7時間目 クリスマス注意報(7)
初等部の図書室に辿り着くと、通行禁止になっていた。
こくりが通行禁止の張り紙を見ていると、中から話声が聞こえたので、こっそり中の様子を見る。
図書室にいつも放課後いる先生と、理事長の花藤実果が何かを話し合っていた。
尚、今の時間は初等部の生徒は授業中なので、図書委員はこの場にはいない。
こくりは実果の姿を見つけると、トントンと扉をノックする。
すると、音に気づいた実果が振り向いて、こくりを見つけて微笑んだ。
「あら? こくりちゃ……こほん。狐火さん、どうしましたか?」
「勉強しにきました」
「ふふふ。偉いですねえ」
こくりが答えると実果が微笑み、それを見ていた先生が、こくりに視線を移してジッと見て目がかち合う。
こくりと目を合わすと、先生は何やらハッとなり、両手を叩いてポンッと音を鳴らす。
そして、先生は「黄金院さんの様子を見て来ます」と告げて、図書室を出て行った。
「あら。丁度良かったですね。では、狐火さん。お勉強の前に、調べ物をお願いしていいかしら?」
「はい。なんでもこいです」
相変わらずの眠気眼な無表情でこくりが答えると、実果は柔らかく微笑んだ。
実果はカナブンちゃんが目を覚まさないのは、この図書室に理由があるのではと話す。
すると、こくりは周囲をキョロキョロと見回して、何か怪しいものが無いかを探し出した。
そして、探している途中でお狐さまがやって来て、一緒に妖の気配を探し出した。のだけど、その直ぐの事だ。
「ありました」
こくりが声を上げて、お狐さまと実果が集まる。
そして、こくりがあったと言ったそれを見て、一匹と一人は時が止まったかのように体を硬直させた。
何故ならば――
「お姉さんが裸です」
――初等部の図書室に似つかわしくない本だったからだ!
こくりはページを捲り、首を傾げると、実果がそれを取り上げた。
「こくりちゃんにはまだ早いので没収です」
「待て、実果よ。それが今回の元凶のようだ」
「……あら~。どうしましょう?」
お狐さまが冷や汗を流し、実果も困惑して取り上げた本に視線を向ける。
そして、こくりは相変わらずの眠気眼な無表情で首を傾げた。
「でも、まさか本が妖だなんて」
「うむ。それは恐らく学園の七不思議の一つ“ゆうわくの絵本”じゃな。絵本には見えぬが……」
「そうですねえ。とても絵本には見えませんよねえ」
お狐さまと実果が困惑するが、それも無理ない話。
こくりが見つけた妖は、間違いなく今回の犯人。
学園の七不思議の一つ“ゆうわくの絵本”である。
しかし、こくりが開いて見ていたのは、女性の裸のイラストが描かれたもの。
と言っても、未成年NGなんてものでは無く、せいぜい雑誌のグラビアアイドルの写真程度のものだった。
ただ、少なくとも初等部の図書室に置くような本でも絵本でも無い。
アウトよりに近いアウトだった。
この本から感じる確かな妖の気配を考えると、ただ単純に処分と言うわけにもいかないだろう。
しかし、それは“燐火”を操るこくりがいなければの話。
「焼却します」
こくりが“燐火”の炎を出して、実果の持つ“ゆうわくの絵本”に向ける。
すると、意外にもあっさりと本は燃えて灰になった。
「あら? これだけ……ですか?」
「……どうやらそのようだな」
あまりにも早い解決に、お狐さまと実果が驚き顔を見合わせる。
しかし、そんな時だ。
「きゃああああああああ!」
「いやああああああああ!」
「こっちこないでえええ!」
図書室の外が突然騒がしくなり、あちこちから少女たちの悲鳴が聞こえてきた。
しかもそれは二人や三人だけでなく、どんどんとその数を増やしていっている。
お狐さまと実果はただ事ではないと、急いで図書室の外に出た。
こくりも園児バッグを机に置いて燐火の炎を消してから、トテテと走って外に出る。
「みんな裸です」
図書室から出ると見えたのは、悲鳴を上げて全裸になる少女たち。
少女たちは逃げ惑い、次々と全裸になっていく。
それはまるで、こくりが燃やした“ゆうわくの絵本”に描かれた真っ裸のお姉さんたちの様に。
ここは、今まさに全裸な少女たちの楽園になっていた!
「お狐さま! 見ては駄目です!」
「分かっておる! 儂は紳士な神様だ!」
この学園で唯一オスなお狐さまは目をつぶり、実果はお狐さまが少女のあられもない姿を見ないように、念の為に前へ出て壁になる。
こくりは次々と全裸になっていく少女たちを見て、そして、その中心にいる人物を発見した。
「カナブンちゃんです」
こくりが発見した中心にいた人物。
それは、全く目を覚まさなかったと言われていた、カナブンちゃんこと黄金院明媚の全裸姿だった。




