3時間目 クリスマス注意報(3)
世界を股に掛ける大企業の代表取締役会長の一人娘である少女“黄金院明媚”は、悪役令嬢である。
金髪は地毛で、母親譲りな自慢の髪色。
自慢の髪の前髪に、父親に誕プレで貰ったダイヤのヘアピンを付けている。
顔がそこそこ可愛く、可愛いと褒められ慣れている。
性格は嫌みったらしく、まだ7才と幼い年齢でありながら、周りを見下す癖を既に持っている。
みっちゃんとは同級生で、成績は学年トップ。
しかし、その学年トップの地位が、最近になって脅かされていた。
原因は、みっちゃんだ。
みっちゃんは毎日のように、こくりとお勉強をしている。
その成果もあって、実は今では学年2位。
元々底辺では無いにしろ、中間より下くらいの成績だったみっちゃんは、努力でそこまで上りつめたのだ。
みっちゃんに少女は焦りを見せ、図書室での事件が起きた。
そしてそんな事件から、時間は流れて一夜が明けた。
「見つけましたわよ! 狐火狐栗さん!」
今日も元気に幼稚舎へと向かっている途中で、こくりはパツ金ダイヤに遭遇した。
パツ金ダイヤは今日も朝から取り巻きを連れていて、こくりを見つけて早々大声を上げて指をさす。
そして、こくりはパツ金ダイヤと目をかち合わせると、足を止めて首を傾げた。
「誰ですか?」
「黄金院明媚ですわ! 昨日はよくも私に恥をかかせてくれましたわね!」
「ダイヤ様に謝りなさいよ!」
「そうよそうよ! 昨日の事を謝りなさいよ!」
パツ金ダイヤに続いて取り巻きAとBが声を上げ、こくりは昨日の事を思いだす。
そう。
昨日は目つぶしして泣かせた後に、失明しちゃうかもしれないから駄目だと、先生に怒られたのだ。
そして謝った。
それにも関わらず、まだ気に入らないらしい。
再びこうして現れて、謝罪を要求してくる。
こくりは昨日の事を思い出すと、相変わらずの眠気眼な無表情の瞳を曇らせた。
「昨日のピーマンは苦かったです」
流石はこくり。
全然違う昨日の事を、と言うか、昨日の晩御飯のおかずを思い出していた。
「誰もピーマンの話なんてしていませんわよ!」
「でも、本当に苦かったです」
「でもじゃないですわよ! そんなのどうでもいいですわ!」
「失礼な子ね! ダイヤ様に無礼だわ!」
「そうよそうよ! 身の程をわきまえなさいよ!」
怒るパツ金ダイヤに取り巻きAとB。
しかし、こくりはそれでも相変わらずの眠気眼な無表情。
そして、今更ではあるが、実は側にお狐さまがいた。
お狐さまの姿はパツ金ダイヤと取り巻きのAとBには見えていない。
愛する娘こくりが絡まれて、大変お怒りだった。
と言っても、それはこくりのアイコンタクトで、つまりは目を合わせる事で制止させている。
「ちょっと、どこ見てますの!? どうせあなたが私のヘアピンを盗んだのでしょう!?」
言われて視線を向けると、昨日付けていたダイヤ付ヘアピンがない事にこくりは気づく。
しかし、当然こくりには身に覚えが全く無い。
「ヘアピンですか? 知りません」
「嘘おっしゃい! 昨日あなたに会ってから――」
「こくりちゃーん! ごきげんよう!」
パツ金ダイヤが怒声を上げていた所で、みっちゃんの登場。
みっちゃんは大きな声で現れてそれを遮り、こくりと手を繋いで走り出す。
「みっちゃん、おはようです」
こくりはみっちゃんに手を繋がれたまま走り挨拶を返すと、みっちゃんの登場に驚いていたパツ金ダイヤに視線を向けた。
「今あのお姉さんとお話中です」
「うぇえ? お話中って感じしなかったよ~? どちらかと言うと絡まれてた」
「なにと絡まってたですか?」
「その絡まるじゃないよ」
「美都子の言う通りだぞ、狐栗。美都子よ、よく来てくれた。あのままだったら、儂が手を出していたやもしれぬ」
「ほらあ。ダイヤさんって面倒な人だから、無視出来るなら無視が一番だよ」
「むし……むし……虫。分かったです。あのお姉さんはカナブンに似ているからカナブンちゃんです」
「か、かなぶん?」
みっちゃんが冷や汗を流し、こくりはパツ金ダイヤをカナブンちゃんと命名して納得する。
尚、どこがカナブンに似てるのかは、こくりのみぞ知る。




