5時間目 クリスマス注意報(5)
「あ~。やっぱりダイヤさんに会ったんだね~?」
「はい。お友達になりました」
「そっかあ…………えええええええ!?」
座っていた椅子をガタンッと勢いよく倒して、大声を上げて驚くみっちゃん。
すると、こくりは人差し指を立てて口の前に持っていき、静かに「しーです」とみっちゃんに注意する。
ここは放課後の図書室。
こくりは勉強をしていた。
もちろんみっちゃんが向かい合わせに椅子に座って、一緒に勉強中だった。
みっちゃんもカナブンちゃんの取り巻きAとBに絡まれていたが、あらゆる怪異である妖との激闘? を潜り抜けてきたのだ。
たかが同級生のモブキャラ程度で、みっちゃんは負けはしない。
華麗に無視して図書室に辿り着いていた。
因みに、そんなみっちゃんの最近の悩みは、ちょいちょい霊だとかなんだとかを見かける事。
お狐さまのお守り効果で、今では完全に見えてしまっていて、そっちのほうがよっぽど怖かった。
さて、それはどうでも良いとして、みっちゃんはこくりに注意されると「ごめん」と謝って静かになる。
そして、倒した椅子を静かに元に戻して座ると、体を前のめりにしてこくりに近づく。
「ま、まさか、キスしたの……?」
小声で質問してはいるが、その顔は真剣で鬼気迫るもの。
みっちゃんは大マジだった。
思い出すのは夏の初めの出会いの時。
友達だからとキスされた恥ずかしい思い出だ。
しかし、そんなみっちゃんに、こくりは相変わらずの眠気眼な無表情を向ける。
「みっちゃんがしないって言ったからしてないです。やっぱりするんですか?」
「し、しないよ。それで正解だから、しなくて良いの」
みっちゃんは答えると、ホッと一安心した表情を見せて、こくりから離れた。
すると、そんなみっちゃんにこくりは首を傾げて、でも直ぐに勉強を再開する。
だけど、みっちゃんは今日はいつもと違って勉強に集中出来ず、こくりをチラチラ見ながらソワソワする。
こくりはそれに気がついて再び首を傾げて、みっちゃんに視線を向けた。
「どうしたんですか?」
「ふぇ? え、えーと……」
みっちゃんはよほど気になっているのか、意を決したように真剣な面持ちでこくりと目をかち合わせた。
「なんでダイヤさんとお友達になったの?」
「サンタさんです」
「サンタさん……?」
「はい。カナブンちゃんはサンタさんに詳しかったので、お友達になりました。明日はサンタさんの事を教えてもらいます」
「へえ。それでなんだあ。良かったね」
「良かったです。みっちゃんも一緒に教えてもらいますか?」
「え? わたし? わたしは……多分無理だと思うよ。ダイヤさんはわたしの事が嫌いみたいだし」
「お友達なのに嫌いですか?」
「わたしとダイヤさんはお友達じゃないよ」
「じゃあ、明日からお友達です」
「明日からお友達だなんて、絶対無理だよお」
「大丈夫です。こくりがキューピッドになります」
「こくりちゃん、それだと恋が芽生えちゃうよ?」
「それも止む無しです。ラヴラヴです」
「やむなくないよ! ラブラブしないよ!」
ガタンッと再び椅子が倒れて、周囲の目がみっちゃんに向けられる。
今度は「ごめんなさい」と周りに聞こえる声で謝って、みっちゃんは真っ赤な顔で椅子を戻して座った。
こくりは「がんばります」と呟いて、相変わらずの眠気眼な無表情ではりきり出していた。
下校時刻を迎えて、こくりやみっちゃんだけでなく、全校生徒がいなくなった真っ暗な暗闇の中。
図書室に忍び込んだ一人の影。
「おかしいですわねえ。探してないのはここだけの筈ですのに……」
そう言って、図書室の机の下を覗いて何かを探しているのは、カナブンちゃんだった。
「お父様に頂いた大切なヘアピンですのに、どこにいってしまったのかしら……?」
カナブンちゃんが探していたのは、前髪に付けていたダイヤ付ヘアピンだった。
こくりを疑っていたけど、犯人じゃないと知り、こんな時間に探しに来たのだ。
と言うのも、これには理由がある。
カナブンちゃんはこくりと同じように、学生寮の一つである百合寮で今は暮らしている。
だから、帰ると言っても妖女学園の敷地内。
しかし、あくまでそれは帰る場所。
お家柄の都合上、習い事は毎日びっしりと入っていて、こんな時間に漸く解放されたのだ。
それなら明日探せばと思うかもしれないが、カナブンちゃんにとってヘアピンは本当に大切なもので、直ぐにでも見つけたかったのだ。
それに、あいにく明日は明日で朝から忙しく、しかもこくりと約束までしてしまった。
その約束をまもる為に、カナブンちゃんは放課後に時間を作ろうと早朝に予定を変更して入れたりなどして、それもあって探す時間が今しかなかった。
本当に何だかんだと良い子だったカナブンちゃんは、そんな理由もあって、こんな時間に初等部に侵入してヘアピン探しをしているのである。
「本当にどうしましょう……。凄く大切な――」
目を潤ませて呟いたその時、近くの本棚で何かが光った。
カナブンちゃんはそれに気がついて、もしかしてと直ぐに調べる。
しかし、光っていたのはヘアピンでは無く“本”だった。
「本が光ってるなんて不思議ですわね。どう言う仕組みの本なのかしら?」
やはりカナブンちゃんも7才児な子供。
恐怖よりは好奇心が表に出て、その光る不思議な本を手に取って開いた。
そして――――




