2時間目 クリスマス注意報(2)
放課後になり、こくりはトテテと走って初等部の学び舎の図書室に向かっていた。
理由はサンタさんへのお手紙だ。
結局こくりは納得出来るお手紙が書けず、宗内先生に「明日までに仕上げます」と言って宿題にしたのだ。
もちろん宗内先生はそこまでしなくてもと止めたが、こくりの意志は固かった。
こくりは変な所で真面目なのだ。
そんなわけで、図書室でサンタさんの資料を集めるつもりである。
資料と言っても、何語か調べて、言葉を勉強しながらお手紙を書くと言うもの。
とても5才児がする事とは思えないが、こくりは本気だ。
それはそれとして、今日はこくりのパパのお狐さまの姿は無い。
理由は、理事長と内緒の相談がある為。
ただ、何の相談かはこくりには言っていないので謎である。
「サンタさんがいっぱいです」
頭の狐耳カチューシャを揺らし、相変わらずの眠気眼な無表情の瞳をシイタケにさせて、十字をキラリと光らせる。
こくりは図書室に到着すると、サンタさんの絵本をたくさん机の上に並べた。
そして、早速絵本を読み始める。
そこに描かれているのは、どれも夢のようなお話ばかり。
でも、変なところで真面目なこくりは、とんでもない事に気が付いてしまった。
「不法侵入です」
それに気がつくと、ガーンとショックを受けて、狐耳をしょぼんとさせる。
まさか夢の詰まったサンタさんが、不法侵入してまで子供たちにプレゼントをするなんて思わなかったからだ。
こくりは思った。
(この後サンタさんは警察に捕まります)
こくりはサンタさんが子供に夢を与える為に、自らを犠牲にする自己犠牲の強い優しいお爺さんだと悟ったのです。
と、そこで、こくりの側に近寄る少女が一人。
「こくりちゃん、ごきげんよう」
「みっちゃんです」
「うん。みっちゃんだよ~」
こくりに近づいて話しかけたのは、お友達のみっちゃんだった。
ここは図書室で静かにしないといけない場所なので、もちろん小声で挨拶を交わした。
絵本に夢中になっていたら初等部も授業が終わる時間になっていて、みっちゃんがやって来たのだ。
と言うのも、こくりは高確率で初等部の図書室で勉強しているので、みっちゃんはそれを知っているから帰る前に立ち寄っていたと言うもの。
ここにこくりがいれば、まず間違いなく二人は放課後に出会っていた。
みっちゃんは笑顔て返事をすると、いつものように、机を挟んで目の前に座る。
こくりはいつも勉強をしていて、教材を横に広げる派なので、邪魔をしないように自然とそれが普通になっていた。
そして、もちろんみっちゃんも一緒に勉強をする。
みっちゃんも勉強は置いていかれないようにと頑張る子なので、こくりと一緒に頑張っていた。
だからこそ、今日のこくりが絵本を読んでいた事に首を傾げた。
「今日はお勉強じゃないんだね? サンタさんのえほん読んでるの?」
「はい。ラップランドの言葉を探してます」
「らっぷらんど……?」
「サンタさんの国です」
「へえ。そんな所があるんだあ」
なるほど。と、頷きながら、みっちゃんも勉強道具をランドセルから出す。
そして、国語の教科書とノートを出して勉強を開始した。
とまあ、こんな感じで最初に小声で少しだけお話をして、いつも勉強をしている二人。
だけど、今日はいつも通りとはいかなくなってしまう。
「あ~ら。美都子さん、こんな場所で無駄なお勉強?」
静かな図書室に大きく嫌みな声が聞こえて、こくりとみっちゃんが視線を向ける。
するとそこには、みっちゃんと同じ初等部の制服に身を包んだ金髪の少女が立っていた。
そして、パツ金少女は背後に二人の少女を連れて、こくりとみっちゃんが使っている机の前までやって来た。
「今日は偶然お習い事が無かったから、偶然ここに来てみたのだけど、偶然まさか美都子さんを見つけるなんて思いませんでしたわ」
これまた大きく嫌みな声で話すパツ金少女。
本来であれば、図書室では静かにしないと、先生か図書委員のお姉さんに怒られてしまう。
しかし、全くその様子が無い。
と言っても、それもその筈だろう。
パツ金少女の名は黄金院明媚。
明媚と書いて明媚と読むキラキラネームを持つ少女。
歳は誕生日を迎えていて7才で、みっちゃんと同じ初等部の一年生。
みっちゃんとは同じクラスの同級生で、成績は現時点で学年トップ。
パツ金は母親譲りの地毛であり、学生だからと言って黒く染めたりはしていない。
何故なら、ここ妖女学園は校則が緩いので、黒以外の色が認められているからだ。
パツ金の前髪は、宝石のダイヤが装飾されたヘアピンでまとめている。
そして、このパツ金少女、世界を股に掛ける一流大企業の代表取締役会長の一人娘である。
尚、後ろにいる二人は取り巻き少女で、そこそこの企業の娘だ。
そんな大企業の代表取締役会長の一人娘だけあって、この妖女学園内ではかなり有名で、担任の先生すら逆らえない程。
嘘か本当か、態度の悪さに注意しただけで、職を失った先生もいるだとか噂が流れる程。
かなりの危険人物であるパツ金少女のダイヤだからこそ、注意なんて出来る筈も無いのだ。
しかし、みっちゃんはそれを知らなかった。
「ダイヤさん、図書室は静かにしないとだよ」
「はあ? 聞こえないんだけど? もっとハッキリ言ってくれない? ポンポコ山の美都子さん」
みっちゃんは良い子なので、もちろん静かに声のボリュームを抑えて注意したが、パツ金ダイヤは大声で嫌みったらしく言葉を並べる。
傍から見ると、これは完全にイジメ。
見ていて良いものでは無い。
ここは放課後の図書室であって、それなりに人はたくさんいる。
だけど、相手が相手なだけに、周囲の誰もが見て見ないフリをしていた。
しかし、そんな中、そうでない者もいる。
「必殺の目つぶしです」
「きゃあああああああああ!!」
「こくりちゃん!?」
流石はこくり。
お得意のマイペースと、身分とかどうでもいいですメンタルを持つ幼女。
危険なのでマネしてはいけないが、パツ金ダイヤの両目を指でさし、こくりは相変わらずの眠気眼な無表情の瞳に闘志を燃やす。
そして、勇敢な行動にみっちゃんが目を潤ませて驚いた。
「図書室では静かにするです」
「そっちいいいいいい!?」
静寂に包まれていた図書室は静けさを無くし、パツ金ダイヤの悲鳴とみっちゃんの声が響き渡った。




