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妖女学園のこくりちゃん  作者: こんぐま
第6話 静寂のドリーム
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4時間目 クリスマス注意報(4)

 放課後。

 こくりは再び絡まれていた。


「見つけましたわよ、狐火きつねび狐栗(こくり)さん! 今度こそ逃がしませんわ!」


 ビシッと指をさす黄金院こがねいん明媚(ダイヤ)こと“カナブンちゃん”と、相変わらずの眠気眼な無表情のこくり。

 お狐さまは今日も内緒の相談で理事長室に行っていて、今回は取り巻きAとBの姿も無かった。

 そしてそれは、こくりにも直ぐ分かった。


「モブのお姉さんがいません」


「も、もぶ? なんの話ですの?」


「後ろにいた二人です」


「……あの二人なら、今頃は美都子みつこさんを足止めしてますわ」


「みっちゃんを足止めですか?」


「そうですわ! また邪魔されたらたまりませんもの」


 カナブンちゃんはそう言うと、こくりにさしていた指をようやく降ろす。


「さあ! 昨日の事を謝ってもらいますわよ! そしてヘアピンを返しなさい!」


「ごめんなさい。それと、こくりは本当にヘアピンの事は知らないです」


「――っへ?」


「こくりは図書室でお勉強するので行きます」


 謝罪をさっさと済ませたこくりはそう話すと、トテトテと歩き出す。

 すると、カナブンちゃんは目を丸くして驚いて、直ぐに歩き去って行くこくりに振り向く。


「ま、待ちなさい! まだ話は終わってないですわ!」


 呼び止められると、こくりは足を止めて振り向き、そして首を傾げた。


「なんのお話ですか?」


「そ、そんなの決まってますわ! もちろんヘアピ…………」


 カナブンちゃんは言葉に詰まる。

 当初の目的は、調子に乗っている年下こくりに、年上の威厳いげんを見せて謝罪させると言うもの。

 そして、盗まれたヘアピンを取り返す事。

 しかし、こくりは即落ち二コマの如く直ぐに謝ってしまい、ヘアピンも持ってないと言う。


 何より、こくりがヘアピンを持ってないと言うのが嘘じゃない事は、カナブンちゃんでも分かってしまった。

 何故なら、こくりは相変わらずの眠気眼な無表情だが、瞳だけは喜怒哀楽に長けている。

 カナブンちゃんはとても頭の良い子だから、それが分かってしまい、その瞳を見て悟ってしまったのだ。

 そして、カナブンちゃんの計画は始まる前から終わってしまった。


 即行で謝られてしまい、更にはヘアピン免罪のこくり。

 これでは分が悪いのはカナブンちゃん自信。

 だから、言葉に詰まったカナブンちゃんは、こくりを睨む事しか出来なかった。

 何だかんだ言っても、こくりの言葉を素直に受け止めて黙っちゃうあたり、カナブンちゃんは素直でいい子だった。


 こくりは相変わらずの眠気眼な無表情で、再び首を傾げる。


「こくりは今からサンタさんの言葉を調べるので忙しいです。また明日でいいですか?」


「サンタさんの言葉……ですの?」


「はい。サンタさんの言葉です」


 今度はカナブンちゃんが首を傾げて、こくりは頷いた。

 と言うわけで、実はサンタさんの言葉をまだ調べているこくり。


 昨日はあんな事があったから、結局分からなかったのだ。

 だから、宗内むねない先生にお願いして、サンタさんへのお手紙の期限を延ばしてもらっていた。


「へえ。あなた、フィンランド語を勉強していますの?」


「フィンランドですか?」


「あら? サンタさんはフィンランドのラップランドにあるサンタクロース村に住んでいますし、そう思ったのだけど違いますの?」


「おお。カナブンちゃん凄いです。博識はくしきです」


 こくりの相変わらずの眠気眼な無表情から見える瞳はシイタケとなり、十字な光がキラキラと輝く。

 そして、カナブンちゃんにシュタタと一瞬で距離を詰めて、顔を目と鼻の先まで近づける。


「ありがとうございます。カナブンちゃんはいい人です」


「わ、分かれば良いのですわ。それよりそのカナブン? って、わたくしの事を言ってますの?」


「はい。カナブンちゃんです」


わたくし黄金院こがねいんでしてよ! 昆虫の名前で呼ぶにしても、そこはコガネムシでしょう? センスがありませんわ!」


「コガネムシは害虫ですが、カナブンは益虫えきちゅうです」


「え? そうですの? それならカナブンで……って、そう言う意味で言ったわけじゃありませんわ!」


「そんな事よりも、サンタさんの事に詳しいカナブンちゃんに、こくりは色々と教えてもらいたいです」


「そんな事って、あなたねえ……って、さっきから近いですわ!」


 カナブンちゃんがほおを染めて、こくりを両手で押して離す。

 しかし、こくりはめげずにカナブンちゃんの両手を掴んで、シイタケの十字を輝かせながらジッと見つめた。


「カナブンちゃん、サンタさんの事をもっと教えて下さい」


「……し、仕方がありませんわね。但し、明日からですわ! 今日はわたくしは習い事で忙しいんですのよ!」


 カナブンちゃんは頬を染めながらそう言うと、まるで恥ずかしさを隠すように急いでこの場を去って行った。

 こくりはそんなカナブンちゃんの背中を見送ると、ハッとなる。


「フィンランドの言葉を調べないとです」


 こくりは呟くとトテテと走って、初等部の図書室へと向かって行った。

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