき、お開きの時間がやってきた。
幼女たちはサンタさんとのお別れを惜しんで、泣いちゃう子まで出てしまったけど、それでもみんなに良い思い出が出来たのは言うまでもない。
こくりもサンタさんと過ごした時間を胸にして、新しい新技を完成させた。
「必殺トナカイです」
「きゃははははー!」
「こくりちゃんお鼻でかーい!」
「まっかっかー!」
こくりが覚えた新たな新技。
それは、クリスマスパーティーで飾っていたオーナメントの赤いボールを、鼻にくっつけると言うもの。
飾りを引っこ抜いて己の鼻に接着剤でくっつけると言う荒業である。
こくりの見事な一発芸的な必殺技を見て、周囲にいた幼女たちが笑いだし、宗内先生が見つけてやって来る。
「こ、こくりちゃん? 何してるの?」
「トナカイさんがいなかったので、こくりがなりました」
「そ、そうなんだねえ。そんな事してないで、ほら。こくりちゃんもサンタさんにお別れの挨拶を……って、あれ? こくりちゃん?」
いつの間にか消えたこくり。
宗内先生は周囲を見回して、近くにいた幼女が「あっちー」と指をさす。
そうして向けた視線の先にはこくりがいて、みんなとお別れの挨拶をしているサンタさんに肩車してもらっていた。
「こくりはトナカイとして、サンタさんと一緒にサンタクロース村に帰るです」
「ハハハハ~。困ったなあ」
困りながらも笑顔の絶やさないサンタさんと、瞳のシイタケを輝かす赤鼻のこくり。
そして、それを見て笑ったり羨んだりと様々な反応を見せる幼女たち。
宗内先生や他の先生たちは顔を真っ青にさせて慌て出し、こくりをサンタさんから引き剥がす為に一致団結。
目の前からこくりの注意を引く先生と、背後に忍び寄る先生。
しかし、こくりには通用しない。
こくりは妖の変態と戦う幼女。
相手が大人と言えど、たかが人間が敵うはずのない幼女なのだ。
こくりの華麗な避け技術で、先生が伸ばした手は全て避けられてしまう。
そしてそれを見て、幼女たちがキャイキャイと楽しそうに笑いだす。
しかし、そんな中で、ここに真打ち宗内先生が正面から現れる。
「こくりちゃんがトナカイさんなら、サンタさんのプレゼントはいらないよね」
「――っ。いります。こくりはトナカイを止めます」
「そっかあ。でも、残念だなあ。悪い子はサンタさんのプレゼントが貰えないから、サンタさんに迷惑かけた悪い子のこくりちゃんのプレゼントを、没収しないといけないかもしれないなあ」
「――っ。サンタさんごめんなさい。没収は嫌です」
流石は問題児こくりを今まで見てきただけあると言うべきか、宗内先生の言葉にこくりは慌ててサンタさんから離れて、しょんぼりな瞳で頭を下げて謝った。
すると、サンタさんは屈んでこくりの頭を撫でて、優しい笑みを浮かべた。
「ちゃんと謝れて偉いねえ。プレゼントは没収しないから、大丈夫だよ」
「ほんとですか?」
「サンタさんは嘘つかないよ」
「ありがとうございます」
こくりのいつも通りのメリハリのない声色は、何処か少し嬉しそう。
こうしてこくりの暴走は無事に解決し、お鼻に接着剤でくっつけた赤い鼻を付けたまま、楽しいクリスマスパーティーが終わりを迎えた。
芍薬寮に戻ったこくりがプレゼントを袋から取り出すと、それはこくりと同じくらいの大きさもあるキツネの大きなぬいぐるみだった。
こくりは大いに喜び、一緒にベッドで眠るのだった。




