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妖女学園のこくりちゃん  作者: こんぐま
第5話 トイレで始まるラブロマンス
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6時間目 隣り合わせのフラワーガール(4)

「本当に大丈夫なのかな……?」


「宿直の先生にお願いしたので、問題無いです」


「わたしが心配なのそこじゃないんだけど……」


 学園の七不思議の一つ“開かずのトイレ”の犯人トイレの花子さんとの死闘が終わり、その帰り道。

 いつものように宿直の先生に上手い事伝えて、気絶中の寺雛井じひない先生たちを任せたこくりたちは、お話しながら芍薬しゃくやく寮に戻っていた。


美都子みつこが心配するのも無理はない。だが、安心せい。あの花子と言うあやかしは、自ら灰になった。二度と現れる事はないだろう」


「う、うーん……」


 お狐さまが言う通り、花子はみっちゃんの「嫌いだもん」で灰になり、そのまま帰らぬ妖となってしまった。

 因みに、その灰だが、こくりが責任を持って“燐火りんか”の炎で焼却しました。

 流石はこくり、容赦がない。


「でも、あの妖……はなちゃんって子、ちょっと可哀想だったかも」


「どうしてです?」


「だって、先生たちを捕まえて閉じ込めたのは悪い事だけど、あそこまでする事ないのかなって思って……」


 みっちゃんが少しだけ表情を曇らせて話すと、こくりは首を傾げた。

 すると、お狐さまがフヨフヨとみっちゃんの前に行き、少し真剣な面持ちで「美都子」と話しかける。


「あの花子と言う妖は、古くからこの学園に居すわる悪霊の変異体だ。あの妖に閉じ込められた者は、餓死がしして霊となり、旧校舎の中を彷徨う事になる。最近は新校舎が出来て、被害にあう生徒も少なくなっただけで、奴は退治するべき妖なのは間違いないのだ」


「……そうなんだ。それじゃあ、これで良かったんだね」


 みっちゃんの疑問とお狐さまの説明で、しんみりした空気にはなったが、一先ずは解決だ。

 これで良かったと言ったみっちゃんも納得し、お狐さまも微笑み、こくりは首をまだ傾げている。


「こくりちゃん……? ごめんね。わたしが変な事言いだしたから」


 みっちゃんが慌てて謝罪すると、こくりが足を止めて、相変わらずの眠気眼な無表情をみっちゃんに向ける。


「花子さんまだいますよ?」


「……え?」


「なんだと?」


 まさかの生存報告に、みっちゃんとお狐さまが動きを止めて固まる。

 そして、こくりはいつものメリハリのない声色で言葉を続ける。


「こくりは灰を燃やしましたが、アレは花子さんの分身です。最初に焼却した分身と同じです」


「えええええええ!? うそおおおおお!? それに最初のあの子は分身だったの!?」


「……そう言う事だ、美都子よ。悲しむ事は無い。アレは分身だったのだ」


「お狐さまも言われるまで気づいて無かったじゃんか! って、こんな狐にツッコミしてる場合じゃないよ!」


「こ、こんな狐……」


 みっちゃんの容赦ない辛辣しんらつな言葉が炸裂さくれつし、お狐さまが涙目になる。


「早くはなちゃんを退治しないと!」


「かわいそうです」


「えええええええ!? かわいそう!? で、でも、色んな人が犠牲になったんだよ!? それにもしまた誰かが被害にあったら大変だよ!」


「こくりは過去を振り返らない主義です。それに、もう悪い事出来ません」


「そんなの分からないじゃ――――えええええええええええっっっ!?」


 怒濤どとうのようにみっちゃんの声が鳴り響く。

 そして最後にみっちゃんが驚いたのは、こくりがどこからともなくスッと虫かごを取り出して、そこにデフォルメされた小さなおかっぱ黒マスクの幼女の花子さんが入っていたからだ。

 しかも、花子は「ここから出してー!」と号泣していて、小さくなっているからか分からないが声も可愛らしい。


「ど、どう言う事なの? なんか可愛くなってるけど?」


「こくりは花子さんを飼う事にしました。生き物を飼って、命の大切さを学ぶのです」


 そう言って見せる虫かごには、可愛らしい声で「出せー!」と騒ぐ花子。

 そして、虫かごの中は、よく見ると秋の昆虫でお馴染みのコオロギを育てる為の環境。

 時期的には……と言うか、今は秋なので季節的にはバッチリだが、コオロギでは無く中身が花子さんだ。


「命の大切さって、せめて犬とか猫とかを飼おうよ! それにそれ虫かごだよ!? 何ではなちゃんを入れてるの!?」


「こくりの寮はペット禁止です。でも、妖は禁止されてません」


「ヘリクツ!」


「大事に育てていい子にします」


「やむなしか……」


「やむなくないよ! お狐さまはこくりちゃんのお父さんでしょ? あきらめないで!」


「し、しかし、命の大切さを学ぶと言うこくりのこころざし。立派ではないか」


「立派だけど、問題なのはそこじゃないよ!」


「この子の名前は今日から“虫かごの花子さん”です」


「“トイレの”が“虫かごの”になっただけ! 苗字じゃないんだからって、はあ。わたし、どうなっても知らないよ?」


「はい。妖なので餌いらずなので、安心して下さい」


「心配なのはそこじゃないよ!」


 まだ夏の暑さが残る9月の深夜。

 虫かごで騒ぐ花子と、どこからともなく聞こえるコオロギの鳴き声。

 耳をすませば、どっちも立派に迷惑な騒音のハーモニー。


 こくりとみっちゃん、そしてお狐さまは、そんなクソうるさい深夜の夜道を帰って行った。




 尚、虫かごの花子さんは今までの罪をつぐなわされるかの如く、とてつもなく永遠と終わる事無い恐怖体験をする事になるのだが、それはまた別の話。

 時に、子供の残酷さは犯罪をも超えるのだと言う事を、その身を持って経験するようだ。

 ある意味では、今回一番のホラーな体験をするのは、散々悪さをしてきた妖である花子自身だった。

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