4時間目 隣り合わせのフラワーガール(2)
旧校舎のトイレの目の前に突如現れた真っ黒焦げな顔は可愛い少女。
自爆と逆恨みと言う恐ろしい武器でこくりを責め、みっちゃんがツッコミで応戦する。
そしてそんな中、みみぽんが自分を助けてくれたこくりとツッコミしたみっちゃんを交互に見て、一拍遅れて驚いた。
「こ、こくりちゃん!? それに、君は確かこくりちゃんのお友達のみつこちゃん……。な、何でこんな所に……っ?」
「話は後です! みみお姉さま、危ないからこっちに!」
驚いて固まってしまっているみみぽんの腕を掴み、みっちゃんが一生懸命引っ張る。
すると、みみぽんは正気に戻って、みっちゃんと一緒にこくりや黒焦げ少女から距離をとった。
そしてその直後に、こくりが“燐火”を黒焦げ少女に放り投げた。
「変態は焼却です」
「そんなもの何度も当たるわ――っあっつ! ああああっつうううううっっ!!」
当たった。
流石はこくり。
見事な投球で真横に曲がるスライダーを決め、デッドボールを繰り出した。
そして、慈悲は無い。
黒焦げの少女は再び燃えて浄化された。
「つまらぬ変態を燃やしてしまいました。です」
恐らく、先週見た大怪盗が主役のアニメの影響だろう。
こくりはそんなセリフを呟きながら、何も持ってないのに刀を鞘に納めるポーズをする。
すると、それを見ていたみみぽんがハッとした顔をしてから、慌てるようにトイレの中に入って行った。
「みみお姉さま……? 慌ててどうしたんだろう……っあ。寺雛井先生は!?」
「いません」
「もしや、先程見えた赤い紐。あれでトイレの中に引きずり込まれたやもしれぬな」
「大変! わたし達も助けないと!」
「わかりました」
二人と一匹は急いでトイレの中に入って、そして、驚く。
「――あれ? みみお姉さまがいない……」
みっちゃんが呟き、トイレの中をキョロキョロと見回す。
しかし、どこにもみみぽんの姿は無く、忽然と姿を消してしまっている。
「美都子、お主はこれ以上この中に入るでない」
「え……?」
「今までで一番高い妖気を感じる。どうやら、さっきの妖は、この妖気の持ち主の配下にすぎなかったみたいじゃな」
「そんな……。じゃあ、みみお姉さまと寺雛井先生は…………?」
「分からぬ。狐栗、ここは一度…………狐栗? あれ? 狐栗やーい」
「え? あれ? こくりちゃん!?」
みっちゃんとお狐さまが話している最中に、こくりまで忽然と姿を消してしまった。
いよいよ本格的に不味い事になってきてしまい、みっちゃんとお狐さまはごくりと息を呑む。
そして、一人と一匹は顔を見合わせて、直後にガチャリと音がした。
「――っひぃ」
みっちゃんが小さく悲鳴を上げて、音の聞こえた方に視線を向ける。
すると、目に映ったのは、さっきまで開いていた筈の個室の扉が閉まっている姿。
それは、最初から閉まっていた真ん中の個室では無く、それより手前にある個室の扉。
みっちゃんの心臓の鼓動が速くなり、自分でも分かる程に大きく鳴る。
そしてその時、その中から声が聞こえた。
「トントントン。花子さんいますかー?」
「――トントン言ってる! こくりちゃん、なんで個室に入ってるの!?」
と、言うわけで、こくりは手前の個室に入ったようだ。
せっかくここまでホラー感満載だったが、それも終わりを迎えてしまった。
最早お口でトントンと5才児のこくりが言ってしまえば、それはホラーでは無くキュートだ。
キュートでは残念ながらホラーのホの字も無い。
みっちゃんが驚きの声を上げると、こくりがガチャリと扉を開けて、ぴょこっと可愛らしく顔だけ出す。
「学園の七不思議の一つ“開かずのトイレ”です」
「それって、旧校舎のトイレが地震で開かなくなったって聞いた事あるよ?」
「それも含めて七不思議です」
「え? あ、うん?」
「こくりは知ってます。トイレには花子さんがいて、呼ぶと出てくるんです。おかっぱ頭で可愛い女の子です。本で見ました」
「そんなだったかな? って、何で花子さん?」
「そうか、分かったぞ!」
首を傾げるみっちゃんとは違い、お狐さまが答えを見つけた。
そして、キリリとした神的な決め顔を見せ、神々しく答える。
「学園の七不思議でトイレと言えば花子さんなのだ。そうだな? こくりよ」
「なるほ――」
「違います」
「――違うんかい!」
「こくり的にはトイレと言えば太郎くんです。なので、答えは花子さんに会ってみたいからです」
「会ってみたいって、それ、ただの願望じゃんか! 最初に言ってた七不思議要素はどこ!?」
見事にみっちゃんのツッコミが連続で決まったその時だ。
真ん中の個室が、突然ガチャリと開かれる。
そして中から、大量の真っ赤な紐と、亀甲縛りにされてしまった者たちが飛び出した。
「きゃあああ! 寺雛井先生とみみお姉さま……っえ!? すじゅお姉さままで!? それに他のお姉さままで!」
みっちゃんが驚いて声を上げると、こくりと同じくらいの歳の見た目の、おかっぱ黒髪で黒色のマスクを付けた幼女が中から現れた。
「さっきから花子花子って、アーシの名前を連呼して煩すぎ。おねーさん達、ひとんちの目の前でギャーギャー騒がないでくれない?」
幼い見た目をしているが、その声は随分と不気味な声で悍ましい。
それは、先程こくりが浄化した少女の妖よりも恐ろしく、本当に目の前の幼女が喋っているのかを疑う程。
そして、悍ましい声を持つおかっぱ黒マスクの幼女は、騒いでいるみっちゃんに視線を向けて睨――――
「え? うそ? マジ? ちょータイプ」
「……え?」
「お姉さまん、アーシと結婚して?」
「ええええええええええええっっ!?」
――みっちゃんはプロポーズされました。




